概要
大衆誌「朝日」に昭和4年1月(創刊号)から翌年2月まで連載した長編小説。作者の江戸川乱歩の他の通俗長編と比べて構成が優れており、長編の代表作に挙げられる事も多い。
白髪の青年が記す身の上話として、男女の恋愛譚から始まり、前半は密室トリックの推理が中心となり、後半は乱歩独特の怪奇幻想趣味が加味された冒険活劇風の物語となる。
乱歩自身の解説に拠ると、森鴎外の随筆に記された一挿話から着想したという(ただし、該当する挿話が実際に見られるのは小説の『ヰタ・セクスアリス』)。
また、その頃に友人と同性愛に関する文献の蒐集を行なっていた影響もあり、同性愛が重要な要素となっている。
漫画化作品に高階良子「ドクターGの島」、長田ノオト「江戸川乱歩の孤島の鬼」がある。また、石井輝男監督映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』は本作を主な原作としている。
あらすじ
私こと蓑浦金之助はまだ三十歳にもならぬのに、髪は見事な白髪である。
私の体験したある恐ろしい出来事の、そのあまりの恐怖のために黒かった髪が一晩にして真っ白になってしまったのだ。
私が25歳の青年の頃、丸の内にオフィスのある貿易商S・K商会につとめていた。
そこでタイピストの可憐な乙女木崎初代と私は恋におちた。
初代は3歳で親に捨てられた。お守り代わりの古い系図帳だけが初代の身元の手がかりだ。
そんな初代に私は婚約を決意するが、家柄も収入も学歴も私より格段に上の男諸戸道雄が初代に突然求婚した。
同性愛者である諸戸は、学生時代の先輩であり、私に想いを寄せている。
私は、諸戸が嫉妬心からわざと初代に求婚したのではないかと疑う。
そんなある日自宅で初代が殺された……
自宅の鍵は全てかけられており侵入の痕跡は見当たらない。
憎い犯人を追うべく私は奇妙な友人の探偵深山木幸吉に依頼した。
さっそく深山木はナゾをつかんだ。と思う間もなく混雑した海水浴場でその深山木も刺殺されてしまう……
余談
「身の上話」の形式を採りながら、主人公の苗字は第三者の噂話の引用という形で初めて明らかになる。名前に至っては本文で言及される事はなく、雑誌連載時の梗概に記載されたものが唯一となっている。