思想
兵法(剣術)の理想として柳生宗矩が提唱した思想で、「本来忌むべき存在である武力も、一人の悪人を殺すために用いることで、万人を救い『活かす』ための手段となる」というもので、戦国時代が終わりを迎えた際、「太平の世における剣術」の存在意義を新たに定義したもの。
また、沢庵和尚の教示した「剣禅一致(剣禅一如)」等の概念も取り込んで、「修身」の手段としての剣術も提唱したことで、それまで主に戦場での一技法に過ぎなかった武術としての剣術を、人間としての高みを目指す武道に昇華される発端となった。
こういった考え方は、日本において古来から無かったわけではないが、これらによってそれがより深いものとなって根付いていくこととなり、大きく広まっていき、剣術のみならず、柔術や槍術など、江戸時代武道各派に影響を与え、その理念は後に近代の剣道にまで受け継がれる。
実戦面では直接的な技法だけではなく「心法」の重要性が説かれ、これは観念的なものではなく、現代で言うメンタルトレーニング的な面が強く、相手の動きや心理の洞察、それを踏まえた様々な駆け引きや、いかなる状況においても自身の実力を完全に発揮できる心理状態への到達・維持など、実戦におけ る心理的な要素を極めることで、より高みに達することを目指したものであり、その心の鍛錬のための手段として、上述にもある禅の修行が有効であるとしている。
これについて、技法を軽んじ心法に偏重し過ぎていると批判する意見もあるが、それに対し“技法を完全に修めた上で、これを自在に扱うためのものとしての心法である”と宗矩は説いている。