概要
大乗仏教の法門の一つ。
インドの高僧・達磨大師を祖とし中国で成立、朝鮮、ベトナム、日本へと伝わったとされるが、達磨大師が何者か不明であるため実際には仏教に中国思想が入って成立したものではないかと推測されている。
とはいえ一応、禅の大本は釈迦如来ということになっており禅宗では達磨大師はその法灯を伝えてきた師の一人(二十八人目)、という位置づけである。
経典や仏像よりも言葉(口伝)や芸術などで伝えていくことを重んじ、とくに「坐禅」による修行を重要視している。したがってこうやって書いて伝わるものではないということにある。
が、フリーダムというわけではなく、鎌倉仏教には無戒派が多いのに対し禅は大乗の戒律を非常に堅持する。
この思想系統の宗派を「禅宗」と分類しているが、禅宗といってもいろいろ派閥があるのでまとめて一緒扱いは困るという声もある。
密教と並び師と弟子の繋がりが硬く、修行の際に陥ってはならない精神状態(魔境)も厳格で強く戒められている。
「仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺せ」といった強烈な言葉も師と弟子の関係性、弟子のレベルを前提に、悟りへの気づきを与える方便として用いられている。
唐朝の中国で普及した禅宗は宋朝にはいくつもの宗派に分派し発展したが、明朝には衰退した。
日本には鎌倉時代において本格的に伝えられ、栄西の臨済宗や道元の曹洞宗が有名だが、実はそれ以前に最澄が開いた天台宗でも思想の一つに取り入れられている。
精神統一の効果がある、文字が読めなくてもOKなどの点から武士に好まれ、武士道、日本武道に大きな影響を与えた思想となっている。
室町時代には幕府の庇護の下に発展し、様々な芸術や文化にも影響を与え、千利休、雪舟、一休宗純などの著名人を排出した。
ベトナムにも伝来し、文化の形成に大きな影響を与えており、現在のベトナム仏教は臨済宗の禅と浄土教の色彩が濃く、『浄土禅』と呼ばれる。
他の法門の要素とセットになる例は他にもあり、日本では天台宗でない禅僧のあいだでも密教との併修(禅密兼修)が珍しくなかった。現在に至るまで各禅系宗派の勤行では密教経典由来の陀羅尼が唱えられている。
戦後、『近代日本最大の仏教学者』と呼ばれた鈴木大拙が、禅に関する著書を英訳したことなどにより、日本の禅文化は海外にまで広くしらしめ、世界中にも禅の考えが知られている。
あのスティーブ・ジョブズも日本の禅に強い関心を抱いて、実践もしていた。
日本禅は今やチベット仏教や上座部仏教(テーラワーダ)と並び、世界的に普及をみせている仏教の法門である。
武道との結びつき
中国拳法の一つ少林拳発祥の地嵩山少林寺は禅寺であり、達磨大師がここで修行したという伝承を持つ。少林拳からは達尊拳(達磨拳)が分岐した。
日本でも武士のあいだで禅が重用されたことで、臨済宗の沢庵和尚の「不動智神妙録」において「剣禅一如」が説かれ、この思想は剣聖柳生宗矩に伝授された。
これを武器を持たない格闘技に置き換えた「拳禅一如」の言葉もあり、少林寺拳法では重要なキーワードとなっている。
弓道との繋がりも深い。弓聖・阿波研造は弓を弾く秘訣として「禅」を用いた。阿波は弓と禅を(今までは神道や儒教、真言仏教の教えが強かった)。ドイツ人哲学者・オイゲン・ヘンリルは阿波に師事し、日本の禅を探ろうとした。血の滲む修行の末、ついに免状を阿波から渡されたヘンリルは、のちに『弓と禅』を著する。
これはヨーロッパでベストセラーとなり、禅が世界へ広まるキッカケになった。スティーブ・ジョブズが禅の魅力を知ったのは、この本に依るところが大きい。