概要
スズキの製造している軽ハッチバック(軽セダン・軽ボンネットバン)である。1979年から製造・発売が行われている。現在は軽トールワゴンのワゴンRにその座を譲った感はあるものの、依然として同社の看板車種の一つである。
歴代
初代SS30V/40V型
(1979年 - 1984年)
軽乗用車フロンテの商用版姉妹車。乗用を意識した商用車のはしりで、日常的には大人二人乗れれば十分と言う割り切りがあったと言う。
スズキは低排出ガスエンジンの開発に難航し、ダイハツから4ストロークエンジンを購入するという苦境に追い込まれていたが、規制の緩い軽ボンバンとすることで自社生産の2ストロークエンジン(T5B)を搭載が可能になった。併せてベースのフロンテから徹底したコストダウンを図り、全国一律の定価47万円という低価格化を実現した。
アルト売り上げによる収益で、スズキは4ストロークエンジン工場への投資に取り組み、アルトも1981年から順次4ストローク3気筒エンジンに切り替えられた。
2代目 CA71V/72V / CC71V/72V型
(1984年 - 1988年)
軽ボンバンとしては初の5ドア車を設定。アルトワークスの登場もこの代から。
3代目 CL11V/21V/22V/CM11V/21V/22V/CN11S/21S/CR22S/CP11S/21S/CS22S型
(1988年 - 1994年)
フロンテをアルトに統合し、5ナンバーを設定。乗用とバンのそれぞれに3ドアと5ドアを設定したほか、先代以来の「ワークス」をはじめ、初のフルゴネット車「ハッスル」やスライドドア「スライドスリム」など最も多くのバリエーションが生まれた代でもある。
1990年3月に軽自動車規格の660cc化を受けてエンジンをF6A型へ変更、前後バンパーも大型化して新規格に対応する大型マイナーチェンジを受ける。
スライドスリム
3代目に用意されたスライドドア仕様車。
トヨタ・ポルテやプジョー・1007の登場する遙か昔に存在していたことは特筆に値するだろう。
スライドドア故狭い場所での乗降に有利で、価格的にも標準ドア車とほとんど差はなかった・・・のだが、全く売れなかった。
では、何故スライドスリムが希少な一代限りになってしまったのかと言うと・・・
こういうことである。
平凡キャラのアルトだからと安心してはいけなかった。やっぱりスズキは変態なのである(違
・・・というわけで、ユーザーがミニスカ着用時のパンチラを懸念したためと言う説がある。
あとは、当時のスライドドア車全般の問題点として勾配のある路面に駐車した際の扱いにくさ(勝手に開いてしまうor閉じてしまう、あるいは電動でないため開閉が困難など)も考えられる。
4代目 HA11S/21S/HB11S/21S/HC11V/HD11V型
(1994年 - 1998年)
旧規格660cc最後のモデル。先代と同じくかなりの売り上げではあったが、ワゴンRの影響によって影が薄くなってしまった。
5代目 HA12S/22S/23S型/12V/23V型
(1998年 - 2005年)
軽自動車規格改正と共にフルモデルチェンジ。3ドア車の設定はこの代が最後で、この型のバンは車重が特に軽量であることから改造ベースとしてよく用いられる。乗用モデルは2004年に次代のHA24Sに交代されたが、バンのみ2005年まで生産された。
さて、スズキ車と言えば変態な事で有名だが・・・
この代では、あるとんでもないグレード設定が行われていた。
- リアガラスの熱線がない。
- ナビシート側のドア開閉センサーが省かれている。つまり開けてもルームランプが光らない。
- さらに、前期型にはキャブレター仕様もあった。
もう一度言うが、これは新規格車である。
つまり、ほぼ21世紀のモデルである。
いくらコストダウンって言っても21世紀にこれはやりすぎでしょう、オサムちゃん・・・。
それでも内装はプラスチックのトリムが施されてはいる。先代のHC11V/HD11Vは初代以来の伝統でドアにベニヤ板とビニールを貼っただけの仕様があったので、これでもだいぶ現代のクルマらしくはなっているのである。
6代目 HA24S/24V型
(2004年 - 2009年)
軽トールワゴンの隆盛を意識してか、車高が1500mmになり先代より5cmほど上がり、車内が広々とした。また、内装がピラー部も含めてフルトリムになり、質感や快適性も向上している。
3ドア車や2シーター、エアコン・パワステ無しの仕様が廃止されるなど、ラインアップが簡略化された。
この代は日産自動車へ「PINO」の名称でOEM供給されている。
7代目 HA25S/25V/35S型
(2009年 - 2014年)
空力に配慮した丸みを帯びたボディスタイルが特徴。
車高がさらに上がり、立体駐車場に入るギリギリの最大1545mm(4WD)と、セミトールワゴンと見まがうような高さになっている。AT車は全車4速になり燃費低減をはかったほか、「燃費スペシャル」というべきグレード、アルトエコが登場している。
アルト・エコ
やっぱりいつの時代もスズキとダイハツ、アルトとミラは永遠のライバルなのである。
多少パワーは犠牲(52ps。標準車より2psダウン)になるが、低回転型になっている上にトルクの減少はなく軽量化も図られた(下記グレード間では760kg→740kgと20kgも差が出ている)ので差は出にくいと思われる。
価格・装備面では通常のアルトと全く差がないといえるので燃費分お得とも言えそうだ。
例えば本体価格の予算が100万だった場合、リアシートの左右独立フォールディングが欲しければ102万の標準車(X)、フォールディングが左右独立でなくてもいいなら低燃費・低価格な99.5万のエコ(L)・・・と言うことになる。
軽量化の裏技としてガソリンタンクが小型化(標準車の30Lに対し、エコが20L)されているので要注意(元々スズキはエコドライブ・軽量化の一環として給油を必要最小限にすることを提唱していたからねぇ・・・)。
2014年12月に(現行)8代目に移行した際に廃止された。まぁ8代目は設計を見直した結果、ガソリンタンク27Lでも燃費1L30キロ以上(悪くても1L25キロは走れるそうで)マークする、というからねえ・・・・・・。
8代目 HA36S/36V型
(2014年 - )
現行モデル。詳細はHA36を参照。
OEM・海外生産
日本国内向けのOEM車としては標準車に対しマツダ・キャロルや日産・ピノが、ラパンに対しマツダ・スピアーノがある。
また海外生産車としては3代目ベースの韓国・デーヴ国民車(現・韓国GM)の「ティコ(Tico、生産終了)」や現在インドで製造・販売されている2代目ベースの「マルチ・800」などがある。
トリビア
- 先述のように、今日の軽自動車における出力自主規制値・64psもアルトのそれが元となって決められている。(その当時最もパワーがあった軽四がワークスの64psであった。)
- 基本的に3代目(ワークスとしては2代目)以降は乗用車登録であったワークスだが、「ワークスR」(ランエボRSのような競技ベースグレード)はその徹底した軽量化とモアパワーを狙い4ナンバー登録となっている。
- 2012年に登場したアルトエコだが、標準車より15mmシャコタン(最低地上高は10mmダウン)である。理由は空気抵抗低減。
- 消耗部品の基本設計がほとんど変わっていないこと(さらにワゴンRのプラットフォームはアルトのそれを流用している)から、同年式の他メーカー車に比べ現在でもメーカーにパーツがあることが多い。
- 現在、チューニングパーツの販売はスズキスポーツからモンスタースポーツ(パイクスピークのモンスター田嶋で有名)に移行している。
- エアロとターボエンジン搭載ばかりに目を向けられる『ワークス』だが、ステアリングのロックトゥロック値変更やシフトストローク変更、ナックルのブレーキキャリパー取り付けピッチ変更等、中々に細かな気配りがなされていた。