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ソドム百二十日の編集履歴

2021-06-15 15:01:45 バージョン

ソドム百二十日

そどむひゃくにじゅうにち

「サディスト」の語源となったマルキ・ド・サド(1740年6月2日 - 1814年12月2日)による小説(草稿)。過激かつ卑猥な内容のため、カトリック世界では長く「禁書」指定であったが、フロイトなどの精神医学者や私文学(小説)世界に大きな影響を与えた。

正式な題名は「ソドム百二十日あるいは淫蕩学校」

(仏語-Les Cent Vingt Journées de Sodome ou l’École du libertinage)


マルキ・ド・サド(サド侯爵)により記述された小説というよりは文章(草稿)である。

この草稿は、サドがフランス革命が起きる直前、娼婦に対する虐待、毒殺未遂の咎で収監されていたバスティーユにおいて執筆された。没収を免れる為、継ぎ合わせて12mもの長さになる巻紙の両面に、びっしりと細かい字で書かれていた。

しかし即席のメガホンを作り、窓から市民に向けて革命を叫んだ彼はシャラントン精神病院に強制転院させられてしまい、草稿は彼の手元から失われてしまった。この際、彼は「血の涙を流した」と手紙に書いている。

このような状況では記憶を元に作品の復元を試みる可能性も考えられるが、結局サドはそれを行わなかった。1801年の逮捕後は死ぬまで監獄、精神病院を出られず、たびたび問題行動を起こしていた為に執筆の機会を物理的に潰されていた(大作「フロルベルの日々Les Journées de Florbelle」押収・焼却処分など)というのが大きな理由である。

また他の理由として「自分の想像力を超えたものを表現することが出来なかったため復元を断念した」「あまりの執筆量の膨大さにどうしようもなくなった」「牢獄の中で行ったエロ妄想をわざわざ復元する必要は無い」といったものが挙げられる。


その後、草稿はバスティーユのサドの部屋から見つかり、ある好事家の手に渡った事で消失を免れ、転写によって製本されてたびたび流布した。しかしその内容の過激さ、神や法律への冒涜的表現などを理由に禁書指定され、20世紀に入るまでその禁令はとかれなかった。

この草稿が一般公開されたのは、2004年になってからのことである。


作品に関する色々

この作品には様々な評価が下されている。「性的趣向の科学的分類」「不潔な/道徳的なポルノ」「人間の性善の風刺的回答」「究極的なピカレスクロマン」など。

なお、日本にこの作品を紹介したのは澁澤龍彦である。

邦訳では澁澤龍彦による序章の抄訳、佐藤晴夫による完訳の2種類が存在する。迂遠かつ古めかしい言い回しが特徴の澁澤版、直接的な表現ながら完訳を行った佐藤版、どちらを手にするかは読者次第。


ストーリー

序章において登場人物の説明や経緯が紹介され、その後第1部~第4部へと続く。

  • 序章

時はルイ14世治世のフランス王国。悪徳の徴税請負人・デュルセ、サディスティクなブランジ公爵、淫猥かつ不潔なキュルヴァル法院長、男色好みの司教の「4人の権力者」が主人公である。

デュルセ、公爵、法院長の3人は、自分の娘を互いの妻とし、また妻帯が禁じられた司教が密かに公爵の妻に産ませた不義の娘をこれに加え、4人の共有とする約束を結ぶ。同時に彼らは男色関係を結び、日々を退廃した放蕩に費やしていた。

やがて公爵の発案で、人里離れた館にて自分の快楽悦楽を満たすための理想郷を作り上げるという計画が立ち上がる。フランス中から美少年美少女を誘拐し、さらにその中から選りすぐりの8名、計16名を奴隷として召し使わせる。またそれと同時に、快楽の相手となる様々な人物が集められる。

そうして集められた計46名の人物は、スイス国境のシュバルツバルト(黒い森)のシリング城に120日間閉じ込められる。以後、「4人の権力者」による『規則正しい卑猥に満ちた日常生活』の記述が続く。

  • 第一部

第一部は日記風の体裁を取って書かれており、最も描写が細かい。

語り女によって語られる物語は「単純な快楽」。4人の権力者は夕食の後、なぶりもの達と共に物語を楽しみ、催せば気に入った者を使って快楽を得る。4人の権力者や語り女による「悪の哲学」に基づいた独自の持論が大半を占めており、意外にもなぶりものの苦悩や苦痛は描写が薄く、具体的な行為についても濁した表現が用いられる。

また少年少女の純潔は、ある時期が来るまで手をつけてはならないという決まり事が設けられている。

  • 第二部~第三部

第二部以降の描写は、単純に日付と箇条書きで表されている。第二部は「複数の間で行われる快楽」第三部は「犯罪に関する快楽」の物語が語られる。

少年愛同性愛スカトロアナルセックスなどについて語られる一方、少年少女を「結婚」させ、決められた日に決められた権力者が純潔を奪うという儀式が繰り返される。具体的な描写はほとんどないが、それがかえって想像力を掻き立てる事にも繋がっている。

  • 第四部

第四部は引き続き、日付と箇条書きで構成。語られる物語は「殺人に関する快楽」となり、ここから一気に物語は血腥くなっていく。

特に犠牲となるのは4人の妻(娘)であり、中でも妊娠した妻に対する処刑は最後のお楽しみとなっている。それまで寵愛を受けていた少年少女が次々と犠牲になり、犠牲の対象になる事のなかった者も4人の権力者の気まぐれで覆されていく事になる。

拷問の描写は、ここでは一転して極めて具体的になっている。しかし内容は破綻しているものも多く、設定の齟齬や後付けが見られ、到底現実では起こりえないような出来事が描かれている。


登場人物

  • 「4人の権力者」……物語における絶対的な権威であり支配者。
    • ブランジ公爵……4人の中でも最も暴虐な男。財産目当てに3人の妻を娶り、父と妹も含めて殺害した。巨躯、怪力、有り余る精力の持ち主。何かと高説をぶつが、実は小心者。
    • 司教……公爵の弟。公爵をより貧相にしたような男で、陰険な性格。妻帯は出来ないが、公爵の3番目の妻を情婦にしていた。好みは男色で、特に受ける事を好む。
    • キュルヴァル法院長……最年長。骸骨のような男。きわめて不潔な趣味の持ち主で、尻を拭くこともせず、悪臭芬々といった有様。何よりも宗教を嫌っている。
    • デュルセ……徴税請負人。公爵の学友で、長らく男色相手を務めていた。小太りで女のような体つきだが、道具は残念な仕様。

  • 「4人の妻(娘)」……権力者の娘にして妻。なぶりものの中で最も悲惨な目に合わされる。
    • コンスタンス……デュルセの娘、公爵の妻。22歳。大柄な美人。美徳の持ち主で、夫の暴力によって痛めつけられている。物語の途中で妊娠が発覚し、非常な苦しみを味わう事となる。
    • アデライド……キュルヴァルの娘、デュルセの妻。20歳。華奢な美人。心優しく敬虔な信仰を持っており、この地獄のような状況も神の与えたもうた試練と信じて耐え続ける。
    • ジュリー……公爵の娘、キュルヴァルの妻。24歳。グラマラスな美女だがだらしなく、道徳心に欠けている。夫のお気に入りだが、本人はまともな感性の持ち主なので嫌がっている。
    • アリーヌ……公爵の娘、実際は司教の娘。ジュリーの異母妹。18歳。子供っぽいが十分美人。無学文盲、怠惰な性格。夫達を怖がっている。館に行くまでは処女だった。

  • 「4人の語り女」……それぞれ150、計600の物語を聞かせる女。娼婦から身を起こし、女衒や売春宿の切り盛りをする道楽者。
    • デュクロ……48歳。まだ十分に色香を残している。上品な物腰だが無感動で、どのような事でも涙を流した事がない冷酷な性格。才知に長けており、公爵のお気に入り。
    • シャンヴィル……50歳。大柄な女で同性愛を好む。体つきには魅力はないが、女を喜ばせる技は一級。娼婦だったにも関わらず後ろは生娘のままだった。
    • マルテーヌ……52歳。太っちょで見事な尻の持ち主。生来の奇形で膣が塞がっており、後ろを使った快楽しか味わえない。それ故、どれほど乱暴に扱われても苦にしない。
    • デグランジ……56歳。陰惨な目つきで、生きた骸骨のよう。かつては美人だったが放蕩の果てに体中に傷を負っている。あらゆる罪を犯しており、それ故に第四の語り女として選ばれた。

  • 「4人の召使女」……4人の権力者の退廃趣味を満たす一方、少年少女の監督をする為に選ばれた老婆。病に侵され、悍ましい疾患を抱えている。
    • マリー……58歳の元山賊の召使。14人の子供を産んだが、全員殺してしまった。
    • ルイゾン……60歳のせむし女。性悪でどのような悪事も平然とやってのける。
    • テレーズ……62歳の大柄な女。極めて不潔で、近づくものを昏倒させかねない程に臭い。
    • ファンション……69歳の蝦蟇めいた女。四六時中酔っ払い、行く先々で吐いたり粗相する。

  • 「8人の絶倫男(強蔵、馬蔵とも)」……道具の立派な青年。4人の権力者の「女」を満足させる。4人のみ名前がついている。
    • エルキュール……ギリシアの神のような美貌と巨大な道具の持ち主。公爵のお気に入りで、才知に富んでいる悪人。
    • アンティノス……ハドリアヌス帝の稚児の名を与えられた美青年。美しい尻をしている。
    • 尻裂き……奇形めいた巨大な道具の持ち主。貫いた相手を文字通り傷つけるが、荒んだ放蕩者には必要な存在。
    • 天突き……顔は醜いが、他の馬蔵がどれほど疲れても驚異的な回復力を見せる男。道具は四六時中天を向いている。

  • 「8人の少女」……フランス中から誘拐されてきた娘130人から選ばれた犠牲者。高貴な生まれかついずれも劣らぬ美少女。選ばれなかったものは4人の遊蕩の犠牲になり、女衒に下げ渡された。
    • オーギュスティーヌ……さる男爵の令嬢。15歳。上品で明るく可愛らしい。公爵のお気に入り。
    • ファニー……高等法院参事官の娘。14歳。素直な性格で優しい容姿。
    • ゼルミール……さる伯爵の娘。15際。気品ある顔立ち。翌年には結婚を控えていた。
    • ソフィー……地方貴族の娘。14歳。誘拐される時に目の前で母親を殺された。敬虔な性格で、アデライドと励まし合う。
    • コロンブ……高等法院参事官の娘。13歳。若々しく愛らしい。
    • エベ……騎兵大尉の娘。12歳の最年少。金に目のくらんだ修道女の手引きで修道院から連れ去られた。
    • ロゼット……国王代理官の娘。13歳。母親の自宅で泥棒を装った人さらいに誘拐された。
    • ミミ……ミシェットとも。セナンジュ侯爵の娘。12歳の最年少。

  • 「8人の少年」……少女同様に集められた150人から選ばれた犠牲者。高貴な生まれかついずれ劣らぬ美少年。選ばれなかったものは4人の遊蕩の犠牲になり、奴隷として売り飛ばされた。
    • ゼラミール……貴族の息子。13歳。母親に会いに行く途中で誘拐された。
    • キュピドン……貴族の息子。13歳。散歩の途中で友人ともども誘拐された。
    • ナルシス……マルタ騎士団の小姓。12歳。中学に通う途中で誘拐された。
    • ゼフィール……将官の息子。15歳。以前から公爵が執心していた美少年。公爵に媚を売って取り入るが……
    • セラドン……司法官の息子。14歳。後にソフィーと愛し合うようになる。
    • アドニス……高等法院議長の息子。15歳。キュルヴァルが執心している。
    • イヤサント……退役士官の息子。14歳。一人で狩りを楽しんでいて誘拐された。
    • ジトン……ヴェルサイユ宮殿の小姓。13歳。司教が執心している。

  • 「3人の手伝女」「3人の料理女」……遊蕩には直接関わらず、食事や力仕事を担当する。

ソドムの市

イタリアの映画監督、ピエル・パオロ・パゾリーニは、この本を題材として1976年に『ソドムの市』を制作した。

舞台は第二次世界大戦末期のイタリア・サロ共和国に変わり、登場人物も大幅に変わっているが本筋は大体同じ。必ずしも全ての点において原作に忠実というわけではないが、限界があったのかもしれない。

この映画はスカトロ重視な部分が非常に多く、見るものをおおいに選ぶ。劇中で登場する排泄物はチョコレートを使って撮影したそうだが、それでもキツいものはキツい。また作中に登場する青年女性はほぼ全裸である。


しかし翌年、パゾリーニは映画に出演した俳優によって殺害されてしまう。激しく殴打された上に念入りで車で轢殺するという、強い怨恨が滲む殺され方だった。後に出頭した容疑者は『同性の性的行為を強制された』事を理由として挙げたが、疑問点が多い。

結局捜査はそこで終了。2005年に容疑者が「パゾリーニを殺害したのはファシストで、自分は脅迫されて偽の証言を行った」と証言しているが、真相は闇の中である。


過激な内容は言うに及ばず、作中で悪役とされたファシストによって強い反発を食らい、各地で上映禁止が相次いだ。ただし近年になり、映画の根底にある政治的風刺などから再評価されるようになっている。


外部リンク

wikipediaの該当項目 おそらくこれ(Wikiソースフランス語版)

注意決して読みやすい小説ではないですよ。


関連タグ

小説 海外文学 マルキ・ド・サド

















ネタバレ


























登場人物46人のうち、120日を経てパリに帰還できたのは16人だけである。

10人は語り女が最後の物語を語り終える日までに拷問により死亡し、残る20人も1日に1~2人ずつの割合で拷問の末に殺されている。生き残りの内訳は以下の通り。


公爵、デュクロ、エルキュール、料理女

司教、シャンヴィル、アンティノス、料理女

法院長、マルテーヌ、尻裂き、ジュリー

デュルセ、デグランジ、天突き、料理女


ジュリーは4人の望み通り従順に振る舞った事で、3人の料理女はその腕前に免じて助命されている。


最後にサドはこう述べている。


「残る彼らの末路については、読者の好きに想像していただいて結構です。」

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