概要
スラヴァ級ミサイル巡洋艦(Ракетный Крейсер Типа<<Слава>>)は、ソ連海軍およびロシア海軍の巡洋艦のクラス。ロシアでの正式名は1164計画型ロケット巡洋艦で、計画名『アトラーント』。カーラ級巡洋艦をベースに超音速対艦ミサイルを装備するなど対水上戦闘を重視した艦級である。NATOコードネームは「クラシナ級」で、1番艦がスラヴァであることが判明するまで使われていた。1番艦の艦名は『栄光』を意味し、ソ連崩壊後1番艦の艦名が変更された現在でも「スラヴァ級」の名称は踏襲されている。
来歴
1960年~70年ごろ、ソ連海軍は対潜作戦を重視した艦を建造していたが、仮想敵であるアメリカ海軍空母機動部隊の脅威が高まったことを背景に、対艦攻撃能力に優れた水上戦闘艦を必要とするようになった。そこで、当時大型対潜艦として建造されていたカーラ級を基礎とし、対潜ミサイルに変わり、重対艦ミサイルを搭載するよう設計されたのがスラヴァ級である。優れた対艦・対空戦闘能力を持っており、空母機動部隊と対抗するための主戦力として認識されていた。ソ連崩壊後もその性能を買われ、旗艦として運用されることが多い。近代化改装が予定されており、しばらくの間は現役であると思われる。
スラヴァ/モスクワ
1979年進水、1982年就役。黒海艦隊所属。1995年にモスクワへと改称。
ソ連崩壊時はオーバーホール中だったため、ロシアとウクライナのどちらの所属かで揉めたが、ロシア所属でまとまり2000年再就役した。以降黒海艦隊旗艦となっていた。
2022年のウクライナ侵攻で4月14日火災が発生し、曳航中に転覆沈没した。
ウクライナは対艦ミサイルの命中を主張し、ロシアは艦内火災を主張している。
いずれにしても21世紀で戦争中に巡洋艦が沈没したのは初、1982年のフォークランド紛争以来となる。戦後に設計された艦艇が戦争中に沈没するのも実はモスクワが初めて(フォークランド紛争で撃沈されたのは太平洋戦争時に設計された艦艇の中古品)。
実は侵攻初日にウクライナのズミイヌイ島守備隊に降伏を要求するも「ロシアの軍艦よ、くたばれ」と返されており(後にウクライナ軍が守備隊は捕虜となるものの無事だったことを確認している)、記念切手や封筒も発行された(沈没後は絵柄からモスクワが消されたり、「完了」のマークが追加されたりしている。封筒は沈没後の発行で、消印も沈むモスクワになっている)。
マーシャル・ウスチーノフ
2番艦。北方艦隊所属。艦名はソ連国防大臣のドミトリー・ウスチーノフから。
1982年進水、1987年竣工。起工時の名前は「アドミラル・フロタ・ロボフ」(ソ連共産党のセミョーン・ロボフに由来)だったが、竣工直後にマーシャル・ウスチーノフに改称された。その名前は4番艦に譲られたが、結局別の名前になったので日の目は見なかった。
2013年から近代化改修が行われ三次元レーダーが換装されているが、他の艦には波及していない。
ヴァリャーク
3番艦。太平洋艦隊旗艦。
1983年進水、1989年竣工。起工時の名前は「チェルヴォーナ・ウクライーナ」(赤いウクライナ)で、ソ連崩壊後はウクライナが独立したことやいろいろと問題がある名前だったことから、中国に渡り遼寧となるヴァリャーグの名前を引き継ぐ形で1995年改称。
マーシャル・ウスチーノフ同様の近代化改修が予定されているものの、現在まで改修は確認されていない。
ウクライナ
4番艦。1984年に起工され1990年進水したものの、その直後にソ連が崩壊してしまい、途中で建造が中止された。
当初の名前は「コムソモーレツ」(コムソドール団員の意)だったが、1985年に「アドミラル・フロタ・ロボフ」に改称。その後、1998年ウクライナに譲渡された際、現在の名称となっている。
ウクライナは2001年に就役させるつもりだったが予算不足で完成度95%で放置状態に。ロシアへの売却も2014年のクリミア侵攻で立ち消えとなり、現在もウクライナで係留されたままである。
設計
カーラ級を基本として、これを拡大させた上で、最高速度マッハ2.4・射程500kmを誇る大型対艦ミサイル「バザーリト(後に射程延長型の「ヴルガーン」に換装)」や、高性能なフォールト防空システムを搭載している。一方で対潜ミサイルは搭載しておらず、対潜能力はロシア艦としては高くない。機関にはガスタービンエンジンを採用しており、最高速力は32ノット。ただガスタービンに加え補助蒸気ボイラーを搭載した複雑なシステムを構築しており、整備性に問題があるという。