概要
オープンリールとは、カートリッジ(カセット)に収められていないむき出しでリール巻きにされている磁気記録テープ全般を指す。
光学フィルムである銀塩ムービーフィルムもオープンリールと言えるが、映写時にカートリッジに収められている形態のもの(撮影時は不作為の露光を防ぐためにカートリッジに収められている形態も多い)は限定的かつ(家庭向けの8ミリよりもさらに)簡素なものしかないため、通常こうは呼ばれない。
当然VTRにもオープンリール方式とカセット式(家庭用として大成したVHS、β、Video8はこれ。 ……うっせぇなベータは割りと成功した方なんだよ他の有象無象と比べれば)がある。
しかし、現代日本において通常、「オープンリール」と称すると大抵はオーディオ用磁気記録テープのそれを指すため、本項についてはこれを主に解説する。
ハイエンドオーディオだった「オープンリール」。
コンパクトカセット(カセットテープ)登場以前における録音メディアの主流規格である。1950年代におおよその原型が完成し、1960年代からカセットテープが普及する1970年代後半までひろく利用されていた。
カセットテープ登場後も、コンパクトカセットは記録面に対しての記録密度を上げるため、幅面積が狭いだけではなくテープ走行速度もオープンリールよりはるかに遅かった。
これは、磁気テープヘッドは記録時に記録の「波」がヘッドのギャップによってテープに記録されるが、あまりにテープ状の波が「険しい」場合、再生時にヘッドのギャップで拾えない為、再生されない。この為、そこが記録できる波の限界(ダイナミックレンジ)となる。これをできるだけ無くすためには、テープの走行速度を上げることで実際にテープに記録される「波」を緩やかにする必要がある。
コンパクトカセットは当初、本格的な音楽の記録・再生よりも日常会話の記録や音楽練習用などを想定した簡便な規格だったため、この点ではオープンリールよりも数段劣った。
なので、ピュアオーディオ愛好家にとっては「カセットは邪道」であり、「本物を聞く・録る」為にはオープンリールが至高だと考えられていた。まぁ本来ならレコードで聞くものだけどな。
アンリツが戦前に特許を取った高周波バイアス法(その後ソニーとNECで権利取得)とAC消去で日本のテープレコーダ産業が舶来品の輸入阻止と産業化に役立った。(DCバイアスでは再生時の音がよくないが残念ながらいま入手可能なラジカセはコストダウンIC化の弊害でDCバイアスになっている)
しかし、音楽の頒布方法が限られていたこの時代、コンパクトカセットが普及すると、ポータブル録再機をテレビに近づけたり、マイクからスピーカー越しに録音するなどした歌番組やアニソンでも、音質的にはとても褒められたものではないが、エンドユーザーが楽しむには充分……というか、多くの一般庶民にはこの手段しかなかった。
黎明期
磁気録音はこの前より試されており、欧米では一般にも商品化された。
鋼帯録音機 英国で開発 1970年ころまでBBCで使用された。(重く切断した時の安全性に難があった)
ワイヤーレコーダー 極細の針金を使用 切断防止のため巻取り側のリールを上下に動かしたが、やはり切断しその部分はスチールウールになりその部分の記録は失われた。
このためカッティングできるレコードを録音機として使用した。(日本では玉音盤、戦後のロシアでは欧米楽曲のレコードの販売が禁止されたため肋骨レコード(レントゲンフィルムをカッティングシートにしたもの)が記録媒体になった。(日本の一般用ではリオノコーダー(リオン(株))が商品化。)
テープではないが磁気シートが塗られ容易に録音できたものに マグナファックス(松下電器、ビクター)マイティーチャー(リコー)、シンクロリーダ(キャノン) は教育用に普及させた。(録音可能だがDCバイアス、録音時間は4分(マイティーチャー)だった。)
ラボの英語教材はカートリッジの広幅磁気テープだった。
その後
しかし、オープンリールは1970年までには現在のシステムが完成してしまい、それ以降は規格の濫立を恐れて発展が止まってしまった。それに対し、カセットテープは当時、「これからの」メディアだった。
実際、オープンリールの技術開発の方針には正当性もあり、対抗するカセットテープは品質をオープンリール並みにした「エルカセット」や「8トラ」を開発するが、手軽さでコンパクトカセットに、音質でオープンリールに勝てず短命や限定された用途で終わった。
だが、ここから唯一の残された選択肢、コンパクトカセットの猛追が始まる。
『カセット・デンスケ』
1967年にコンパクトカセットもステレオトラック化されるが、所詮細いテープを更に細く区切った形であり、この時点ではオープンリール愛好家はせせら笑う程度の存在だった。
ところが、ここから話が変わってくる。ソニーが1973年にTC-2850SD『カセット・デンスケ』を発売する。ソニーの可搬型テープレコーダー『デンスケ』は、「現場のリアルな音を精密に記録する」ことを目的とした商品で、ポータブルな構造に反して高性能を要求されるプロ・ハイアマチュア向け高級機だった。
デンスケ(動力はゼンマイで真空管使用) カセットデンスケの例
当然、1959年の商標登録以来小型とは言えオープンリールテープの製品で、またオープンリール愛好家にとってそうでなくてはならなかった。
それが突然、コンパクトカセットへ移行してしまった。これはソニーが完全に規格が固定化されてしまったオープンリールからフロンティアであるコンパクトカセットへと一気にシフトしたことを意味した。
カセットの躍進に追われるオープンリール
『カセット・デンスケ』の登場以降、ハイポジテープ(TYPE-2)の登場、高精度ヘッドによる実効ダイナミックレンジの拡大、メタルテープ(TYPE-4)の登場などコンパクトカセットは技術の飛躍的な発展の恩恵を受けて、一気に高性能化、ハイファイオーディオのメディアとしても認められる存在になり、一気に飛躍していく。
一方、プロですらカセットテープを使い始めたこの時期、オープンリールは一般向け市場があまりに小さく、冒険的な性能向上の為の技術開発は避ける傾向にあった。オープンリールの品質向上は、「コンパクトカセット技術の応用」か「コンパクトカセットに転用することを見越して(普通、精密機器は大きいものをつくる方が簡単なため)」と完全に「主従の従」になってしまっていた。
1978年、ソニーから伝説の初代『WALKMAN』 TPS-L2が発売される。それまでの可搬性を優先したポータブル機とは異なり、サイズが小さいだけではなく、品質においても録音機能と引き換えに高品質ステレオヘッドホンを前提とした高音質を実現した。
コンパクトカセットは「オープンリールではできなかったこと」を「オープンリールと同等かそれ以上の品質で」実現していった。
オープンリールもAKAIやTEACの主導のもと、TDK、Maxellのテープメーカと共同でEE(カセットのType2相当)の商品化を行ったが SONYやTecnicsといった主導権を持っていたメーカーが賛同しなかったため次第にフェードアウトしてしまった。VHS-HiFiがF特や使い勝手の面で取って変えられてしまった。
決着、そして終焉へ
1981年、DOLBYが開発した「ドルビーノイズリダクション Cタイプ」を搭載したコンパクトカセットデッキが発売された。一方、オープンリールはこの前の世代のBタイプまでは採用されたが、精密極まりないCタイプは、かえってカセットハーフががっちりとホールドしてくれているコンパクトカセットよりも採用が難しく、加えてただでさえ高額なデッキを更に高価にしてしまうため、ついに採用されなかった。
勝負あった。
以降はピュアオーディオ用磁気音楽テープとしてもコンパクトカセットがその頂点に位置するようになり、オープンリールは「ピュアオーディオの最上位」から「懐古主義的コレクションアイテム」へと、つまり、急速に“過去のもの”となっていった。
皮肉なその後、現在
しかし、最盛期を考えるならば結果的にはコンパクトカセットの方がその天下は短かった。オープンリールのをその座から追い落としたきっかけの『デンスケ』は1987年、その規格制定とともにDATを採用した『デジタル・デンスケ』が発売され、業務用にも多用されオープンリール愛好家にも文句のつけようのない音質特性をもつDATを一気に身近なものにした。
とは言え、DATのシステムは一般向けには価格が抑えられなかった。そこで、次いでソニーは1991年にデジタルオーディオ用光磁気ディスク「MiniDisc」を発表した。
1994年以降の市場は、猫も杓子もMD・MDで、コンパクトカセットもまた一気にレガシーメディアになった、かと思われた。
結果から言えば、後から出現したものほど先に消えていった。
2001年にAppleがiPodを発売すると、録音時間が遥かに短いMDは一気に市場が収縮し、2018年までには日本のTEAC 1社を除いて生産終了となった。
DATの高い音質は業務用に幅広く支持されていたが、これも固定式デジタル録音機とCD/DVDデュプリケーターが普及すると一気に姿を消していった。
オープンリールは、民生用のデッキが生産終了したあとも業務用では需要があったため細々と生産をつづけていたが、2010年代初頭に最後の生産元であったオタリが業務用デッキの生産を中止。これにより全世界においてオープンリールデッキの生産は完全に終了し、以後は在庫販売と生産終了品の保守点検がおこなわれるのみである。録音用テープの生産は継続中。
カセットテープやMD、DATの凋落ぶりの早さと比べれば、意外にもオープンリールオーディオテープデッキの生産終了は遅かったように思える。
オタリの撤退はおそらくDOLBYのシネフィルム用光学オーディオシステムを除いたアナログオーディオソリューションからの撤退で、先に挙げたドルビーノイズリダクション用のICの製造ができなくなったため。
意外なことにiPodも2022年5月に販売終了と、TEACが2021年まで粘ったMDとは「相打ち」だった。
だが、コンパクトカセットは……現在も、デッキもテープも生産されている。ドルビーノイズリダクション用ICが入手できなくなったが、TEACは独自の技術でドルビーノイズリダクション Bタイプで録音されたテープの再生を可能にした。コンパクトカセットだけはレガシーソリューションと位置付けられながらもまだまだ市場に存在感を放っている。
おおよそ工業製品において簡便というのは何物にも代えがたい最強の武器なのだ。
言うなればオープンリールは最強の敵の前に敗けた。
使用法
むき出しの状態でリールに巻かれたテープ(オープンテープ)をデッキの装着部にセットし、手動で送り機構(キャプスタン・ピンチローラ)を介してもう一方の巻き取り用リールにつなぎ、再生する。
リールは最低ふたつは必要なので注意すること。
長所
- カセットテープより音質がよい
- 幅の広いテープを使うため、カセットテープよりも大量の録音データを確保できる。
- 切り貼りがたやすく、編集性にすぐれる(カセットテープでできないわけではない)レコードの制作、ラジオ局やラジオCM制作会社はその手のプロがいた(素人がやると、継ぎ目での音切れ、レベル違いなどで簡単にわかってしまう。)
短所
- テープがむき出しのため保管場所に注意を要する
とくに直射日光やホコリには細心の注意を払うこと。
- サイズが大きく、取り回しに難あり
- カセットテープ同様、すばやい頭だしができない
- 空リールがないと再生できない
デジタルデータ用テープ
映像・データ記録の分野でも利用されている。2000年代になってもコンピュータデータ記録用の分野ではDLTなどに発展し利用されている。
おもなメーカー
- オタリ…2010年ごろまでデッキを生産していた 録音スタジオ向け。
- DENON オープンは録音スタジオ、放送局むけのプロユースがほとんど。
- SONY 日本での商品化初、テープもレコーダーも自社開発した。昭和世代はテープコーダといえばSONYであった。民生用はしばらくの間木組みのトランクケースに入れ込み携帯(といっても15㎏はある)したため、家内工業的なテープレコーダメーカも多数輩出した。
―AKAI初期は自作向けのモーター、駆動機構、アンプを販売。 一般化が進むと製品化したものが。
- TEAC/TASCAM
- 東芝 放送局の縁がこくプロアマ用とも展開するもプロ向けはSONYが優位になった。テープの初期は富士フイルムと共同生産した。なおカセットにおいては袂を分けている(富士カセットをOEMにしなかった)。
- NATIONAL/Tecnics 録勉用テープレコーダ(廉価であってもキャプスタンドライブで互換性性能を保証した、AIWA、SANYOの廉価機はリールドライブでテープスピードを保証できなかった)、Hi-Fiは RS-1500Uが有名
関連イラスト
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