霧笛(レイ・ブラッドベリ)
むてき
概要
アメリカの作家「レイ・ブラッドベリ」が、1952年に発表した短編小説。
邦訳版は、創元SF文庫『ウは宇宙船のウ』、ハヤカワ文庫『太陽の黄金の林檎』、新潮文庫『恐竜物語』に、それぞれ掲載されている。
『孤独湾(ロンサム・ベイ)』に立つ灯台の灯台守二人が、霧が立ち込めるある夜。灯台が鳴らす霧笛に惹かれて、姿を現した恐竜と出会う一夜の出来事を描いている。
本作は、出現した恐竜を用いて、巨大な古代生物の恐ろしさではなく、孤独と、仲間への慕情、そしてそれが裏切られた事の悲しみが描かれており、『太古の昔から現代にまで生き残っている』事の寂しさ、悲しさが伝わってくる内容である。
内容
『孤独湾(ロンサム・ベイ)』。その湾内の海上には、ぽつんと灯台が建っていた。
その灯台には、以前から灯台守に就いている老人・マックダンと、新参者の若者・ジョニーが、住み込みで働いていた。
11月の夜、7時15分。夜が訪れ、湾内に霧が立ち込める。海岸沿いには町は無く、一本道が内陸に続いているのみ。そして船影もめったに見えない。
明日になったら、ジョニーは非番になり陸に上がる。ひとりになる前にと、マックダンは語り始めた。
海には、色んなものが詰まっている。人間がいくらエンジンや潜水艦を発明したとしても、海底には人類の歴史が始まるずっと前から、数十万年前から、未知の世界が存在する。
そして、灯台の最上階に辿り着くと、マックダンは霧笛を鳴らした。
「ジョニー。お前もそろそろ覚えておいてもいい。毎年、いまごろになると……『何か』が、この灯台を訪ねてくる」
そう告げたマックダンは、霧笛を鳴らし続けた。
やがて、荒れる波をかき分け、その『何か』が出現した。
それは、巨大な怪物……恐竜の一種だった。細長い首をもたげると、12mもの高さがある。
なんのために、ここに来たのか? そう疑問を持ったジョニーは、すぐにその答えを知った。
霧笛が鳴ると、怪物がそれに答えたのだ。霧笛そっくりの咆哮で。
響くその声は、寂しげだった。
マックダンは言う。
「この灯台が霧の中で、やつと同じ鳴き声を上げている。きっと、百万年前か、それ以上前からずっと、やつは一人ぼっちで仲間を探し、待ち続けてたんだろう」
やがて、灯台に近づいてくる怪物。マックダンが霧笛のスイッチを切ると、怪物は動きを止め、そして……。
登場人物・灯台・場所・恐竜など
- ジョニー
本作の語り手。灯台守になり三ヵ月の若者で、マックダンの後輩になる。マックダンと二人で灯台に住み込みで働いている。
- マックダン
ジョニーの先輩で、老人の灯台守。『孤独湾』湾内の灯台にて、三年以上前から灯台守の仕事に就いていた。ジョニーが来てから三ヵ月後、11月の終わりごろに『恐竜』が来ることを教え、自身の推測を語る。
- 「恐竜」
海底に生息していたと思しき恐竜、もしくは古代生物の首長竜。
首の長さは40フィート(約12m)、全長は約90~100フィート(約27~30m)。その鳴き声は、灯台の霧笛そっくりである。灯台の霧笛が鳴るたび、恐竜の方も同じ声で鳴いていたが……。
- 灯台
石造り。高さは海上から70フィート(約21m)。
『孤独湾』の湾内の海上、海岸から2マイル(約3.2Km)の地点に建つ。内部には80段ある階段があり、頂上部にライトと霧笛の装置とが設置。
- 『孤独湾(ロンサム・ベイ)』
湾内に灯台が建つ湾。周辺の海岸線には町は無く、海岸に続く内陸からの一本道があるのみである。
余談
- 親友の映画特殊効果技術者である「レイ・ハリーハウゼン」が、特撮を担当した怪獣映画『原子怪獣現わる』は本作を原作。同映画内に登場した恐竜「リドサウルス」が、深海から出現し灯台を破壊するシーンが存在する。
- しかし、本作と映画の内容はまったくの別物。むしろ映画の方が似た展開・場面になったため、『元から知り合いであった作家に連絡しておいた』という意味もある(『原子怪獣現わる』の当該項目も参照)。
- 単に『似たシチュがある』程度なので、原作ではなく『原案』『モチーフ元』と捉えた方がいいかもしれない。作風が大きく異なるのみならず、劇中に登場する恐竜自体も、本作と映画では完全に異なる。
- 海のトリトン第15話「霧に泣く恐竜」は本作へのオマージュになっている。
- ポケットモンスター第13話「マサキのとうだい」も本作のオマージュである事を脚本家が明かしている。