「仲間なんて信用ならねえ。駒だ!」
概要
WORST Xから登場する瀬ノ門工業高校の頭にして多様な事業を展開する天下井グループの御曹司。「自分は生まれながらにして人の上に立つ人間」「人はヒエラルキーの中で生きる運命」という信念(または選民思想)を持ち、金と権力、相棒の須嵜亮の力で次々に他校を傘下に入れて連合を結成、周辺校の支配を目論む。
人物
一言で表現するなら唯我独尊を地で行く性格である。育った環境故か、とにかく周りを支配せずにはいられない性分であり、来る者は受け入れるが断る者は潰すというやり口で勢力を拡大していた。だが、最初からこのような振る舞いはしておらず、幼い頃は須嵜とも互いに心を許し合う仲であった。しかし、年月が経つにつれて権力志向の持ち主へと変貌し(中の人曰く「裕福だからこそのトラウマがある」とのこと)、私立のエリート校に進んでも問題行為を繰り返して退学と転校を繰り返してきた。流れ着いた瀬ノ門で須嵜と再会してからは彼の強さを利用して瞬く間に同校を支配し頭に君臨した。さらに砂防天久ことサボテンや津田沼などを幹部として、その地位を不動のものとした。勝利と頂点に立つことにひたすら執着しており、悪辣な振る舞いの一方でその場限りでも勝てれば良しとまで考えている節があるほど刹那的な性格である。また、兵力や援軍も天下井が窮地に立たされる直前まで彼のために働いているが、明らかに須嵜の強さから来るものであり、天下井の人望によるものではない。彼らからすれば金ヅルでもあり戦犯でもある天下井は担いでいて都合の良い御輿だったのかもしれない。
一方で本人も性格についてはそれなりに自覚しているような発言も多い上に、孤立した時もこの手の悪人にありがちな「金や権力をちらつかせて逃れようとする」「見苦しく命乞いをする」といった醜態を晒すことも言い訳も全くせずに悪事を行っており、ある種の潔さも併せ持つ悪役である。
実力
カリスマ性を放ってはいるが、基本的に素手の攻撃は行わず武器を使った攻撃のみであり、その辺りも相棒や敵対者とは対照的である。また、他校の制圧も須嵜や他の不良たちに指示を出すだけで、天下井自らが手を下すことは基本的にない。
欠点
優れた戦術家ではあるが、実戦経験の無さと勝利を得ようと焦るあまりに詰めが甘く、仲間を使い捨てて勝ったことに安心してリスク管理には目が行っていない勘の悪さも目立つ。真面目に鍛練を積んでいれば須嵜と肩を並べて戦えたかもしれないが、彼の性格上それを怠っていたため、終盤の敗北を招くことになった。さらに、相手を理解する力も乏しいことから味方からも(須嵜以外から)失望されている上に敵対勢力を悉く怒らせ、完全に孤立した姿を踏まえれば頭としても資質が不足しているとしか言いようがない。相棒である須嵜や敵である楓士雄を筆頭に周りが全て武人肌であることを踏まえても色々残念な天下井の行動力である。
仲間を信用せず、金と恐怖による支配を信条とする一方で、高城司に「お前が捕まっても誰も助けには来ない」と挑発された際には激昂しており、精神的には脆い一面もある。
本編の動向
※この先はWORST Xのネタバレを含んでいます。 |
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「人間ってのはな、生まれた時から決まってて、上から見上げるか、下から見下ろすか、その2種類しかいねえんだよ・・・」
WORST Xの冒頭から登場。自分と須嵜・サボテン・津田沼たち幹部と前もって傘下に引き入れていた鎌坂高校と江罵羅商業高校の「三校連合」と共に容赦なく傘下入りを拒否した高校を壊滅させ、猟奇的な性格を見せつけた(花岡楓士雄が鈴蘭男子高校に赴いていた頃とほぼ同時刻)。
鬼邪高側も高城司や轟洋介が彼らの動きを察知して警戒していたが、さっそくとばかりに三校連合の攻撃が始まり、轟一派の辻、芝マン、泰・清一派の清と中・中一派の中越、さらには鳳仙学園の四天王・シダケンも負傷してしまい、2人の懸念は最悪の形で的中してしまう。
楓士雄も鎌坂高校の氷室礼二に挑まれ、司は須嵜との戦いを余儀なくされる。楓士雄の方は辛くも氷室との死闘を切り抜けるが、司は須嵜の圧倒的な強さの前に次第に追い詰められていく。ここでも天下井自身は表立って挑もうとせず、食い下がる司に止めの一撃を見舞うだけであった。
司を捕らえて「後は残党だけ」と気を緩めていたが、どれだけ痛めつけられても余裕を失わずに自分を酷評する言葉を吐く司の姿に苛立ちを募らせていく。
翌日、司の救出と瀬ノ門との決着のためにやって来た楓士雄たち鬼邪高を迎え討とうとするが、その前に江罵羅がある人物の活躍のおかげで離脱したことで戦力が減ってしまう。さらに、敵は鬼邪高だけではなかった。楓士雄が鳳仙学園の幹部に頭を下げ協力を要請していたおかげで、二校が連携し瀬ノ門と鎌坂に挑んでいく。
戦いは自校と鎌坂らの卑劣な戦法のおかげで優勢に見えたが、楓士雄を友と認めたラオウたち鈴蘭が加勢に来たこと、さらに海外に行っていた筈の意外な救援者までもが参戦して一気にこれまでの力関係は逆転。
司がいる体育館に楓士雄と轟、小田島たちが乗り込んできたのを見て須嵜が迎え討つ中で司を体育館の2階から落としたが、間一髪で楓士雄が救出。自身は立ち上がった司に挑むもここから今まで安全地帯に居てばかりいたツケが回って来たように欠点が露呈していく。
さらに自分は司に決定打を与えられないどころか指の骨一本折られるという手痛い反撃に遭う(なお、この時の司の表情は必見)。
今まで掲げていた「ヒエラルキーの中で生きる運命」「自分は生まれながら人の上に立つ」とは、負けたら脆くも崩れる理論に過ぎないと言わんばかりに...。
さらに幹部も『駒』と呼んでいた兵力も次々に敗れていき、小田島と轟を下した須嵜も楓士雄と拮抗するまでになっていた。頼みの綱である須嵜まで次第に疲弊していく姿を見てようやく危機感を抱き始める。
「馬鹿言うなよ!まだまだ兵隊は居んだよ!」
それでも自分のプライドを曲げること無く以前配下に加えた高校を『駒』として呼びつけるが、乗り込んできたのは鬼邪高校・鳳仙・さらにラオウ一派であった。多くの戦いを経て本物の一枚岩となった『連合』の前に挑む兵士が居るはずもなく、それを指し示すように呼び出した『駒』も自校の兵力も愛想を尽かして全員が敵前逃亡し、呼び出した援軍も既に叩きのめされた後であった。必死に援軍を呼ぼうとするも自慢の兵力は既に枯渇しており、もはやその姿を見て充分なほど天下井の本質を悟った彼らからは滑稽でしかなかった。そして自分は勝ち目の無い戦場に1人取り残され、怒り心頭の鬼邪高、鳳仙に加えて彼らを好敵手と認める鈴蘭の面々に1人囲まれてしまい、完全に孤立する...。
多くの人間を踏み台に利用し、使い捨てにしてきた男が逆に周りから「捨てられた」形であった。同時に司が言っていた「誰も助けに来ない」の言葉をそのまま絵にした皮肉極まりない状況であり、ここに来て安全圏に居続けていた姿勢と兵力に胡座をかいて須嵜に頼り切りだったツケが回ってきてしまったのである。まして、これまでの行いを省みることもせず、思い遣ってくれている者たちの好意を踏み躙り、行き過ぎた行動でその場にいる敵全員の地雷を踏み尽くしてきた男に救いの手を差し伸べる者はいなかった。
それでも須嵜だけは天下井のために楓士雄に挑み続け、一時は倒れた楓士雄を見て実力差も弁えずに敵の前でぬか喜びする始末だったが、もはや天下井の本質を読み切っている彼らからは哀れな道化にしか映らず、呆れの表情を向けられるだけであった。そして頼みの須嵜も楓士雄の底力の前に力尽きて今度こそ万策尽きる。
あらゆる人間を踏み躙りながら保ち続けていたプライドが修復不可能なほどに砕かれ完全に逆上し、ナイフを持って楓士雄に襲い掛かるも須嵜が身を呈して止めに入ったこと、そして幼い頃の約束を思い出して考えを改め、遂に負けを認める。
「次はお前らをブッ潰す!俺と亮でな」
そして本当の意味で須嵜とも和解して友情を取り戻し、再び「テッペン」を目指すのだった。
今度は2人で勝つことを目標にして。
総評
林蘭丸が闇に堕ちたROCKYのIFを体現した人物であるのに対し、鬼邪高校に入らないまま不良狩りを続けて村山や辻・芝マンと出会わなかった轟洋介のIFを体現した人物と言うべきである。このような歪んだ価値観を抱いてしまった経緯は不明だが、人を物のように扱うことは決して許されることではないため、これまでの振る舞いを考えれば孤立するのは必然と言えよう。また、作中で敵対者たちの地雷を完全に踏み尽くす負けフラグを立てていたために早い段階で視聴者から同情の声が寄せられてしまい、その立ち居振る舞いから他の新キャラたち(特に須嵜)にも風評被害が行く羽目になった。しかし、天下井の苦悩やトラウマを想像する視聴者も多かったのか、彼を皮肉るネタは控えめである。
また、意外にも楓士雄やラオウは天下井を(人となりは知らないとは言えど)貶す発言をしておらず、1人の敵のボスとして接しており、頭としては認めていたと思われる(天下井を見る前から会った敵がライバルとして落第だったことも踏まえてだろうが)。天下井の実力に関しても弱く見られがちだが、楓士雄や司の攻撃にも耐え、指を折られても反撃するなど肉体のポテンシャルは戦略眼と共にかなり高いものと思われる(中の人も普段はかなりキレキレのダンスを踊っている)。敵味方から嫌われているのも性格や手段であり、実は無能と罵られたことは作中一度も無い。
さらに言うなら、いいようにこき使われていた須嵜も彼の父も気にかけこそすれ、決して天下井を恨んだり攻める発言はしていない。彼らのように自分のことを思いやってくれる人間に答えることをしなかったのは金銭的なトラウマが深かったのでは、という声も挙がっている。実際に天下井も三校連合のことは「自分に集まるのは金目当ての奴だけ」とまで明言しており、悪事を繰り返すのも自暴自棄の極みと言う解釈も出来る。終盤で須嵜が敗れた時には「自分は上に立ち続けなければ終わり」という強迫観念に支配されているように逆上しており、その直前にも人目を憚らずに援軍を呼ぼうとしたり楓士雄が倒れた姿を見てぬか喜びするなど(前者は鈴蘭側から咎められており、後者に至っては全員がノーリアクションの冷めた表情を向けていた)、どれだけ追い詰められても自分を大切にしないまま悪事を続けるという前作のキーマンである前川新太と似通った切ない姿を見せている(まあ新太の場合は母親を救うための愛情からでそれが仲間からも語られている、天下井は支配することだけが目的で性格が歪んだ理由が明らかになっていないという、スタイル自体は真逆なのだが)。須嵜親子が天下井を本気で見限らなかったのもこういった彼の苦悩を理解しているからであろうが、詳しい経緯は不明なため、想像の域を出ない。しかし、このまま悪事を続け、自身の資質を開花させていけば行き着く先はSWORDまたは雨宮兄弟、ムゲン(の元メンバー)にぶつかることも考えられ、そうなればどのような末路を迎えたかは想像に難くない。不良高の頭で優れた戦略家でもある彼がDOUBTどころか九龍グループのレベルまで行き着くまで時間はかからないと思われるため、この段階で改心したことは天下井にとっても須嵜にとっても非常に幸運だっただろう。
また、「トラウマを抱えた者」「理解者や友がいない人間」が悪に身を堕としていくケースは他作品はおろか、現実世界でも後を絶たないため、轟のみならず楓士雄や司、果てはSWORDの頭たちですら、一歩間違えれば今作の天下井のような人間になりかねない可能性を秘めている。
このような人間の未来をさりげなく警告しているのも、このシリーズの凄いところだろう。
親友のおかげで改心を果たした天下井だが、次こそは「拳一つで成り上がる」男になることを願うばかりである。
余談
- 中の人
本作では楓士雄たちと敵対する天下井だが、中の人同士は大の仲良しであり、互いに仲間とまで言い切っている。特に須嵜役の中本悠太とは仲が良すぎて度々ヤバイことになっていたりする。
- STAND BY YOU
挿入歌の一つで、歌うのはTHERAMPAGEのボーカルのRIKUであり、これが初のソロである。楓士雄と須嵜の対決で流れた曲だが、実は誰のテーマ曲かは定まっていない。
しかし、歌詞の内容からして間違いなく天下井と須嵜の友情をテーマにしている。結局最後まで明言されなかったが、彼らの回想シーンまで混じえて流すという、中々の胸熱なタイマンに仕上がっている。
関連タグ
- 林蘭丸:同シリーズのキャラクターで天下井と同じく金と暴力しか信じられない悪役だが、「武器無しでもそこそこ強い」「歪んだ価値観になった理由の設定が明らかになっている」「親友と呼べる者がいない」「末路は全く正反対」と、良くも悪くも異なっている。