「大切な物を平気ですげかえられるようなヤツの世界なんて、ロクでもねえからだよ!!」
CV:浅沼晋太郎
プロフィール
人物
狡噛慎也が監視官の頃に部下だった執行官。物語開始時点で故人。
狡噛が監視官になった頃から執行官として活動しており、当初から一係の執行官だった。そのため狡噛の部下になったのは、彼が三係から一係に移動してからである。
陽気でフランクな言動も多く、係の垣根を越えて交流も広い。いたずら好きであり、狡噛と宜野座に廃れてしまった日本の風習をわざと間違えて教えたりしていた(豆まきを『無気力な人間にチョコを投げてやる気を出させる』というバレンタインと混ぜたものにするなど)。
自分で『女好きが高じて潜在犯になった男』と周囲に言うほどのスケベで唐之杜志恩や六合塚弥生にちょっかいをかける事も多い。狡噛が執行官になる切っ掛けの話である『名前の無い怪物』ではラボで寝ていた六合塚にキスをしようとして、逆に殴り飛ばされていた。
また執行官の中でも凶暴な側面をよく見せる人間であり、わざと潜在犯の犯罪係数を上げるように煽ってエリミネーターで執行するなど職務遂行上の問題行動も多かった。
だが、シビュラシステムが成立する前から刑事を続けていた征陸智己が認めるほど、刑事としての才覚は一流であり、作中でも僅かな手掛かりから唐之杜が設定したラボのパソコンのパスワードを探り当てる、冬に飛んでいる蜂から飼育されている蜂だと見抜くなど、頭一つ抜けた推理力を見せる事も多かった。身体能力も高い上に咄嗟の機転も利くため荒事にも強く、総合的な能力で言えば当時の刑事課でも一、二を争う能力を持っていた。
そんな性格の彼の趣味は意外にもカメラで、桐野瞳子が持っていた年代物のカメラに興奮した様子を見せていたり、佐々山が撮った写真を見て瞳子が「かわいい…」と思わず呟くほど撮るのも上手かった。
過去
小説版である『名前の無い怪物』では彼の境遇が描かれている。父親と妹との3人暮らしで、父親は稼いだ金を薬につぎ込む薬物中毒者であり、佐々山と妹はそんな父から虐待を受け育っていた(虐待が止められなかった理由は、シビュラはあくまで社会構築システムなので家庭の問題には干渉しないため)。
そのためか妹のマリとの絆は深く、佐々山が車を買った時は2人でドライブデートをしていた。またこの時にマリにねだられカメラを買っており、この頃からカメラを始めている。
ある時佐々山はマリの写真を撮る時の表情から父親から性的虐待を受けている事に気付いた。マリは熱のこもった視線で佐々山を見つめ、彼に触れられる事を求めていた。その視線を向けられた時、佐々山は自分の中に父親と同じ劣情を抱えていることに気付いてしまう。そんな自分が許せず、佐々山はある日マリの部屋に忍んで行く父親を殴り、肉団子の様になった父親を引きずって公安局に行って潜在犯として捕らえられ、執行官となった。
そのため、『女好きが高じて潜在犯になった男』というのは、この過去を隠す為の嘘だった。
妹のマリに対しては『一線を越えない自信は無かった』『彼女の事をこの世の何よりも愛おしく思っていた』と肉親以上の愛情を持っていると思われる描写があった。また執行官を続けていたのも、単純に楽しんでいた以外にどこかで妹を守ることに繋がっているという思いもあった。
だが「標本事件」の一ヶ月前、「さみしい」という遺書を残してマリは自殺してしまう。「家族を守ったつもりが、家族を壊していた」「妹を1人きりにしてしまった」という事実に気付いた佐々山は「標本事件」の捜査が始まった頃には自暴自棄になっており、明らかな命令違反を繰り返して狡噛との関係も悪化していた。
『刑事』としての再起、大切なものを守るための戦いの結末
『標本事件』の捜査当初から狡噛とは妹の事もありギクシャクした関係になっており、捜査に対して無気力な姿勢を見せたり、彼に対して厳しい言葉をあびせるなどかなり悪化していた。本人ももう刑事を辞めるつもりでおり、完全に気力を失った状態だった。
だが狡噛は刑事として佐々山を尊敬しており、佐々山が刑事を辞めるとなった時には頭を下げて彼に「俺はまだ、お前から学ぶべきことがあるんだ」と説得していた。佐々山自身もマリが死んだ事で無気力になっていたが、狡噛の真っ直ぐな言葉を受けて『こいつになら、賭けてもいいかもしれない』と刑事を続ける事を決意した。
だが事件の捜査の中で出会った少女、桐野瞳子が行方不明になり、犯人である藤間幸三郎に捕まっていることを捜査の中で得た情報から確信していた。
助けるために動こうとするが、手柄が欲しい二係の監視官の霜村の策略によって、一係自体が扇島の警備に回されてしまう。だが妹を失った後に出会った瞳子に対して不思議な縁を感じていた佐々山は、彼女を何がなんでも助けると決意していた。
彼の決意を察知していた狡噛が止めようとするも、彼に手を上げてその制止を振り切り単独で瞳子の救出に向かった。
単独行動を取っていた彼に狡噛から通信が入り、共に助けようと動く彼と合流しようとしたが、事件を裏で手引きしていた槙島聖護を発見して単独で彼の後を追い始め、瞳子を攫った藤間の元へたどり着いた。
藤間の冤罪体質を『ドミネーターの故障』と誤認してしまうが、すぐにドミネーターを投擲武器として使用して窮地を切り抜け、一方的に彼を殴打するなど優位に立っていた。
だが瞳子を救出しようとした際に藤間にボールペンで刺されて重傷を負い、さらに瞳子を救出した後、藤間が投げた手榴弾から瞳子を庇った事で瀕死の状態になってしまう。
泣きじゃくる瞳子に狡噛を呼びに行くよう促して彼女を逃がし、佐々山は自分の『新しいお姫様』を探すためその場から去ろうとする藤間に『呪い』と称した言葉を投げかけ、『呪い』という言葉に反応した藤間に引きずられて行った。
その後プラスティネーションされた標本となって狡噛に発見される(また検死の結果、生きたまま解体されたことが判明した)。
このことが起因となり、監視官だった狡噛は、佐々山が死んだことで犯罪係数を上昇させてしまい、セラピーよりも捜査続行を優先して降格され、執行官となっている。
佐々山が残したもの
彼は本編開始時には故人となってしまっているが、様々な形で作品に影響を与えた人物でもある。
決してシステムに裁かれない犯罪者である槙島聖護、彼の尻尾を初めに掴んだのは他でもない彼であり、一度見た時から槙島の中にある異質さを見抜いて、瞳子の情報から彼が裏で犯罪を手引きしている事にも気付いていた。この時の写真は狡噛の手に渡って、後に犯罪者として彼を表舞台に引きずり出す事にもなった。
狡噛は彼の死を契機にタバコを吸い始め、自身の体もいっそう激しく鍛え始め、格闘のスタイルも彼が使っていたシラットに変わった。「気に入らなければ俺を撃て」という狡噛のセリフは、かつて佐々山が狡噛に言った言葉でもあり、執行官としての狡噛のあり方は、かつての佐々山をなぞったような物になっている。
『見るべきは人』や『自分の中の閃きを信じろ』など、佐々山の刑事としての教えは狡噛に大きな影響を与えており、彼に目指すべき刑事を見出した狡噛、そして狡噛の背中を追った常守朱の刑事としての在り方の雛型となっている。
結果として守りたいと願ったものを守る事は叶わなかったが、彼の残した『刑事魂』は脈々と受け継がれ、犯罪と戦う刑事達の力になっている。