概要
製作は大映、配給は社団法人日本映画配給社。
谷豊(以外、『豊』と記す)を題材とした、確認できている限り最も古い作品である。
製作された時節柄、プロパガンダ的要素がしばしば見られる作品であるが、イデオロギー的な面を一旦横に置いておいて純粋に映画史の一作品として考えるべきだろう。
あらすじ(ネタバレ注意)
昭和7年
舞台はマレー半島。在留邦人である豊は母親の鶴子、妹の静子、そして使用人のマレー人であるサリーと共にささやかながらも現地で理髪店を営んでいた。
しかし、彼ら在マレー日本人を快く思わない華僑で共産党員の陳文慶は、イギリスマレー総督府法務長官のファラックと結託、暴動を起こして日本人街を襲撃し静子を殺害する。
犯人が陳である事を知った豊は激怒し、抜刀して報復に向かおうとするが知人の安田に諭される。
安田「もっと落ち着くんだ! 殺されたから殺す…それじゃ暴動と同じじゃないか。君は日本人だよ!?静子ちゃんの敵は合法的に立派に討てるんだ。」
安田やサリーと共に警察署へ向かった谷だったが、けんもほろろ。警察も陳やファラックと同じ穴の狢だったのだ。
署長「長官ですか?陳文慶はご命令通り香港へ逃がしましたからご安心ください。」
真相を知り、愕然とする豊は署長室へ怒鳴り込む。
豊「殺人犯人を助けるのが英国の官憲か!?」
署長「ジャ◯プ!黙れ!」
遂に堪忍袋の緒が切れた豊は椅子で署長を滅多打ちにするとそのままサリーと一緒に姿をくらましたのだった。
豊「お母さん、ボクは悔しい…奴等はグルになって静子を殺したんだ。命のある限り奴等に復讐してやる!」
同じ頃、署ではマレー人刑事のバテポウが責務感から陳に対する逮捕状を請求しようとするが、許可されるはずもなくステッキで殴打されていた。
昭和16年
豊は暗黒面に墜ちマレー各地で英人や関係者を襲撃しハリマオと呼ばれていた。
タイ南部の徳善家「チェーマ」が官憲に追われた豊の仮の名だった。
ハリマオこと豊の名はマレー全土に知れ渡り、逮捕に総力を挙げる警察はバテポウを主任捜査官に任命する。
しかし…
警察幹部「君たち英人警官は何も危険を冒す必要はない。使えるものは何でも使えば良い。第一にバテポウ。そして香港から帰った陳文慶だ。」
同時期、国際情勢の悪化により豊の家族をはじめとする在マレー在留邦人は本土へ引き揚げることになった。
豊はサリーを介して餞別の金を渡そうとするが、ハリマオとなった豊に幻滅した鶴子に拒絶される。
同情する道恵。
鶴子「すぐに返しておいで。豊はもう私の子とは思ってません。」
道恵「それじゃ兄さんがあまりにも可哀想よ。」
鶴子「人間はね、まともな働きをしないで3度のご飯をいただくことはね、一番悪い事なんだよ。日本人として恥ずかしい事なんだよ。このお金だってマトモなお金じゃないでしょう。豊のしている事は悪い事なんだよ。」
道恵「でも…」
鶴子「すぐに返して。豊の話なんか聞きたくない!」
実は豊はサリーが金を返す所を影から見守っていたのだ。
母に匙を投げられた事を目の当たりにした豊は爪を噛み締めて黙って涙を流すのだった。
静子の敵討ち
安田は実は特務機関に所属しており、自らの仕事を纏めた手帳を福原少佐に渡すように豊へ託す。
そこへアジトを突き止めたバテポウ率いる警官隊が突入するが、辛うじて難を逃れる。
豊を逃がしたバテポウは英人刑事に同僚や部下の面前で罵倒された挙句に張り倒され、更に刑事の職を取り上げられてマレーからの追放を言い渡される。
日頃から差別されていたバテポウは英国人に対する反感を募らせていく。
逃げる豊や安田を追う陳一味と警官隊。そして遂に安田が銃弾に斃れる。
憤慨した豊は安田の仇討ちと陳の手下を次々と蹴散らし、遂に陳を追い詰める。そして静子の仇を取り笑みを浮かべるのだった。
開戦
タイに駐屯する福原少佐率いる日本軍部隊。そこへ豊が安田の形見の手帳を持って訪れる。
英軍は日本軍の進撃を遅らせる為にペラク河のダムを破壊しようとしている。それを阻止する為に谷らハリマオ盗賊団に爆破装置の破壊を命ずる。
谷らは今までの盗賊としての生き方を悔い改め、部下や新たに仲間に加わったバテポウと共にダムへの潜入を試みるが…
進撃する
出演者
俳優名 役名
中田弘二 谷豊
南部章三 安田
上田吉二郎 バテポウ
村田宏寿 サリー
押本映治 福原少佐
植村謙二郎 神谷軍曹
海原鴻 スリム
堀江孝太郎 ハチオ
山口秀夫 エルマ
小林桂樹 ハッサン
国分ミサオ 道恵
宮島城之 マライ人夫
小峰千代子 同妻
南興助 ミンタン
井上敏正 陳文慶
島田時男 李
中佐古初三 黄
上代勇吉 王
恩田清二郎 張
山口健 磯貝軍属
隅田一男 金澤軍属
大井正夫 パーク
浦辺粂子 トミ
赤星瞭 礼に来る農夫
竹久夢子 農夫の妻
主題歌「マライの虎」
映画と同じ1943(昭和18)年にテイチクから発売された。
曲名は映画と同じ「マライの虎」である。
作詞:島田克也
作曲:鈴木哲夫
歌唱:東海林太郎、日本合唱団
余談だが、ハリマオというのはマレー語で虎という意味である。後年のテレビドラマ(快傑ハリマオ)が有名だがこの曲の中でも繰り返し歌われている。