概要
「キーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦」または「キーロフ級ミサイル巡洋艦」とも呼ぶ。2015年現在、唯一保有している戦艦の艦級。ソ連海軍での正式名は「1144号計画型重原子力ミサイル巡洋艦」。計画名は「オルラン」であった。空母を除く水上戦闘艦としては、第二次世界大戦後世界最大の軍艦であり、また非常に強力な対水上打撃力・防空力を備えている。さらに装甲も施していることもあり、ジェーン海軍年鑑などの西側観測筋においては、「巡洋戦艦」とも通称される。ソ連崩壊後は、『アドミラル・ウシャコフ級巡洋戦艦』と改名され現在に至る。
解説
本級の設計にあたっては、ステルス性に配慮してレーダー反射断面積(RCS)の低減に意が用いられており、ステルス艦の嚆矢とも称される。ミサイル発射機には世界で初めての垂直発射方式が導入され、複雑な上部構造物にも、垂直面をほとんど作らないよう、各所に傾斜がつけられている[2]。「キーロフ」がデンマーク海峡を通過する際、NATO軍のレーダーには「2,000t程度の小型フリゲート」にしか写らなかったともされている。
本級の大きな特色の一つが、核動力に通常の蒸気タービン主機を併用したCONAS方式と呼ばれる主機方式である。これは当時世界に類を見ないものであり、西側諸国では長い間「原子炉が供給する蒸気をボイラーで追い炊きして改質する"スーパーヒート"推進システム」であると信じられていた。しかし実際には、初期の原子力潜水艦の原子炉の信頼性の低さに苦しめられた経験を持つ海軍総司令官セルゲイ・ゴルシコフ元帥の特命により、重油焚きボイラーによる予備動力が確保されたものであった。原子炉としては、当初は原潜用のVM-4型を使用する予定であったが、MG-355「ポリノム」統合ソナー・システムの搭載などによる艦型拡大を補う必要上、原子力砕氷船用のOK-900型をベースに開発された第3世代加圧水型原子炉であるKN-3型とされた。ウラン燃料の濃縮率は70%、寿命は10年強と見積もられていたが、実運用では停泊中も原子炉を積極的に稼働せざるを得なかったことから、実際の寿命はより短かった。
武装
装備
長距離捜索用の3次元レーダーとしては、1134A型(クレスタII型)以来のMR-600「ヴォスホード」(NATO名「トップ・セイル」)[脚注 2]が踏襲された。一方、副レーダーとしては、従来採用されてきたアンガラー・シリーズに代えて、新型のMR-710M「フレガート-M」(NATO名「トップ・プレート」)[脚注 3]が搭載されている。また4番艦以降ではさらに改良型のMR-750「フレガート-MA」に更新されており、これとMR-600による統合システムはMR-800と呼称される。これらは1143型重航空巡洋艦(キエフ級)、1164型ミサイル巡洋艦(スラヴァ級)と同系列の装備でもあった。
システム
本級で最も特徴的な武装が、P-700「グラニート」艦対艦ミサイル・システム(NATO名: SS-N-19「シップレック」)である。これは最大700km(核弾頭型)という長射程を誇るが、このために発射重量7トンと巨大化していた。これは元来が949型原子力巡航ミサイル潜水艦(オスカー型)用に開発されたものであり、その垂直発射機(VLS)は、コスト低減のため、原潜用のものを流用して搭載された。しかしそのために、発射時にはVLSに海水を注水する必要があり、これは戦闘機動中には致命的な速力低下を招く恐れがあった。またミサイルの大射程を生かすため、「コレル」型データ・リンクを含む17K114「レゲンダ」型衛星照準・通信システムに連接されている。これは宇宙ISRシステムを含む非常に精巧な戦術レベルC4ISRシステムであり、フォークランド紛争時には戦況を克明に中継することに成功して注目されたが、一方で、実戦時における偵察衛星の生残性や衛星データ・リンクの抗堪性には疑義も指摘されていた。
航空偽装
本級では、Ka-25/27×3機を収容できる、強力な航空運用能力を備えている。
艦尾甲板がヘリコプター甲板とされており、その直下にハンガーが設けられている。