概要
中世の騎士道物語で有名な「アーサー王」のフルネームである……と、されているが、これは大きな誤りである。
ペンドラゴンは苗字ではなく「Pen DORAGON(ドラゴンを統べる者、ドラゴンの頭)」という意味の称号であり、アーサー王の父であるユーサー・ペンドラゴンが持っていた称号。
そしてこの称号は子に継承されるようなものではないので、原典においてアーサーはペンドラゴンの称号を名乗った事はない。
現代の感覚で言うと、ミスター・サタンの娘をビーデル・サタンと呼ぶようなものである。
この誤りは、「ペンドラゴンは苗字なのだろう」→「じゃあ息子もペンドラゴンだ!」と言う事で広まったものであろう。当時のブリテンには苗字は存在せず、アーサー王は「アーサー」の名前だけでフルネームなのである。例えばイングランドでファミリーネームが用いられるようになったのは、ノルマン征服以降のことであり、それ以前の人名は個人名やニックネームで呼ばれていた。またウェールズでイングランド流のファミリーネームが用いられるようになったのは1400年以降の事であり、それ以前はゲール語系の個人名が用いられていた(英国放送協会のfamily name(surname)に関する特集ページ参照)。
16世紀辺りの大衆小説でも見られる大きな誤りであり、現代においても、この誤解を真に受けてしまった作品は非常に多い。
もっとも、現代流布しているアーサー王伝説は、その近世の大衆文学の影響を大きく受けているわけで、現代の創作がその当時の慣習に従ってペンドラゴン家のアーサー王だとしても間違いとは言えない。歴史上の人物としてアーサー王を仮定した時に、史実と矛盾してしまうと言った方が良いであろう。