実在の騎士
騎士とは、中世ヨーロッパにおいて荘園の支配を保障される代わりに騎兵として戦うことを義務付けられた身分のことを指す。
近世以降は騎兵そのものが消滅し、貴族の称号や、単なる名誉職となった。
語源としては、英語で騎士を意味する「knight(ナイト)」は「従僕」を意味する古英語の「cniht(クニヒト)」が由来である。
他にはフランス語では「chevalier(シュヴァリエ)」、ドイツ語では「Ritter(リッター)」、イタリア語では「cavaliere(カヴァリエレ)」、スペイン語では「caballero(カバレロ)」と呼ばれるが、これらはいずれも「馬」を意味する言葉が由来であり、騎士とは馬と不可分の存在であった事が窺える(もっとも実際の戦いでは馬に乗らずに戦っていた騎士も多かったが)。
これらの騎士を意味する言葉は当初、ラテン語で兵士を意味する「miles(ミレース)」と混同されて用いられた。つまる所、騎士とは「騎兵」であったのだ。
騎士が当初「従僕」「兵士」と呼ばれた通り、騎士の地位は実はそう高い物ではなかったが、登場した当初から高価な馬や甲冑、武器を自前で揃えられる時点で他とは一線を画す身分であった。
歴史
古代ローマのエクィテス
古代ローマのエクィテス(equites)は、「騎士」の最初期の形態と呼ぶ事ができるだろう。古代ローマ市民は武具を自前で用意して徴兵に応じる必要があったが、その中でも騎兵は乗馬の訓練を積み様々な武具を買うなど多額の資金を必要としたため、資産家のみが騎兵となることができた。とはいえ、共和政から帝政へ移行する時期には軍事的役割を放棄し、富裕層として上流階級の一員となっていた。
こうした特徴から、騎兵になることができる富裕層エクィテスは「騎士階級」と訳されることがある。
古ゲルマンの従士制度
4~5世紀に古代ローマが衰退してゲルマン人の活動が盛んになると、ゲルマン人の風習として名誉と信義のために王に自発的に従い軍隊の中核をなす従士(comitatus)が活躍した。この従士が中世騎士階級の直接の起源である。ただし、カール大帝以前の従士は歩兵であり馬は輸送用に使われるのみで、エリートではあったが土地の支配権も保障されていなかった。
封建制の成立とフランク王国の騎士
中世の騎士は封建制と切っても切れない関係にある。封建制とは、端的に言えば君主に忠誠を誓い、軍役によって奉仕する代わりに土地の支配権を認められる事である。日本で言う所の「御恩と奉公」の関係に近い為、イメージしやすい人も多いのかもしれない。
カール大帝(シャルルマーニュ)は、ゲルマン従士を従えて西ヨーロッパの大半を征服し、従士たちに征服地の支配権を封土(benefices)として与え始める。荘園を得た従士は一定規模の収入を安定して得られるようになったため、この時代の戦争の主役である重装騎兵となるだけの馬や装備の維持、訓練が可能となった(逆に言えば、そうした装備の充実した軍を維持するために、土地を与える必要があった)。
孫のシャルル2世の代になるとバイキングやイスラム帝国との戦いが恒常化し、従士たちは戦争時に召集に応じる義務がある代わりに荘園の支配権を保護される双務契約を結んだ封建領主となる。こうした(小)貴族階級がのちに騎士(knight)と呼ばれるようになる。
中世の騎士や封建制の始まりについては議論の多い所であり、上記のようにフランク王国で突然現れたのではなく、戦いを通して忠誠を誓った相手に奉仕するというゲルマン人の風習と、教会の土地制度(恩貸地制)とがフランク王国の時期に少しずつ融合していった結果、騎士や封建制が生まれたという説もある。
最初期の騎士
こうして生まれた中世の「騎士」であるが、最初期の騎士はとにかく野蛮な存在だった。10世紀の騎士は非常に乱暴で粗暴な集団で、しかも彼らをコントロールするはずの政府も警察も司法もまともに機能していなかった為、騎士による略奪や暴力が横行していた。
この無秩序な状況をどうにかしようと行動を起こしたのは教会であった。彼らは「神の平和」運動を展開する事で、暴力行為を働いた騎士に対して厳罰を下し、同時に騎士の精神にキリスト教の思想を教え込む事で、騎士を内面・外面の両方からコントロールする事で社会の安定を画策した。教会が展開したこの「神の平和」運動が、後に形成される事となる騎士道に影響を与えたとされる。
11~13世紀にかけて封建制が発達していくにつれて、イングランド・フランス・神聖ローマ帝国など多くの国において騎士の地位が向上し、また社会的な身分として階級社会に組み込まれて、それぞれの国の事情に合わせて騎士の地位が変質していった。
十字軍と騎士道概念の発展
11世紀末から十字軍が計画されると、各地の王侯は騎士を従えてエルサレムを目指した。その中から、騎士が修道士となってエルサレム占領に至った聖ヨハネ騎士団やテンプル騎士団、ポーランド辺境部を征服して後にプロイセンを建国するドイツ騎士団(チュートン騎士団)など騎士修道会が発足する。今日のファンタジー作品に登場する「騎士」のイメージは、テンプル騎士団の標準的な装備や価値観を引用したものが多い。
十字軍の影響もあり、この時期から騎士はキリスト教の理想を守る存在といった意味付けが与えられるようになり、騎士道という考え方(あるいはファンタジー)が普及していく。騎士道(シヴァルリ、chivalry)という思想は端的に言えば騎士が元から持っていた戦士としての価値観にキリスト教の思想が合わさって生まれた物で、国境を越えてヨーロッパ中の騎士に共有された。
同じ頃に現れたトルバドゥール、その事実上の後継者であるトルヴェールやミンネジンガーといった吟遊詩人達の手により、やがて騎士道を文学に反映したフィクションとしての「騎士道文学」が発展していった。フィクションの騎士のモデルはアーサー王の円卓の騎士やローランの歌などの騎士道文学に由来するものが多い。
平時または戦間期には騎士道精神に則った「トーナメント」が盛んに行われた。トーナメントとは騎士の間で競技として行われる模擬戦で、主にチーム戦である「メレー」と、一騎討ちの形式を取る「馬上槍試合」の2種目が行われた。スポーツとはいえ実戦に近い条件で行われるので、負傷者は勿論、死者が出る事も珍しくなかった。
特に騎士に好まれたのは馬上槍試合であり、一騎打ちで正々堂々と勝敗を決するような騎士のイメージはこれらのスポーツに由来する。しかし戦場における騎士は素行の良いものではなく、(西欧以外の軍隊でもそうだったように)補給の困難さから現地での略奪、そして民間人の虐殺は当たり前で、「強盗騎士」ルノー・ド・シャティヨンのような存在は珍しくなかった。
火器の登場と重装騎兵の没落
重装騎兵による突撃は中世前期から中世盛期にかけては戦闘の趨勢を決する破壊力を持ったが、中世後期となる14世紀ころより、傭兵隊による槍衾や、百年戦争時の自由農民のロングボウ部隊など対抗する戦術が編み出され、戦闘の趨勢を決する戦力ではなくなっていく。16世紀以降鉄砲が普及するとこの流れは決定的となり、加えて近世という新しい時代に合わせて軍事制度も改革され、騎士ではなく歩兵を中心とした軍制へと移行し、本来の業務であった軍事面で立場を失っていった。そしてまた、「ジェントルマン」に代表される平民からの新たな社会勢力の台頭を受けて、騎士の社会的地位も相対的に没落していった。もはや影響力を持たなくなった騎士は小規模農園経営者となるか、あるいは単なる名誉職となっていった。騎士道はその頃にはとうに忘れ去られて久しく、特にルネサンスによる新たな思想に圧迫されて『ドン・キホーテ』のように「時代遅れ」な騎士道を蔑む風潮さえも起こった。
近現代の騎士
18世紀後期になると歴史学の発達で中世への研究が進み、それまで暗黒時代扱いされていた中世、そしてそれに合わせて騎士は一転して再評価の波を受けた。
特に大きな盛り上がりを見せたのは19世紀の産業革命時代にあったイギリスであった。騎士道文学が現代語に訳されて復活し、絵画ではアーサー王伝説が多く取り上げられ、建築では城の修復や中世のゴシック様式が流行し、果ては馬上槍試合の再現イベントまで行われた。
文化面では大きく再評価を受ける事となった騎士ではあったが、しかし身分としての騎士は復活できなかった。騎士はヨーロッパにおける名誉職として、その称号を現在に残している。
参考文献
Gies, Frances, 1984, The Knight in History, New York: HarperCollins Publisher.(椎野淳訳、2017、『中世ヨーロッパの騎士』、講談社)
フィクションの騎士
アーサー王の円卓の騎士と、シャルルマーニュ / カール大帝の十二人の騎士(パラディン)に始まり、中世ヨーロッパでは既に多数の物語が生まれていた。騎士制度のない古代の君主や武人まで、作内では騎士扱いされがちであったほどである。
そういうわけで、ファンタジー作品での代表的な職業としてよく用いられる言葉で、様々な種類が存在するが、多くは「甲冑を身に纏った戦士」という意味合いで使われる。
騎士の種類
- 騎士王:騎士達の王の意味。
- 騎士団:騎士による集団。
- 白騎士:白い鎧に身を包んだ騎士のこと。
- 聖騎士:神や天使の加護を得た騎士や教会の祝福を受けた騎士でホーリーナイト・パラディンとも。
- 黒騎士:しばしば暗黒騎士と同義とされるが、本来は傭兵騎士や主人を持たない騎士のこと。実在する概念。
- 暗黒騎士:暗黒の力など、ネガティブな要素を力して闘う騎士。ダークナイトとも。
- 女騎士:女性の騎士だが宗教的な問題でほとんど実在しない。
- 姫騎士:王女や皇女の中で、騎士としても務めている者。
- 竜騎士:竜(ドラゴン)と縁のある騎士。作品によって人間だったり竜族の戦士だったりする。ドラゴンナイトとも。
- 重騎士:重い装備の騎士のこと。
- 魔法騎士:魔法を使える騎士。
- 三騎士:特定の三人の騎士を指す呼称。
- 四騎士:特定の四人の騎士を指す呼称。
創作での騎士関連
騎士と名がつく作品
- のび太と竜の騎士:映画ドラえもん第8作目。
- リボンの騎士:手塚治虫による少女漫画。
- 魔法騎士レイアース:CLAMPによるファンタジー漫画。
- まもって騎士、みんなでまもって騎士:エインシャントから発売されたアクションゲーム。
- 女王騎士物語:月刊少年ガンガンで連載していた漫画で最終回は怒涛の展開に。
- ドラゴン騎士団:押上美猫原作の漫画。
- 花騎士:フラワーナイトガール(FLOWER KNIGHT GIRL)の略称。
- 最後の騎士王:実写版トランスフォーマーシリーズの第5作。
- アルガス騎士団:SDガンダム外伝第三弾のタイトルで騎士団名でもある。
- 騎士竜戦隊リュウソウジャー:スーパー戦隊シリーズ第43作目。
- エリアの騎士:伊賀大晃原作・月山可也作画による日本のサッカー漫画作品。
- 白騎士物語:レベルファイブから発売されたロールプレイングゲーム。
騎士と名がつくグループ
- 整合騎士:ソードアート・オンラインに登場する騎士団。
- 呪騎士、天騎士:ぷよぷよ!!クエストに登場するキャラクターの総称。
- グルメ騎士:トリコに登場する団体。
- 神殿騎士団、神殿騎士:ファイナルファンタジータクティクスに登場する組織と構成員。
- 悪魔六騎士:キン肉マンに登場する集団。
- 黒の騎士団:コードギアス 反逆のルルーシュに登場する架空の集団。
- 黒の騎士団:イナズマイレブンGOに登場する架空のサッカーチーム。
- ハノイの騎士:遊戯王VRAINSで暗躍する架空の組織とそれに関わる人物の事。
- 時空の七騎士:爆ボンバーマン2に登場する敵キャラクターの集団。
- 白竜騎士団、黒竜騎士団、リュミエール聖騎士団:グランブルーファンタジーに登場する騎士団。
- ジェダイの騎士:STARWARSに登場するジェダイ・ナイトの日本語訳。
- 黙示録の四騎士:ヨハネの黙示録に登場する四人の騎手たちの事を指す。
- 神霊騎士:VS騎士ラムネ&40炎に登場するロボットの総称。
- 西風騎士団:原神に登場するモンド(原神)の騎士団。
- 王国騎士:モンスターハンターライズ:サンブレイクに登場する騎士団。
- シグナス騎士団:メイプルストーリーに登場する騎士団。
- 正十字騎士團:青の祓魔師に登場するエクソシストの団体
- 星十字騎士団【シュテルンリッター】:BLEACHに登場する滅却師の軍勢・見えざる帝国の精鋭部隊。
騎士と名がつくキャラ
- 上級騎士:ダークソウルに登場する装備品及びそれを装備したキャラクター。
- 騎士ガンダム、騎士アレックス、騎士アムロ:SDガンダム外伝騎士ガンダムシリーズに登場するキャラクター
- 黄金騎士:牙狼<GARO>シリーズに登場する黄金騎士ガロの事。
- 騎士団長:とある魔術の禁書目録の登場人物で騎士派の長。
- 騎士アーロン:ダークソウル2に登場するキャラクター。
- 暗黒騎士団長:千年戦争アイギスの登場キャラクター。
- 駆動騎士:ワンパンマンに登場するS級ヒーロー。
- 煉獄騎士:フューチャーカード バディファイトの登場人物。
- 幻騎士:家庭教師ヒットマンREBORN!に登場するキャラクター。
- 蒼の騎士:東京ミュウミュウに登場するキャラクター。
- 黒騎士イリア:白猫プロジェクトの登場キャラクター。
- 黒騎士ブルブラック、黒騎士ヒュウガ:星獣戦隊ギンガマンに登場するキャラクター。
- 魔界騎士イングリッド:対魔忍シリーズに登場するキャラクター。
- 漆黒の騎士:ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡、暁の女神に登場するキャラクター。
- 魔境騎士 ダリア・サターチア:方天戟氏の描き下ろしイラスト「魔境騎士 ダリア・サターチア」を、多才な表現力のラジオウェーブ・パラドックス氏が原型を製作、彩色は醇正な彩りで魅了するyozakura氏が立体化させたフィギュアのキャラクター。
他騎士関連
- 竜の騎士:ドラゴンクエスト ダイの大冒険に登場する神々の遺産。
- 姫と騎士:姫と騎士のイラストに付けられるタグ。
- デュラハン:西欧の妖精で「首なし騎士」。
- 青騎士:多くの作品に使われている騎士の名前・異名。
- 赤騎士:多くの作品に使われている騎士の名前・異名。
- 騎士×姫:カップリング属性の一つ。
- 竜騎士07:同人サークル07th Expansion所属の同人作家。
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