概要
カロリング物語群(フランスもの)とも呼ばれるフランスに伝わるカール大帝の治世を基に作られたカール大帝伝、そしてスペイン侵攻にアスプレモン、ガラン・ド・モングラーヌやドーン・ド・マイヤンスなどの叙事詩の総称。また、モルガンテなどイタリアで書かれた叙事詩なども含める。ゲルマン封建社会を背景に武勲詩(シャンソン・ド・ジェスト)、アーサー王伝説など共に騎士道物語の代表と言える立ち位置にある。
キリスト教を信仰するフランク王国とサラセン人などの異教徒の戦いを描いており、フランク王国の君主『シャルルマーニュ』と彼が最も信頼する戦士達『パラディン』を中心に物語が進む。
アーサー王伝説などと比べて比較的史実寄りだが、結局は伝説であるのでルネサンス期のイタリア叙事詩が顕著だが作品によってはキリスト教から見て異教のギリシャ神話とリンクしていたり、東洋世界への理解の乏しさから時代考証がフリーダムすぎるといったケースが見られる。
特にフランスの『ローランの歌』やイタリアの『狂えるオルランド』といったパラディンの一人である『ローラン』を主軸に据えた作品が非常に有名。
アーサー王伝説に比べて、日本では全盛期ほど知名度は高くなく題材にした作品が少ないが、欧州キリスト教圏における騎士物語の本家王道でオートクレールやデュランダルといった武器の知名度はそれなりにあるのか多くの作品に登場している。
なお、パラディンを聖騎士と表現するのはこの伝説の影響によるところが大きく、元々パラディンは親衛隊や高級貴族の称号として使われていた言葉である。
登場人物
主要登場人物
- シャルルマーニュ
史実におけるカール大帝(名前も、フランス語におけるカール大帝の読み方の一つ)。ジョワユーズという剣をもつ。
史実上のロンスヴォーの戦いの時期にはまだ30歳前後だったのだが、伝説においては屈強な老騎士という姿で描かれる。
十二勇士(パラディン)
ドゥーズペール。シャルルマーニュ十二勇士、十二勇将、十二臣将とも。
シャルルマーニュ配下の中でも最も武勇に優れた戦士達がこう呼ばれる。アーサー王伝説における円卓の騎士ポジションで、史実上でも起こったロンスヴォーの戦い(ロンスヴァルの戦い)で多くのパラディン達が命を落としたという。
- パラディン一覧
ここに記載されている以外にも十二勇士とされる人物は存在する。
名前 | 解説 |
---|---|
ローラン | 表記揺れ:オルランド(伊)。聖剣デュランダルを所持しており、パラディンの中でも特にシャルルマーニュからの信頼が厚い筆頭騎士。フランス武勲詩だけでなく、ドイツにはブレーメンに世界遺産が存在する中欧でとくに有名な騎士の代表。ただし数世紀後のイタリア叙事詩『狂えるオルランド』では神罰で理性を失い失恋のショックで怪物化、全裸になるHENTAIと化す事も。歩くタイトル回収。これでもチート設定の塊である(全身無敵のスーパーアーマー持ち、素手で怪物や竜と戦える怪力持ちなど。) |
オリヴィエ | オートクレール、グロリユーズという2本の剣を所持している。ローランとは良き親友で義理の兄、また相談相手で共に戦う良き相棒である。智将と称され最後の戦いでは槍の穂先が無くなろうと奮戦した。 |
テュルパン | 聖都市ランスの実在の人物とされる。大司教。本伝説上ではアルマス(エーグルデュール)という剣を持つ。またグランデピエ(グランテピエ)という槍も所持している。 |
オジェ・ル・ダノワ | ホルガー・ダンスク。コルタン(カーテナ)とソーヴォジーン(ソーヴァジーヌ)という2本の剣を所持。王子に息子を殺されたショックで王に叛逆をした。デンマークの騎士であり、アンデルセンが地元の英雄として童話を書いている。アーサー王伝説にも関わりを持つ。トランプのスペードのジャックの人物とされる。 |
リナルド(伊) | 表記揺れ:ルノー・ド・モントーバン(仏)、ライノルト(独)。マラジジの従兄弟。魔法の馬バヤールと魔剣フロベージュを所持している。 |
マラジジ(伊) | 表記揺れ:モージ、モーグリ(仏)。パラディンの中でも非常に魔法に優れており、黄金の心臓を持つ賢馬バヤールを所持していた。 |
リッチャルデット | イタリア叙事詩におけるリナルドの弟。妹ブラダマンテと似ていてスペインの姫に惚れられた彼女と入れ替わったこともある。フランスのリシャール・ド・ノルマンディーと混同されている。 |
ジラール・ド・ルシヨン | 表記揺れ:ジェラール2世、ジラール・ド・ヴィエンヌ(ガランの息子)。史実上の人物。 |
ネーム | 表記揺れ:ナモ、ネイムス(ネームス)。バイエルン公。ドルチェボーナという剣を持つ。 |
オットン | 表記揺れ:オステ、オットーネ。ネームの息子とする場合があり数々の物語に名があるが謎が多い。 |
ベランジェ | 表記揺れ:オットンと組むことが多く同じくネームの息子とする場合がある。 |
ジョフロワ | アンジュー公。 |
アストルフォ | ローランの従兄弟であるイングランド王子。主にイタリア叙事詩の方に登場し、パラディンの中でもかなり弱いが、数々の不思議な道具やヒポグリフを駆使して困難に立ち向かう。アホの子しており、月へ旅行しに行ったりもした。 |
サロモン | ブルターニュ王。出番が非常に少ない。 |
フロリマール | 別名:ブランディマルテ。最も善良な騎士。イタリア叙事詩に登場。トランケーラという剣を所持。名はブルフィンチ版でブラダマンテとの名前被りを気にしてのもの。 |
ガヌロン | 表記揺れ:ガノ(伊)。十二勇士の裏切り者で、ローラン憎しのあまり敵側に付いた。ポジションとしてはモルドレッドに近い。ミュルグレスという剣を持つ。 |
その他の騎士
この時代の伝承でもかなり珍しい貴重な女騎士。リナルドの妹。
- ロジェロ(ルッジェーロ)
ブラダマンテの恋人で、怪物を退治できるほどの強さを持っているが、両親が結婚を認めなかった為、実質上のピーチ姫枠となる事も。魔法を無効化する魔剣ベリサルダを(紆余曲折を経て)入手する。この他、魔法の盾やヒポグリフを所持している。
- フィエラブラ
サラセンの騎士。オリヴィエのライバル的ポジションで3つの名剣バプティズム(バプテーム)・プルウォランス(プルウァーランス)・グラバム(ガルバン)をもつ。後に改宗しシャルルマーニュの傘下となる。
- オテュエル(オティネル)
サラセンの騎士。フェッラウの甥で名剣コルスーズ(キルケイス)を持つ。ローランをして強いと思わせる程の実力を持ち、ローランの提案でシャルルマーニュの娘ベリセントと結婚し改宗する。
- ドーン・ド・マイヤンス
オジェ、ガヌロン、リナルドとその兄弟、モージ、ユオンの祖父でジラールの父。
シャルルマーニュに対する反逆者の代名詞。
- ユオン・ド・ボルドー
表記揺れ:ボルドーのヒュオン(ユオン)
自身の領地を狙ったシャルルマーニュの息子を返り討ちにしたことで、贖罪のための冒険を繰り広げることになる。
- アラール(アラルド)
- ギシャール
- リシャール(リッチャルド、リカルド)
- グイド
その他リナルド(及びリッチャルデット、ブラダマンテ)の兄弟たち。
アラール、ギシャール、リシャールは主に武勲詩『エイモン公の4人の息子』に登場。グイドは兄リナルドのライバルでもあったとされる。
その他(主にイタリア『狂えるオルランド』より)
- アルガリア
触れた相手を落馬させる魔法の槍を持ったスキタイの王子。姉のアンジェリカの婿を決める槍試合においてこの槍を使って連勝を収めるも、諦めの悪い騎士フェッラウ(フェロー)が馬から降りて剣で戦おうと提案した事で、試合後に追い詰められて殺害された。この槍は棚ぼた式でアストルフォが持って行くという訳である。
- マンドリカルド
ヘクトールに関する物品を蒐集しているタタール王アグリカンの息子。一騎打ちで父を殺したオルランドを仇と憎んでいる。
ローランからデュランダルを奪おうと画策し、戦いもせずデュランダルを手に入れた後、ロジェロの持つ盾を巡って決闘を繰り広げ、敵わず倒されデュランダルを奪われた。
しかしながら実力は高く、オルランドを倒すためにヘクトールの武具を手に入れる試練では大蛇や巨人を倒しているほど。「デュランダルを手に入れるまで真剣を武器としない」という妖精への誓いはこの時に立てたもの。
ちなみに、本体もかなり頑丈であり、アルメニアで冒険に必要な武具を奪うためにテントに侵入した際に魔術の防犯システムのようなもので自分の下着ごと盗んだ物品が焼き尽くされても泉に飛び込んで事なきを得ている。
- アグラマン
アフリカの王。父の仇とシャルルマーニュを討つべく大軍勢を率いて攻め込んで来た。
- ロドモン
アルジェリア王。アグラマンの提案で攻め入るがリナルドと一騎打ちで負け、アグラマンと喧嘩別れし、イザベラを手籠めにしようとして失敗。そして通りすがりのオルランドにボコられ川に落ちる。
- カリゴランテ
人喰いの巨人で、ヘファイストスが作り上げた神すらも捕らえる網を所持しており、早速、罠を仕掛けるも角笛を吹いたアストルフォに追い立てられ、自分の仕掛けた罠に引っ掛かってしまうという間抜けな所がある。
その後アストルフォに牽引されて、街で見世物にされる羽目になった。
- フエッラウ
表記揺れ:ヴェルナギュ、フェラギュ、フェラグス、フェロー
スペイン人のイスラム教徒。その目は鷹や鷲に例えられる。魔力による加護でへそ以外への攻撃が全く効かない。なぜへそなんだ…。
- マルフィーザ(マルフィサ)
インドの女王あるいは女帝。ロジェロの妹。ペルシアをはじめとして7つの国を制圧した。使用する剣の種類はファルシオン。
- アルチーナ
モルガンの姉妹とも言われる多くの騎士と恋に落ちては飽きると様々な物に変えて殺すという恐ろしい魔女。ギリシャ神話のキルケーと非常によく似通っている他、オペラの題材にまでなった。
ヘラクレスの柱の向こうにある島に住んでいる。
- ロジェスティラ
魔女三姉妹の一人。多くの騎士を誑かしては捨てたり、ブリテンを崩壊に導いたりとまともじゃねえ姉二人に囲まれる中、唯一善人として育ったのが彼女だけである。魔術の極意を記した魔導者書やハルピュイアが驚いて逃げるほどの爆音を放つ角笛などの宝物を与えてアストルフォの冒険をサポートした。
姉らと同じ島に住んでいるが、問題児の姉二人と暮らせるはずもなく、山脈を隔てた場所に国を構えている。
- アンジェリカ
カタイ(中国の事なのだが、ところどころインドなどの東洋諸国と混同されている国)の王女。槍試合の惨状に呆れて魔法の指輪を使って逃げ出すと、オルランド達がアンジェリカは俺の物だとばかりに追跡する辺り、相当美しかったようである。
書かれた時代的に中国の知識が乏しかった関係で名前は西洋風である。
- メリッサ
魔女兼巫女。マーリンの墓でブラダマンテと出会い彼女の相棒となる。
というのもロジェロがアルチーナに魅了されてブラダマンテの事など忘れてしまったからである。
- モルガンテ
オルランドの部下である巨人。最後は蟹に挟まれて死んでしまったり、友人のモルグーテは笑い死にするなどギャグ展開のオンパレードみたいな人物。
- アトラント
ロジェロの育ての親である魔術師。
アーサー王伝説に登場する魔法使い。ブラダマンテに助言を与える。
ギリシャ神話に登場するトロイアの王子。本人は登場しないが、ブラダマンテ、ロジェロ、マルフィーザなどの子孫が登場。また彼が使っていた武具(鎧、兜、盾、デュランダル等)を巡って前述の子孫達や諸国の王が争奪戦を繰り広げることになる。
彼が言及される背景には、ルネサンス時代のイタリアはトロイアの末裔を自称し、叙事詩『狂えるオルランド』が「パトロンであるエステ家はヘクトールの子孫である」との喧伝に執筆させたものだから。
ヨーロッパの伝承に登場する悪魔。マラジジの使い魔として登場。このような高位の悪魔を召喚できる辺り、マラジジは相当な手練れだと推測される。
アルベリッヒ(独)。ヨーロッパ、特に中欧の伝承に登場する妖精の王。ユオン・ド・ボルドーの助っ人として活躍する。
母親はモルガンまたはグロリアンダ、父親はカエサルとされる。シェイクスピアのオベロンは騎士ユオンの英訳から創作されたもの。
信仰が薄れてきた人間たちに怒って、海神プロテウス(バルトアンデルスのモデル)によってアイルランド近海にあるエビューダ島に送り込まれた海獣。
島民によって生贄にされたアンジェリカを襲ったが、ロジェロの魔法の盾で目潰しされて退散した。
ギリシャ神話に登場する怪鳥。アストルフォが持つ角笛の音で追い払われた。
元はアーサー王伝説に登場する魔獣。
オジェ・ル・ダノワと対峙し、敗れた。
伝説に登場する武具
該当項目参照。それぞれシャルルマーニュ、ローラン、オリヴィエの剣である。
- コルタン
オジェ・ル・ダノワの持つ切っ先の欠けた剣。
別名慈愛の剣とも呼ばれ、トリスタンが持っていたとする伝承もある。
イングランドの刀鍛冶に鍛えられた氷に似た輝きを持つという剣。
テュルパン大司教の持ち物。
- ベリサルダ
魔女が『香草汁、根、呪文』の素材から作った剣で、ロジェロが入手した。
破魔の効果を持つという。
ガヌロンの持つ刀剣で、柄は黄金色で、他の刀剣同様に聖遺物が収められている。
- グロリユーズ
オリヴィエが持つとされる剣。絶対に壊れる事が無かったデュランダルを叩き割れるほどの切れ味を誇るが、本家シャルルマーニュ伝説には登場せず、19世紀の作品による創作。
- バプテーム(バプティズム)
オリヴィエがフィエラブラから奪った剣。フィエラブラはその他にもプルウォランス(プルウァーランス)・グラバム(ガルバン)という剣を持ちこの三本は刀匠アグニジアックスによって作られたものである。
- プレシューズ
バビロニア総督バリガンの剣。
ジョワユーズに対抗して作られた『勝鬨』を意味する剣。
- ガロセフェレ
シャルルマーニュが持っているもう一つの剣。若い頃に異教徒の王ガラフから授けられた剣。
この他様々な刀剣が登場している。
題材・モチーフにした創作作品
Fateシリーズ
シャルルマーニュをはじめアストルフォ、ローラン、ブラダマンテがサーヴァントとして登場している。ブラダマンテが十二勇士に加わっているのは型月オリジナル設定である。⇒十二勇士組
尚、敵側からはまさかのマンドリカルドが参戦している。この影響で日本では無名だった彼の地名度が大幅に向上している。
遊戯王OCG
カテゴリ『聖騎士』のシリーズカード焔聖騎士としてローランやリナルドがモンスターカードとして登場している。