五大明王のうち東方に配される尊格であり、阿閦如来の教令輪身。
降三世(トライローキャ・ヴィジャヤ)とは「三界を降伏させた者」という意味である。
シヴァにも「三界の主(トリローカパティ)」という異名があるが、
降三世明王とのエピソードを見ると意味深である。
シヴァとその妻ウマー(パールヴァティ)は自分達こそ世界の支配者であるとして仏教に従わなかった。
そこで大日如来あるいは阿閦如来はこの恐るべき忿怒尊の姿をとり、二人を力でもって降伏させた、とされる。
実際、仏教においてはシヴァ(大自在天)や彼の諸相の一つマハーカーラ(大黒天)は護法神である天部になっている。
「降三世」とは、「三界の主(シヴァ)」を降伏させた、という意味であり、
シヴァを最高神とするヒンドゥー教(ヴェーダの法)ではなく、仏教(仏法)こそが真理であり三界を支配するものである、という含意を持つ。
降三世明王を模した仏像においても倒れたシヴァ夫妻に乗っかかる形になっており、他宗教における大神を踏みつけるという異色のデザインとなっている。
ヒンドゥー教においては、アスラ神族のシュンバとして現される。
シュンバは弟の二シュンバと共に、かつて三界を支配したアスラの偉大なる王マヒシャースラの仇を取ろうと、神々に戦いを挑んだ。
シュンバと二シュンバは圧倒的な力を発揮したが、かつてマヒシャースラを殺めた女神ドゥルガー、及び彼女の怒りから生じた新たな戦女神カーリーが参戦すると劣勢になり、遂には二人とも殺された。
ご覧の通り、仏教とヒンドゥー教とで話の結末が大きく異なり、仏教とヒンドゥー教の微妙な関係がうかがえる。