概要
マハーカーラは、梵語で“偉大な、大いなる”を意味する「महा:マハー(mahā)」と、“時間、黒、死”を意味する「काल:カーラ(kāla)」の所有複合語(bahuvrihi)で、“偉大なる時間/死/暗黒”を意味し、転じて「時を超越した黒き者」の意味を持つ。仏教では大黒天と訳す。
ヒンドゥー教におけるマハーカーラは即ち、生命が時間の経過とともに死に結び付くように、あらゆる存在の時間を包括し死に導く破壊神シヴァの別名として扱われ、シヴァの夜の姿、または世界を最後の帰滅に導く時にとる姿としている。
マハーカーラは後に仏教にも取り入れられており、他のインドの土着神と共に天部に組み込まれ、死の神としての性格そのまま仏教に登場している。
例を挙げれば『孔雀明王経』では、天竺の烏尸尼国(ウッジャイン)の東にある奢摩奢那(シャマシャナ)という広さ1由旬(ヨージャナ)の死体を捨てる森に、摩醯首羅天(マヘーシュヴァラ)の化身である大黒天が住んでおり、鬼神などの眷属を有して夜になると森の上空を飛行して回っている。大黒天は姿を消す隠行の薬や長生の薬、飛行や幻術の薬等数多の宝物を持っており、人々はこれを求めて集まり、薬の量や効果に合わせて生きた人間の血肉を要求される。大黒天はこれ以外にも優れた力を持ち、信心する人を加護し敵に対して勇猛果敢な闘戦の神である。
他にも『大日経疏』では、人を喰らう荼枳尼天を懲らしめるために大日如来が大黒天の姿に変じて彼女を口の中に入れて食人を禁じる話もある。
特にチベット密教のマハーカーラは裸形忿怒相で現代にまで伝われており、曼荼羅図の四隅に脇侍を置き、三目六臂で火炎を背に負って、孔雀王経の如く人の肉を切り取るハサミ(剪刀)とドクロの杯を持ち、死人を踏み据えている。
これらマハーカーラの威容は悪霊を退けるための密教儀礼で重要な役目を持ち、悪霊を倒して人々に安住をもたらす神として各家庭で像を祀っているといわれる。
一方、仏教の神として時代を経るごとにマハーカーラの神性は変わっていき、インド南方では台所の神とみなされた。これが海路を通じて南方から伝わったことからアジア東南部で厨房や食糧庫を守る神として祀られ、そこから中国を経由して日本に「台所の神」として伝えられたといわれる。