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自然、人生に触れて発生するしみじみとした感情。

漢字で書くと「物の哀れ」。

概説

平安時代思想・観念の一種とされる概念。

提唱者は江戸時代後期の国学者本居宣長であり、日本の文学・思想学に大きな影響を及ぼした。

それまで江戸時代の思想概念は「勧善懲悪」に偏っており、白黒をハッキリつけて悪側を貶める曲論(事この場合は「事実や視点を度外視した二元論」)的な思想が「簡潔で判りやすい」と称賛されていた。

現代に伝わる江戸時代に表された軍記物語講談で、各時代の武将たちがあからさまに善悪に割れていたのも、この時代特有の善悪二元論に基づくが故である。

この根本には江戸幕府の推進する朱子学による儒教思想も絡んでおり、大雑把に二分することで物事を深読みする余地を排し、幕府の推進する施政への疑念を薄める効果もあった。

その曲論思想は過去の文学作品の評論にまで及ぶものだったが、本居は『源氏物語』の研究に当たって単なる教養や既成概念で読まれてきた本著に対し、作中の和歌や登場人物の心情に視点を向けて分析し、その中に「時代や動かしがたい天地の理法に流される人間の哀愁」を見出す。

ここから無常観の観念が『源氏物語』に息づいていたことを発見し、善悪の天秤で大雑把に判断するのでない、人物に宿る思想や背景に深い理解を示す視点が必要であると訴えるようになった。

本居はこれを「もののあわれをしる」の一句に凝縮している。

以降、「もののあはれ」はと並んで平安時代の代表的な思想として認知され、これまでの文学作品も単純な善悪ではなく、人物の背景や心情を考察して評価する流れが発生していくようになる。

そして日本人の美意識や思想にも影響は及び、それまで「正義がすべて」「力と勢いが美学」だった観念の中に「哀愁を感じる繊細さ」(いわゆる「わびさび」)の概念を再認識させていくことになった。

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