概要
サマエルは聖書偽典「ギリシア語バルク黙示録」などで言及される天使で、その名はヘブライ語で『毒』を意味する“sam”が語源とされる。またアジアの恐怖の神サマナ(サーマ)が前身だという説もある。
「バルク黙示録」は預言者エレミヤの弟子バルクが天使とともに見聞した天上世界の記録とされる。
その中でバルクは同行する天使に『アダムを惑わせた木とは何か?』と質問した。天使はそれが葡萄の木であり、それを植えた天使こそがサマエルであること、神はサマエルと葡萄の木に呪いをかけてアダムが木に触れることを禁じたこと、サマエルはアダムに葡萄から酒を作らせてその味を教えて欺いたことを説明した。
そして天使は葡萄酒を飲んだアダムは神の怒りを買って楽園を追われ、サマエルもまた天から追放されたことを語り、最後に酒におぼれる者は神の栄光から遠く隔てられ、永遠の火に自らをゆだねることになり、酒を通して善が成されることはただの一つもないと戒める。
なお、バルクは葡萄酒がキリストの血として扱われていることについて質問しており、それについて天使はノアが大洪水の後に見つけた葡萄は神の許可の下に大地に植えられ、原罪をもたらした葡萄酒はキリストによって復活と楽園への回帰を授ける“神の血”になるよう神自身に祝福されたと解説している。
「バルク黙示録」のサマエルは楽園喪失の原因と葡萄酒の起源として扱われているが、ユダヤ教の伝承でもサマエルが蛇を唆して間接的にイヴを誘惑した話や、モーセが神へ祈った際にその口を塞いで妨害したことが語られており、偽ヨナタン訳聖書ではイヴを騙したのはサマエルとされる。
以上のようにサマエルはユダヤ伝承において誘惑者、敵対者の性格や蛇との関連が強い“死の天使”として扱われ、サマエルを打ち倒せるのはメタトロンとイカトリエルだけで、サンダルフォン率いる天使の軍団と常に戦い続ける存在ともいわれる。また伝承によっては12枚の翼を持つという。
サマエルはサタンの原型とみなされており、時代が降るとともに両者は同一化が進んだとされる。
また、カバラ哲学では「ゾハール」において地獄の大君主である“毒と死の天使”、グノーシス主義では物質界を創造した偽の神ヤルダバオトの別名に“盲目の神(サマエル)”がある。