「火吹山の魔法使い」とは、イギリスの出版社「ペンギン・ブックス」から出版されていたゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第1弾「THE WARLOCK OF FIRETOP MOUNTAIN」の日本語版タイトルである。出版社は社会思想社で、その後扶桑社からも復刊されている。
作品解説
「火吹山」。山頂部に赤い植物が群生している事からそう呼ばれる山の地下には、迷宮が存在する。
そこは、かつてはドワーフが長年かけて掘り進んだもの。しかし後に、悪の魔法使いオルドラン・ザゴールが乗っ取り、更には自身の力で拡張。より深く広大な「地下城砦(ダンジョン)」に変貌を遂げた。
ザゴールはそのダンジョンの最深部に、莫大な財宝とともに座しているという。その財宝目当てで多くの冒険者が挑み、そして地下城砦に蠢く怪物たちの前に倒れ、ほとんどが生きて戻れなかった。
その僅かな生還者も、二度と挑戦しようとはせず、悪名だけがより有名になり現在に至っている。
だがそれでも、新たな挑戦者は後を絶たなかった。今日もまた一人、新たなる冒険者=君が、この地下城砦に向かっていた。
「ファイティングファンタジー」シリーズの、記念すべき第一作目。
最初の作品ゆえに、世界観も定まっておらず、登場するモンスターも、ゴブリン、オーク、スケルトン、ゾンビ、グール、狼男、ドラゴンといった、後のファンタジージャンルにおけるオーソドックスなものが多い。
しかし、日本においては、本作以前にはあまり無く、あってもマイナーだったジャンル、
すなわち、
『怪物が跋扈するファンタジー世界が舞台』
『剣を頼りに危難を切り抜け、冒険者として活躍』
というジャンルを定着させ、その魅力を大いにアピール。
『ヒロイック・ファンタジー』というジャンルに人気を生じさせ、定着させた一作である。
また、ゲームブック……すなわち「小説でありながら選択肢を有し、その選択に従い異なる結果や結末に至る」というコンテンツを、一躍有名にした作品でもある。本作以前にもゲームブックは存在していたが、人気・知名度ともに飛躍的に有名になったのは、本作からである。
システムは、
「技術(剣など戦闘技術、作業の成功率。)」6D1+6(7~12)
「体力(体力、耐久力、生命力。傷つけば減り、ゼロで死ぬ)」6D2+12(14~24)
「運(運試しに用いる。用いるごとに減っていく)」6D1+6(7~12)
の、三つのパラグラフをサイコロにより決定。
これら三つで、戦闘を含む全ての判定を決定する。
戦闘も、自分と敵と、順番にサイコロ二個を振り、技術点と足し比較。多い方が攻撃成功し、相手の体力点から二点ずつ引くという方式で処理している(運試しを併用する事で、体力が減るのを半分にしたり二倍にしたりなども可能)。
このように、サイコロ二個を振るのみという、簡略化したシステムもまた人気を得た理由の一つ。
煩雑なルールを徹底して簡略化し、敷居を低くする事で愛好者を得る事に成功したのだ。
ゆえに現在においても、ゲームブック、およびファンタジージャンルのオーソドックスな一作として有名である。
本作の成功が、後に作品世界「タイタン」を創造・設定させた。
企画経緯
1980年、ジャクソンとリビングストンが開催していたコンベンション「Games Days」に出展していた「ペンギン・ブックス」と、その女性編集者ジェラルディン・クークに、ジャクソンらが持ちかけたのが切っ掛け。
「ペンギン・ブックスからファンタジー・ロールプレイングゲームの本を出してはどうか」と持ちかけたジャクソンらは、快諾を得る。
最初期案ではゲームのやり方を載せたマニュアル本だったが、「どうせなら本自体でRPGができればいい」とジャクソンが思いつき、本作品の原型となる『マジック・クエスト』を製作。『火吹山の魔法使い』の執筆には6か月を費やしている。
なお、実際の刊行はペンギン・ブックスではなく、子供向け作品を手掛ける「パフィンブックス」が担った。
刊行当初は宣伝が為されなかったため、あまり売れなかった。
しかしTRPGファン、さらにBBCラジオのプロデューサーが取り上げるなどして、後にヒットするように。
日本での展開
日本語版は1984年、浅羽莢子による訳で、社会思想社の現代教養文庫より刊行。ゲームブックのブームを巻き起こした。その後、2005年には扶桑社よりほぼ同内容で再刊された。
※日本語版の書名には2通りの読み方がある。社会思想社版は奥付によれば「ひふきさん」が正しいが、サポート誌『ウォーロック』では「ひふきやま」と読ませる箇所があり、扶桑社版は表紙に「ひふきやま」と明記されている。日本語としてはどちらも間違っておらず、そもそも「火吹き山」と題した時点で原題の「FIRETOP MOUNTAIN」に対しては結構な意訳である。そのため「ひふきやま」派と「ひふきさん」派との間でわざわざ議論を交わすに値する事項ではないだろう。
『ウォーロック』日本語版1号・2号には、改訂版が2部構成で収録されている。
携帯電話アプリ版は、コンピュータゲーム開発者の佐野一直がタイトーとの共同運営による配信を行ったが、運営者間の不和や電話機の性能の問題が重なって成功には至らなかった。
2007年からはデジタル・メディア・ラボにより『炎冠山の魔術師』としてリメイクされ、同じ加賀電子系列のサイバーフロントが配信を行った。こちらは2012年2月29日に終了している。「炎冠山」という訳はより原義に近い意味合いに改められた一方、往年のファンからすると受け入れづらい一面もあった模様。
主な登場人物
主人公=君
本作の主人公にして、読者=プレイヤー。
剣を持ち、軽装の革鎧に身を包み、ザックを背負っている……と、後年に至るまでの基本的な姿をしている。
読者にイメージしやすくするためか、その背景や設定、外観などといったパーソナルデータはほぼ描かれていない。
オルドラン・ザゴール
火吹き山の盟主にして、悪の魔法使い(メイン画像の男)。
本作のラスボスであり、強力な魔法を武器として戦う。
「タイタン」世界においては、有名な三人の悪の魔法使い「悪魔の三人」の一人で、次作「バルサスの要塞」のバルサス・ダイア、後年の作品「モンスター誕生」のザラダン・マーの同門。この二人と協力して、自分の師匠を殺している。
剣による戦いは不得手の様子だが、心得ている魔法及び呪文がそれを補いなお余りある。
地下城砦の最奥の自室にこもっており、普通に戦ったらかなり苦戦させられる。
ただし、仕掛けを施したトランプを利用したり、あるアイテムを用いたりすれば、その限りではない。
『死人使い』の二つ名も持ち、アンデッドモンスターを作り出して自分の手勢に加えている。夢でデーモンからの啓示を受け、火吹山の地下城砦の事を知り、そこに攻め入り奪い取った。
ファリーゴ・ディ・マジオ
劇中に登場する呪文書を記した魔術師で、名前だけ登場。ドラゴンの炎を止める「龍火の呪文」を開発し、それを本に記した。
迷路師
地下城砦の中盤あたりで遭遇する、この迷宮を作った者。
オークの族長
序盤で遭遇する、オークの族長。原因は不明だが、召使のオークに対しムチを振るっていた。
何故か両手とも左手である。
渡し守
中盤で登場する。地底を流れる河川を、金貨を支払う事で船で渡してくれる。
しかし。渡し賃を「物価の高騰」などいい加減な理由で多く要求してくるが、それを断ると本性を表す。
囚われの老人
序盤の牢獄に囚われていた老人。牢獄を主人公が開くと、興奮しつつ、壊れた椅子の脚を持って迫ってくる。悪意はない。
舞台
火吹山
タイタンはアランシアの異教平原の北東部、その辺境部に存在する山。
その山頂部には赤い植物「眠り草」が多く生えており、一見すると山頂部から火を吹いているように見えた事からこの名で呼ばれるように。このせいで、かつては火山とも思われていた。
舞台となるダンジョンは、この山の真下に存在する。
火吹山の地下城砦
火吹山の真下に存在する、広大な地下迷宮。
かつては自然に存在していた、広大な洞窟で、ドワーフたちにより占拠されていた。その際に、ドワーフにより拡張工事が行われたらしく、更に広く深くなっている。
ザゴールは夢の中でデーモンからの啓示を受け、ここの存在を知り、オークおよびアンデッドの軍勢を率いて侵攻。ドワーフたちがため込んだ財宝ごと、この地下城砦を奪取した。
火吹山の宝物
最後のザゴールの部屋、その奥に安置された、三つの錠前が付いた巨大な宝箱に収められている。
内部には、大量の金貨や宝石、その他金細工物や宝飾品などが多数収められ詰め込まれている。しかし、箱自体は非常に強固で、壊すことは不可能。剣で切り付けても、頑丈なだけでなく、対盗賊用の仕掛けとして強烈な稲妻が落ちる仕組みになっている。この稲妻に当たったら一瞬で死亡。運が良ければ剣が砕け散るだけで済む。大きく重いため、箱そのものを運び出す事も不可能。
空けるためには、三つの錠前に合う、地下城砦のあちこちに隠されている鍵を手に入れるしかない(そのため、迷宮内を探索する際には、鉤を集めることも重要)。鍵には数字が刻まれており、その合計数値が合っていれば、開くことが出来る。当然ながら、外れの鍵もあるため注意が必要。
箱を開けられれば、中身の莫大な財宝は開けた者の所有になる。しかし箱の奥底には、「火吹山に住まう全てのモンスターを、完全に操る方法」が書かれた一冊の書籍が隠されている。これを用いる事で、クリアした冒険者=君がこの火吹山に留まり続け、ザゴールに代わる新たな支配者として君臨する事も可能である。
モンスター
鉄のサイクロプス
中盤のある部屋に鎮座している、金属製の等身大のサイクロプスの像。
その一つ目には、本物の宝石がはめ込まれている。宝石目当てで近づくと動き出し襲いかかられるが、倒すと宝石を入手できる。
宝石には魔力があり、うまく利用すると有利に事を進められる。
オーク
最初に遭遇するのが、入り口付近で歩哨に立っているが居眠りしている兵士のオーク(ゴブリンそっくりな外観らしい)。ダンジョンの奥に進むに従い、様々なオークと出会う。途中の部屋では、二人組でドワーフを拷問して楽しんでいた。
眠り草
火吹き山の山頂部に群生している、赤色の草。遠目に見ると、群生しているこの草のため、山自体が火を吹いているかのように見える。ここから「火吹き山」と言われるようになった。
本作では内容に関係はないが、後年の作品「雪の魔女の洞窟」においては、最後の試練の一部として登場している。
ゾンビ
アンデッドモンスター。劇中には雑魚敵として登場。複数登場した際には、手に棍棒、草刈り用の大鎌、つるはし、斧を手にしていた。
グール(食屍鬼)
同じくアンデッドモンスター。見た目は腐乱死体であり、主人公が近づいたら起き上がり襲い掛かって来た。生きた人間の肉を食らう。その爪には毒があり、四回傷つけられると麻痺してしまい、生きたまま食われる羽目になる。
ヴァンパイア(吸血鬼)
アンデッドモンスター。棺が多く置かれた部屋にて、その棺の一つから現れた。通常の武器は通用しない(剣を振るっても、その刃を素手で掴む)が、十字架は苦手で、それを掲げれば近づかない。また、銀の武器で傷つける事が可能。倒されるとその身体は塵と化し、魂である蝙蝠が出てきて飛び去る(二日もすれば復活する)。
魔人(墓鬼、ワイト)
アンデッドモンスター。やはり銀の武器しか通用しない。
骸骨(スケルトン)
動く骸骨。ボート小屋にて、ボートを作る作業に従事していた。
大ネズミ
巨大なネズミ。三匹で、とある部屋の中で骨や死体を齧っていた。普通に倒せるが、チーズの大きな欠片を用いれば、それを取り合って争い、その隙に逃げ出せる。
龍(ドラゴン)
迷宮の奥に潜む巨大な龍。炎の息を吐くが、もしも龍火の呪文を心得ていたら、それを唱える事で追い払える。普通に戦うと、かなり強い。
アイテム
鉄のサイクロプスの眼
はめ込まれていた大粒の宝石であり、魔力を有する。
眠りの贈り手
正確には「眠れぬ者への眠りの贈り手」。薄いケースに入っている弓と一本の銀の矢。アンデッドモンスターに対して効果があり、当てれば一撃で倒せる。
Y字型の棒
用途不明の棒。劇中で発見する事があるが、それを用いる場面は全くなかった(選択肢に出ていても、取り出そうとしたら真っ二つに割れていたりする)。
青いロウソク
ある部屋でのみ使用できるアイテム。火を灯す事で、松明の炎が消されたとある部屋の暗闇を照らし出す事が可能。ただし、減りが非常に速いため、使用時には早急な行動が必要。
シャベルやスコップ
地下城砦の拡張工事現場にて、放置されていた工具。ひとりでに動いて穴を掘るが、誰にも見られていないと怠けている。意志の疎通も出来るらしい。
金の三日月の盾
金の三日月が表面に埋め込まれた、金属製の盾。うまく利用する事で、戦闘時に傷を受けても通常の半分しかダメージを負わない。ただし、やや重たい。
龍火の呪文
魔術師ファリーゴ・ディ・マジオが作った、ドラゴンの炎のブレスを止める呪文。呪文書に記されていたもので、これを唱える事で、ドラゴンと戦わずして退散させられる事が可能。
関連項目
ファイティングファンタジー:ゲームシステム
タイタン(ファイティングファンタジー):ゲーム内の世界