概要
『ハヤブサ消防団』は、池井戸潤による小説。
『小説すばる』(集英社)にて、2021年6月号から2022年5月号まで連載された。2022年9月5日に同社より単行本が発売された。
2023年7月にドラマ化。テレビ朝日系列の木曜ドラマ枠で放送される。主演は中村倫也。主題歌は、ちゃんみなの「命日」。なお、中村とヒロインを務める川口春奈は2010年にTBSで放送されたドラマ『ヤンキー君とメガネちゃん』以来13年ぶりの共演でもある。
あらすじ
ある年の春、中部地方での取材の帰りにU県S郡八百万町ハヤブサ地区にある亡き父の生家である桜屋敷を訪れたミステリ作家の三馬太郎。屋敷に入り、家の風通しをして、2階のデッキからハヤブサ地区を一望した太郎は、この家こそ自分が住む場所なのではと思い立ち、東京の中目黒のマンションへ帰ると引っ越しの準備や、友人知人に田舎に引っ越すと宣言し、老朽化している桜屋敷の改修工事も施して、翌年の2月末で東京の生活を終えて、3月から桜屋敷に移住した。
移住半月後、自治会長が自治会の勧誘に訪れ、自治会の会合後に勘介に飲みに誘われ、その席で八百万町消防団ハヤブサ分団、通称ハヤブサ消防団にも加入することとなった。消防団加入式は3月末に八百万地区で行われたが、そのさなかにハヤブサ地区の民家から火の手が上がったとの通報があり、消防団の活躍により鎮火された。しかし、その後も不審火が多発したため、太郎たちは連続放火事件を疑うが…。
登場人物
- 三馬太郎(演:中村倫也)
35歳のミステリ作家。愛車はトヨタ・カローラ。5年前に明智小五郎賞を受賞して作家デビューした。両親は太郎が小学生の時に離婚しており母に引き取られ三馬姓となる。スランプ気味になり、亡父の故郷、山間の「ハヤブサ地区」に移住し、勘介たちの誘いで、ハヤブサ消防団の一員となる。同時に作家としての活動も行っており、立木の誘いでハヤブサを舞台としたドラマの脚本を手がける約束をしていたが、立木がドラマ企画の白紙化の件を黙っていたこと、嘘をつかれていたことに激怒し、一時立木と険悪になったが、翌日に謝罪し関係が修復された。ドラマも消防団の団員たちにより無事に再開された。
その後、中山田から立木がかつて存在していた新興宗教「アビゲイル騎士団」の信者であるという噂を聞かされた際には連続放火事件もあってか不信感を募らせていったが、思い切って直接本人にその件を聞いたところ、彼女が真実を明かしてくれたため、不信感を払拭することができ、交際することとなった。
しかし、アビゲイル教団がハヤブサ地区の乗っ取りを図る事態が発生したことで立木に裏切られ、再び不信感を募らせるようになる。
- 立木彩(演:川口春奈)
太郎と同じく東京から「ハヤブサ地区」に移り住んだ映像ディレクター。元々「東京アーツムービー」という映像制作会社で脚本家として働いていたが、自身の執筆した脚本を社長の浅野ヤスノリに無理やり盗用されゴーストライターになることを強要されてしまったことを機に体調不良となり、それが原因で退社した。ハヤブサ地区を舞台としたドラマを制作する予定だったが、町長からの圧力によりおじゃんとなってしまった。自身の誘いで三馬が脚本を担当することになっていたが、その事を三馬にも隠して嘘をついていたため、その件について叱責されたが、翌日にお互い謝罪したことで関係が修復。町おこしドラマの企画も再開することとなった。
しかし、中山田の調査によりかつて存在していた新興宗教「アビゲイル騎士団」の信者である疑惑が退社後から浮上していたことが明らかとなり、三馬が直接彼女にその件を話したところ、友人の滝川明日香の紹介でアビゲイル騎士団の信者となった経緯とアビゲイル騎士団の広報担当として働いた過去、当時交流していた信者たちの本当の実態を明かした。
その後、三馬と交際することとなった。
しかし、アビゲイル騎士団との関係を断ち切れてはおらず、教団の元顧問弁護士である杉森からの要請で映像ディレクターとしてハヤブサ地区に移住していたことが明らかとなった。
また、杉森からは「聖母」として神格化された展子の跡を継ぐ「第2の聖母」とされているが果たして…。
ハヤブサ消防団
- 藤本勘介(演:満島真之介)
団員。「八百万工務店」勤務。太郎とは幼少期に一緒に遊んだことがあり、彼の移住後は良き理解者となる。
- 徳田省吾(演:岡部たかし)
班長。呉服店「一徳堂」の二代目店主。骨董品を紹介するExTuber(動画配信者)。
後に彼が真鍋の内通者及び連続放火事件の犯人であること、アビゲイル騎士団の信者であることが判明した。東京を訪れた際の食事の席で太郎の推理により看破され、消防団の仲間から詰められるものの、「ハヤブサに帰ったら全て話す」と話していたが、その翌日に水死体となって発見された。
そして、彼の死を契機にハヤブサにアビゲイル騎士団の信者の残党による魔の手が忍び寄る。
- 森野洋輔(演:梶原善)
副分団長。町役場の土木課に勤めている。
- 宮原郁夫(演:橋本じゅん)
分団長。養鶏場「宮原養鶏」を営んでいる。
- 山原賢作(演:生瀬勝久)
部長。林業メーカー「山原林業」の社長。自宅が連続放火事件の被害に遭い、一時は意識不明になったものの、宮原の呼び掛けと心臓マッサージにより一命を取り留めた。
- 賀来武彦(演:福田転球)
協力団員。酒飲みの憩いの場「居酒屋サンカク」の店主。
ハヤブサ地区の人々
- 江西佑空(演:麿赤兒)
「隋明寺」の住職。住民たちからの人望も厚い。太郎のミステリー小説のファン。
後に、彼が展子の親代わりとなり彼女から「兄」として慕われていたことが判明する。
アビゲイル教団を受け入れた理由も、展子を取り戻し、自身の罪を償うためであり、自身の過去に対して未練と後悔がある。
- 村岡信蔵(演:金田明夫)
ハヤブサ地区が属する八百万町の町長。連続放火事件への対応が後手後手のハヤブサ消防団を「ポンコツ分団」と見下している。しかし、ハヤブサ消防団により観光助成金を愛人との交際費に丸々使い込んでいたことが暴露され、ハヤブサ地区を舞台としたドラマの企画再開を条件に脅されて仕方なく従う羽目になった。
その後もアビゲイル教団によるハヤブサ地区乗っ取りを静観し放置しようとしたが、不祥事の証拠を捨てていなかった賢作達にまたしてもハヤブサ地区における教団の乗っ取り計画を公表するよう脅されたものの、杉森の脅迫により賢作の要求を裏切った。
その後、職員から愛人がアビゲイル騎士団の信者だったこと、愛人のために使い込んだ観光助成金が全て教団への献金へと消えていたこと、杉森に脅されていたのはその件だったことが暴露された。
周辺人物
- 真鍋明光(演:古川雄大)
太陽光発電を手掛ける「ルミナスソーラー」の営業スタッフ。
しかし、山原に関する悪い噂を広げる、立木の自宅に張り込んで彼女の自宅をじっと見つめるなど怪しい言動が目立っていた。
後に、省吾の回想により浩喜殺害の犯人だったことが判明、後に彼もアビゲイル騎士団の信者だったことが判明した。
- 中山田洋(演:山本耕史)
東京にある出版社「草英社」の編集者。三馬の編集担当。非常にフランクな性格だが、立木の素性や周辺の噂を調べて彼女の危険性を三馬に忠告する、連続放火事件の重要参考人となりうる真鍋の経歴を調べて三馬の要望に応えるなど思いやりや冷静さも兼ね備えている。
- 山原浩喜(演:一ノ瀬ワタル)
ハヤブサ地区に住む札つきのワルという悪い評判が絶えない人物。その一方で、家庭菜園を始めるという太郎を訪ね、ナスやきゅうりと肥料を分けてくれる優しい一面を持つ。
波川志津雄の自宅が火災後に行方不明となり、「一の滝」の滝壺で水死体で発見される。
その後、近所の住人の証言により真鍋が彼に関する悪い噂が広がるよう仕向けたことが語られ、後に省吾の回想により真鍋によって殺害されたことが判明した。
- 杉森登(演:浜田信也)
アビゲイル騎士団の顧問弁護士。信者殺害事件後、教団の解散を記者会見で発表する。
彩から脚本の権利を奪われた件で相談を受け、浅野たちと交渉し、ショックで彩が出社できなくなった期間の未払い給与とボーナスを教団がバックにいることを匂わせ支払わせる。
その一方で、アビゲイル騎士団の教祖を含む上層部の行き過ぎた思想を見限り残党の信者達を集めて「アビゲイル教団」を設立。「真のユートピア」を創るために、ハヤブサ地区の乗っ取りを図る。
- 山原展子(演:小林涼子)
太郎の実家のアルバムに写真が載っている謎の女性。「アビゲイル騎士団」内では「聖母」として扱われており、彼女の故郷であるハヤブサ地区は「聖地」として扱われているが…。
- 野々山映子(演:村岡希美)
ハヤブサ地区の住人。何故か展子の写真を持っていたり、立木や杉森と行動を共にしていることが多いが、幼少期に展子と一緒に遊んでいたことが判明。立木や杉森と共にしているのも彼女が関係していると思われる。
余談
- 第1話にて、勘介が太郎との幼少期の思い出話を語る際に彼の前で変身ポーズを披露しているが、太郎役の中村氏は『仮面ライダーBLACKSUN』にて秋月信彦/仮面ライダーSHADOWMOONを演じていたため、特撮ファンの間で話題となった。
- 立木を演じる川口女史は同時間帯に放送されているTBS系列のバラエティ番組『モニタリング』にレギュラーとして出演しているため、裏かぶりを心配する声もあったが、テレビ朝日とTBS、スポンサーによる事前の協議により何だかんだ大丈夫だったようである。