الله, Allāh
イスラム教での唯一絶対神。もともとはアラブ在来の多神教の最高神であり、三人の娘(アッラート、マナート、ウッザー)がいるとされていたが、イスラム教開祖ムハンマドによって否定され、三女神を含む神々は実在しない単なる偶像とされた。ムハンマドによりメッカのカアバに安置されていた神々の像は破壊され、アッラーの神体とされていた黒石はカアバ外側に嵌め込まれる運びとなった。
アラーという語はアラビア語における定冠詞「アル」と神を意味する「イラーフ」を合わせた言葉であり、英語で言うなら「THE GOD」に相当する。
そのため、イスラム教以前もユダヤ教徒やキリスト教徒によって用いられており、現代に至るまでアラビア語訳聖書では神はアラーと表記される。アラーは固有名詞ではなく、神全てを指す一般名詞である。
イスラム教の神としてのアラーは、聖書の神ヤハウェ(YHVH)と同一の存在とされ、旧約からイエスにまで続く預言者もアラーが遣わしたとされる。
しかしアラーをYHVHと同一視しない場合もある。神は全知全能だが、YHVHは世界を作り終えた後しばし休養についており、イスラム派はこれを批判しているというものである。
が、最後の預言者ムハンマドが「ただの人間」であることが強調されることに現れる神と人との峻別、自分を信ずる者をひたすら愛し、その反面背信者には苛烈な報いを与えるなど聖書の神との共通点は大きい。ただし、聖書の神と違う部分もある。
彼が遣わしたとされる預言者のうち、「ルクマーン」など聖書に登場しない人物がおり、イスラム以前からアラブ民間伝承に登場していたジン(ジーニー)が炎から創造された被造物として挙げられている。
アラーの最終啓示とされる『クルアーン』のエピソードも聖書の記述とは異なっている。
『ヨハネによる福音書』で強調されるイエスの神性を、クルアーンではイエス本人が否定している点などがそうである。そうした違いは聖書に改竄が紛れ込んだためとされ、預言者ムハンマドを通して啓示されたクルアーンによって修正される、とイスラム教では考える。
宗教学上ではユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同系列の宗教であり信じている神も同一とされるが、ユダヤ教とキリスト教との関係が込み合っているのと同様、イスラム教とユダヤ教・キリスト教との関係もかなり複雑である。
アラーには愚像崇拝には珍しく姿があるという。しかしその姿を目にしたものは存在が消えるという。