北極圏のシベリア極東部・アラスカ・カナダ北部・グリーンランドに至るツンドラ地帯に住む先住民族の一グループ。
アメリカ先住民にも分類される。アメリカ先住民においても世界的に見ても最も北方で生活している民族である。エスキモーとも呼ばれる。
概要
伝統的には、彼らの生活圏はほぼ雪と氷に覆われる地域であったため、ほとんど純粋な狩猟採集民であった。
主な獲物は、漁を中心とするイヌイットはアザラシ・クジラ等、また陸での猟をするイヌイットはカリブー(トナカイ)などである。
固まった雪や氷をレンガ状に切り出してドーム状に積み上げたイグルーという住居を作ること、加熱をほとんど行なわず生肉を主食とする食生活でよく知られている。
ただし、イグルーは長期的住居でない(狩りのための仮小屋に過ぎない)地域や、そもそも作る習慣がない地域もあった(季節に合わせて移動する生活習慣であるため、恒常的な住居は持たないことが多い)。
今日では欧米、特にアメリカの食文化や生活習慣が流入し、生肉を食べる習慣も失われつつあり、狩猟も生活の基板から娯楽の一つへと変化しつつある。
とはいえ、生肉を主食とする食習慣は、野菜がほとんど食べられず(短い夏の間に実るベリーなどを食することはあった)、穀類は全く食べることの出来ない環境で不足するビタミンを補給する意味もあったので、現代的生活を行うイヌイットたちは不足するビタミンをサプリメントなどの形で補給している。
エスキモーという名称について
「エスキモー」という言葉は、アラスカで居住域が隣接していた亜極北圏のアルゴンキン系先住民の言葉で「かんじきの網を編む」という意味であったが、これが、東カナダに住むクリー族の言葉で「生肉を食べる者」を意味する語と誤って解釈されたことから、「エスキモー」という呼称はある時期においてしばしば侮蔑的に使用された。これには、生肉を食べる行為を野蛮であるとみなす人々の偏見などが背景にある。
特にカナダにおいては、この意識が強く、公的に「イヌイット」の名称が採用されている(これはカナダにおけるイヌイットの言語イヌクティトゥット語で「人」を意味する Inuk の複数形で、「人々」の意味である)。
(カナダでは、イヌイットによる自治を行なうヌナブト(ヌナブット)準州が設置され、イヌクティトゥット語が公用語に制定されている。)
しかし、エスキモーという名称自体は、北極圏で狩猟採集生活を行ない同系統の言語を用いる民族の総称として学術的に使われてもいるため(例えば彼らの言語はエスキモー・アレウト語族に分類されている)、単純に置き換えることは危険でもある。
さらに、厳密に言えば、アラスカでは「イヌピアト(イヌピアット)」(Inupiat)、シベリアやセントローレンス島に住む集団は「ユピク(ユピック)」(Yupik)と呼ばれており、彼らは同系統であるがかなり異なった言語と民族意識を持っており、そんな彼らをイヌイットと呼ぶには問題がある。
また、シベリアとアラスカにおいては「エスキモー」は公的な用語として使われており、使用を避けるべき差別用語とはされていない。
加えて、グリーンランドではカラーリットと呼ばれている(仮称としてグリーンランド人と呼ぶこともある)。