概要
北極圏のシベリア極東部・アラスカ・カナダ北部・グリーンランドに至るツンドラ地帯に住む先住民族。エスキモー・アレウト語族に分類される言語を用いる。
厳密には、カナダ北部やグリーンランドに住む民族はイヌイット(イヌクティトゥット語を話す)、アラスカ北部の民族はイヌピアト(イヌピアック語を話す)、アラスカ東部からシベリア極東部に住む民族はユピク(ユピク語を話す)と呼ばれ、生活文化は似ているもののそれぞれ別民族である。アメリカ大陸に住むグループはアメリカ先住民にも分類される。
イヌイット、イヌピアト、ユピクのいずれも北アジアにルーツを持ち、5世紀か6世紀頃という比較的新しい時代に、極東のモンゴロイドが北極周辺に居住域を広げたものと考えられている。
狭義では、エスキモーはそのうち、イヌピアト(とユピク)を指す総称であり、昨今ではこの使い方が主流である。
エスキモーという名称について
「エスキモー」という言葉は、アラスカで居住域が隣接していた亜極北圏のアルゴンキン系先住民の言葉で「かんじきの網を編む」という意味であったが、これが、東カナダに住むクリー人の言葉で「生肉を食べる者」を意味する語と解釈されたことから、「エスキモー」という呼称が、ある時期においてしばしば侮蔑的に使用された。これには、生肉を食べる行為を野蛮であるとみなす人々の偏見などが背景にある。
カナダにおいてはこの差別語の意識が強く、公的に「イヌイット」の名称が採用されている(これはカナダにおけるイヌイットの言語イヌクティトゥット語(Inuktitut)で「人」を意味する Inuk の複数形で、「人々」の意味である)。(カナダでは、イヌイットによる自治を行なうヌナブト(ヌナブット)準州が設置され、イヌクティトゥット語が公用語に制定されている。ローマ字表記も用いるが、ここではカナダ先住民文字という独特の文字が採用されている〔例:「ᐃᓄᒃᑎᑐᑦ」カナダ先住民文字でイヌクティトゥット語(Inuktitut)〕)。
どうして問題が起きたか
エスキモーという名称自体は、北極圏で狩猟採集生活を行なう民族の総称として学術的に使われてもいたことがそもそもの問題だった(例えば彼らの言語はエスキモー・アレウト語族に分類されている)。とはいえ、単純に全部をイヌイットに置き換えることは危険であるどころか、アラスカの人たちはそれに反発した。
厳密に言えば、アラスカでは「イヌピアト」(Inupiat)、シベリアやセントローレンス島に住む集団は「ユピク」(Yupik)と呼ばれており、彼らは同系統であるがかなり異なった言語と民族意識を持っており、そんな彼らをイヌイットと呼んではいけない。とりわけアラスカにおいては「エスキモー」は公的な用語として使われており、使用を避けるべき差別用語どころか、彼らに対しイヌイットと呼ぶことが大変失礼な行為に当たる。
中立的な立場の人たち
対するシベリアの人たちはどちらかというと同系統のエスキモー支持派だが、昨今ではユピックと自称していることが多い。
なお、グリーンランドでもイヌイット同様エスキモーという名称を拒んでいるが、イヌイットの名称を採用している訳ではなく、カラーリットと呼ばれている(仮称としてグリーンランド人と呼ぶこともある)。