概要
艦首にランプを備え、自らが岸に乗り上げる「ビーチング」によって戦車や歩兵を上陸させる。
第二次世界大戦時に開発され、太平洋やヨーロッパの多くの上陸作戦で活躍した。
しかし以下の難点があり、現在はより進歩したドック型揚陸艦に取って代わられた。
- ランプをつける関係上、艦首形状が平らになってしまうので抵抗が増え速度が出ない(これは上陸用舟艇にも言える事ではある)
- 着岸しやすくするために艦体前部の船底は平になっているので、外洋では横揺れがひどく、乗り心地があまり良くない(同上)
- 敵の砲火の中に飛び込まなければならない危険性(大戦中はこれによって多数が失われた)
- 戦車の大型化に対応できなくなった(このため、現在揚陸艦に戦車を搭載するのは稀で、港湾の確保後に事前集積船などの輸送艦から揚陸する形になっている)
- ビーチング中に潮が引くと座礁して戻れなくなる
とはいえ、途上国では先進国から退役した戦車揚陸艦が今でも使用されている所が多い。
また、韓国やインドではごく最近まで新造艦が登場していた。
なお、現在アメリカ陸軍では戦車揚陸艦のコンセプトを引き継いだ「兵站支援艦」を運用しているが、揚陸の後方支援などが目的でさすがに敵前上陸は想定していない。
主な戦車揚陸艦
アメリカ
- LST-1級
1,052隻もの大量建造がされた戦車揚陸艦。
大戦後は生き残りが友好国に多く放出された。海上自衛隊に3隻が引き渡された初代おおすみ型輸送艦もそのひとつ。
- ニューポート級
アメリカ最後の戦車揚陸艦。
艦首にランプをつけると速度が落ちてしまうならば!と艦首に大きなデリック・アームをつけ、甲板の上からランプを滑り台のように引っ張り出すという方式を採用。
これにより艦首形状は通常の艦船と同じになり、速度の問題は解消した…のだが残念ながら主流にならず。
2002年までにアメリカ海軍から全艦退役したが、台湾などでまだ現役。
日本
- 機動艇(SS艇)
旧日本陸軍が開発した戦車揚陸艦相当の揚陸艦。大発やあきつ丸をふまえればわかるように、陸軍は上陸作戦支援艦艇の開発には海軍よりも早くから理解があったのである。
しかし実用化した時は既に戦局が悪化していたため、輸送任務で多くが失われている。
- 第百一号型輸送艦
こちらは旧日本海軍が開発したもの。陸軍のSS艇と比べるとこちらの方がやや大型で、船首構造が平面構成、エンジンがタービン機関などの違いがあった。
SS艇と同様に多くが失われたが、こちらの方が多数建造され、終戦後は生き残りが復員船として使用されたり、賠償艦として引き渡されたりしている。
- あつみ型輸送艦
上記の初代おおすみ型を参考にして開発された、海上自衛隊初の国産輸送艦。発展型のみうら型も含め、2005年までに全艦退役。