概要
上陸用舟艇は、船舶のうち専ら人員や物資・車両等を輸送し、桟橋や岸壁などの港湾施設がない場所でも積載物を陸揚げできる能力を持つ船舶である。
港がない場所でも積み降ろしができるため、主に軍隊で短距離の小輸送や揚陸艦・輸送艦から海岸などへの物資の陸揚げなどに使われているが、港がない(作れない)地域を運行する民間フェリーなどに使われている場合もある。
エンジンを載せた艀に積み降ろし用のランプを兼ねた板状の船首をつけたデザインが特徴。
艦首形状が平らになってしまうので抵抗が増え速度が出ない事や、揚陸できる環境が限られてしまう(世界の全海岸のたった17%程度)のが難点。
加えて、浜辺などに乗り上げて陸揚げ(ビーチング)するために、喫水が通常の船舶より極めて浅く底面も平らなので安定性(乗り心地)が劣悪で凌波性が悪く、外洋を航行するのは極めて不向きである。
現在の主流は搭載量がそこそこあって戦車の搭載が可能な機動揚陸艇(LCM:Landing Craft Mechanized)と、より大型の汎用揚陸艇(LCU:Landing Craft Utility)。基準は国や時代によって違うが、現在では全長20~30m級がLCM、40~50m級がLCUとされる事が多いようだ。他にも、小型で軽車両や人員の輸送に特化した車両人員揚陸艇(LCVP:Landing Craft Vehicle Personnel アメリカが大戦中に使用した「ヒギンズ・ボート」が有名)もまだ使われている。
なお、LCACなどのエアクッション艇も(一部を除いて)上陸用舟艇の一種である。こちらは速度が高速で、揚陸できる環境も多彩(砂浜などであればそのまま乗り上げて走行することも可能)だが、導入費・維持費ともに高価で、特に大型になるほどその傾向が顕著となるため、通常の船舶型の上陸用舟艇と併用されるか、或いは導入していない国や地域もある。
自衛隊
旧日本軍の大発動艇が後の上陸用舟艇のデザインに影響を与えたのは有名だが、現在自衛隊の揚陸作戦(上陸作戦)の主力は海上自衛隊が保有するLCACと、強いて言えば陸上自衛隊水陸機動団が保有するAAV7水陸両用車や硬式ゴムボート等である。
また、ビーチング能力がある艦船では、1988年から運用している輸送艇1号型があるが、こちらは沿岸の僻地や離島への人員輸送を想定したもので、LCU相当のサイズでありながら戦車は搭載できない。しかも旧式化により2020年代に完全退役する。LCVPが米軍から供与されたり、国産化して運用していた時期もあったがすべて退役している。
他に交通船2121号型、交通船2150号型、運貨船9号型と呼ばれるビーチング能力を持つ小型な輸送船も保有しているが、これらは元が港内の人員輸送用なのでやっぱり戦車は搭載できない。しかもおおすみ型輸送艦に搭載できるのは、推進方式がウォータージェットの交通船2150号型だけな上、同型は2隻しかない。
現在では、近年の南西諸島防衛強化の一環で陸海空共同の「海上輸送群」設立が進められており、配備予定の『にほんばれ(LCU-4151)』ほか建造予定の同型艦3隻はビーチング能力があるとされ、加えてより小型の機動舟艇4隻が配備予定である。