概要
ヘリコプター揚陸艦とは、ヘリコプターを揚陸作戦に用いる揚陸艦。ヘリコプターを用いていれば、STOVL機を搭載する強襲揚陸艦であっても広義のヘリコプター揚陸艦に該当するが、厳密にはヘリコプターのみを搭載し、揚陸能力をそれに依存する揚陸艦のことをいう。なお、アメリカ海軍での艦種記号はLPH(Landing Plattform Helicopter)である。
来歴
第二次大戦後、アメリカ海軍・海兵隊では、揚陸のあり方が検討し直され、ヘリコプターの活用を進めることになった。これを受けて、護衛空母『セティス・ベイ』に改造を施して誕生したのがヘリ空母である。本艦は、揚陸任務を主眼とすることから、事実上のヘリコプター揚陸艦であった。
運用の中でヘリコプターの有用性が明らかになると、旧式化したエセックス級の一部艦を改装してボクサー級強襲揚陸艦とし、ヘリコプター揚陸艦の整備が始まる。これがヘリコプター揚陸艦の誕生とされる。ボクサー級はあくまでも漸進作に過ぎず、新造艦としてイオー・ジマ級強襲揚陸艦が建造・運用された。
また、イギリス海軍でも二次大戦後の1956年に旧式化したことから兵員輸送艦に転用したコロッサス級空母2隻にヘリコプターを搭載してヘリ空母として運用し始め、第二次中東戦争で史上初となるヘリボーンによる水陸両用作戦を実施した。その後、コロッサス級よりも大型で同じく旧式化したセントー級空母2隻をコマンドー母艦(commando carrier)として改装した。このコマンドー母艦は水陸両用作戦用のヘリ空母という事実上のヘリコプター揚陸艦であり、イギリス海軍はその有用性を高く評価していた。
しかし、ヘリコプターのみではどうしても重量級の物資が運べず(特に重火器や戦車)、しかも天候に弱いという弱点があった。このため、従来のドック型揚陸艦と、ヘリコプター揚陸艦の能力を併せ持った強襲揚陸艦に発展していった。
コマンドー母艦もイギリス海軍の予算不足のために専用艦としての維持は諦められ、セントー級4番艦の「ハーミーズ」は対潜哨戒ヘリを多数搭載する対潜ヘリ空母として再改装され、対潜戦・両用作戦双方に充当されるようになった(その後ハリアーの実用化に伴いスキージャンプ甲板設置などの改修を受け、STOVL式軽空母となる)。「ハーミーズ」後継艦としてのインヴィンシブル級空母もこの仕様を受け継ぎ、それに加えてフォークランド紛争後には専任のヘリコプター揚陸艦として「オーシャン」が新造されたが、いずれも老朽化に伴い退役していった。
ヘリ空母との違い
狭義のヘリ空母とヘリコプター揚陸艦は、どちらもヘリ専用であり、複数のヘリを同時に発着させられ、ヘリの整備能力や補給能力を有しているなど、基本的な設計に違いはない。両者の違いはヘリを使う目的と言える。ヘリコプター揚陸艦は「揚陸を主目的とし、そのためにヘリコプターを用いる」もので、ヘリ空母は「対潜作戦などのためにヘリコプターを運用するのが主任務」なものである。
もっとも、狭義のヘリ空母も水陸両用作戦の支援や災害支援などある程度の揚陸任務は視野に入れているし、ヘリコプター揚陸艦にも対潜装備を積んだヘリは積めるので、「ヘリ空母とヘリコプター揚陸艦は同じようなもの」とか「ヘリコプター揚陸艦も広義のヘリ空母に含まれる」と言ってしまっても間違いではない。
各国のヘリコプター揚陸艦
この艦種に分類される揚陸艦は非常に少なく、アメリカとイギリスでのみ運用されている。一部を除き、全てが退役している。
アメリカ
- セティス・ベイ:ヘリ空母、ヘリコプター揚陸艦の祖。艦番号はCVHA-1/LPH-6。元は護衛空母であった。退役済み。
- ブロック・アイランド:護衛空母から艦種変更された。艦番号はLPH-1。退役済み。
- ボクサー級:エセックス級のうち3隻を改装したヘリコプター揚陸艦。もともと正規空母だったため、ヘリコプターの運用には優れていたが、揚陸用機材や兵員の収容など、揚陸艦としてはバランスが悪かった。
- イオー・ジマ級:7隻新造されたLPHで、ボクサー級より小型であるものの、サイズを考えるとより高い能力を持っていた。後にハリアーの運用も行われた他、新造時より護衛空母としての運用も考慮に入れられていた(ただし実現せず)。退役済み
イギリス
- セントー級空母:第二次世界大戦時に計画された戦時建造空母。計画された4隻はいずれも戦後に就役し、ジェット機対応改修を受けて運用されたが、小型で戦後大型化の一途を辿る艦載機の運用に難があったため、2~4番艦がこの艦種に変更された。退役済み。
- オーシャン:新造されたヘリコプター揚陸艦。揚陸能力を維持するために整備された新型艦だが、商船構造が災いしたのか老朽化が早く2018年3月に退役し、改修の上ブラジルでヘリ空母アトランティコとなった。