概要
フェリー(英語: ferry)とは貨物及び人間の航送を行なう船の総称であるが、一般的には人のみを運ぶ渡し船や水上バス、車両積載設備を持たない貨物船や貨客船、さらには鉄道連絡船などは含まず、旅客航送と同時に乗用車等の運送を行なうカーフェリーのみをフェリーと呼ぶことが多い。
カーフェリーと同様の車両積載甲板を持つが旅客を扱わない船(トラック運転手のみ12人以下乗せることがある)はRORO船(Roll-on/Roll-off ship)と呼び、貨物船に含まれる。
なお、「カーフェリー」という語はアメリカにおいては鉄道連絡船のうち、鉄道車両を搭載できるもの(トレインフェリー)を指す。
ちなみにカーフェリーはイギリスではロールオン/ロールオフ・パッセンジャー(Roll-on/Roll-off Passenger)の略語である「ROPAX(ローパックス)」フェリーと呼ばれていることが多い。
日本におけるフェリー
日本では、300キロメートル以上の航路に就航するカーフェリーを「長距離カーフェリー」として、特に区別している。本土と離島、本州と北海道など離れた陸地を結びつける「連絡船」の性格を持つ短中距離航路に対し、長距離フェリーは自ら運転せずに長距離を移動できる「海のバイパス」的な性格を持つ。
多数の離島がある九州や瀬戸内海の渡船では、高速船や貨客船とともに多くの短距離フェリー航路が運航されている。また、東京湾、伊勢湾、有明海、鹿児島湾などでは、湾を横断する海上国道区間を受け持つ短距離航路が運行されている。
長距離フェリーは、RORO船と並び内航海運の主力である。一般旅客を航送する定期中・長距離航路は東京・竹芝と伊豆諸島及び小笠原諸島、並びに沖縄と大東諸島との航路を除き全てカーフェリーとなっている。
1990年代以降、物流業界の過当競争(フェリー運賃をケチってドライバーに陸路を運転させる)、離島の大型架橋の進展、高速道路の1000円通行実施の影響や、競合の公共交通機関(新幹線、高速バス、旅客機)の追い上げもあって、国内各地でフェリーは縮小傾向にあった。
例えば第三セクターであった明石淡路フェリー、愛称:たこフェリーは経営断念し、沖縄-台湾間を運営していた有村産業が倒産し航路も廃止、その他も高速船での運用に切り替えられた航路や、RORO船に置き換え貨物専業化する(マルエーフェリーの東京・大阪航路など)などの事例が相次いだ。
他方、離島支援の見直しもあり、短距離離島航路においてはコミューター航空機を撤退に追い込むなど活躍を見せる。これらの手段では高速船の一種ジェットフォイル( 別名ボーイング929、軍用のミサイル艇をベースにした旅客用水中翼船、川崎重工に全面的に移管され、1995年まで製造、また今後置き換え需要により製造再開予定)などの使用も多い。トカラ列島、伊豆諸島、八重山諸島では貨客船・高速船などと共に唯一無二の交通手段と化している島も少なくなく、離島にとっては貴重な交通手段である。
また日本では寝台列車および夜行列車などがほぼ壊滅する中、国内便で「寝て乗れる」「一昼夜を過ごせる」公共交通機関としても長距離フェリーは貴重な存在である。
復権の兆し
2020年代、物流業界は働き方改革に伴う運転手の労働時間規制(2024年問題)に直面することになった。そのため、ドライバーの運転時間を減らしてフェリー航送に出来るだけ切り替え、休息時間の確保を図るようになった。
このことは特に中長距離フェリーにおいて飛躍的な需要回復をもたらし、そればかりか航路新設の動きまで出ている。トラック業界は空前のドライバー不足に喘いでいる上、同様に長距離輸送の代替手段となるべき貨物列車へのテコ入れについてはあいかわらず国(国土交通省)にやる気がないこともあり、この傾向は当面続くことになるだろう。
サービス
多くのフェリーでは、大食堂・大浴場・ゲームコーナーや売店・展望スペースなどの公室に、シティホテル並みかそれ以上の個室(特別室、スイートまたはロイヤルルーム)>ビジネスホテル並み設備の個室(特等)>個室(一等)>ベッド(2等寝台、一段式半個室と二段ベッドの二階級構成が多い )>雑魚寝部屋(二等)といった等級ランクに分かれた客室、というのが定番であったものの、対立交通機関に対抗するため客室の単一クラス化・食堂サービスをセルフサービスの売店化する船舶が登場するなど省サービス化による運営コスト圧縮が進む傾向にある。
一方で利用客の単価上昇を狙うため、最近では展望風呂・トイレ付で52平米(太平洋フェリー「ロイヤルスイート」)もある部屋を用意したり、二等雑魚寝部屋を廃止し全室寝台ないし個室としたり、公室でも露天風呂やサウナを装備(新日本海フェリー、商船三井フェリー、阪九フェリーなど)するなどの新しいサービスも見られる。
全体的には客室内のテレビ設置や内風呂の設置・拡張、下位寝台においてもプライベート重視の改善が全社を挙げて進められている。また、公室として展望プロムナードやシアターラウンジなどの設備も見直し、改めて力を入れている例もある。
なお、90年代まで長距離フェリー定番の設備の一つだったプール(冬季はジャグジー)は、現在の船舶では柳井~松山の「おれんじまーきゅりー」を除き国内から消滅した。
また、下関や博多から大韓民国の釜山へ、大阪・神戸から上海へと向かうなどの国際航路も存在する。国際航路の特徴として、雑魚寝部屋が当初より設定されていない船などがある。
特殊なサービス
一部の大型車両はトラックとして特に高額な輸送費用を取ることが多い。とは言え、長距離ドライバーにとっては直接高速を走行するより遥かに楽だし、北海道などフェリー航走が欠かせない航路もある。
フェリー会社にとっても定期的に利用をしてくれ、多額の輸送費用を支払ってくれるトラックドライバーは上得意様であり、誰よりも大切な客と言える。
このため、トラックを載せるドライバーの運賃は一般旅客より安めの費用体系になっていることが多い。また、ドライバー専用の居室が用意され(ドライバーズルーム)、一般の二等寝台よりちょっといい設備、専用の小型サロン、専用の浴室、ごくごく一部には専用の食堂まで用意されていることがある。
基本的に一般人が立ち入らないよう船の下層階後方に集中して作られていることが多い。うっかり足を踏み入れても別に気性の荒いドライバーが襲いかかったりブチギレたり…なんてことはありえないが、ドライバーの洗濯物が手すりに干してあったりと、それ以外の空間とは隔絶されたエリアと化している。一般人が利用出来るものも特にないので、興味本位であんまり立ち入らない方がいいだろう。
ただし、一部のフェリー会社では一人用個室などの名目で余ったドライバーズルームの居室を一般用に販売することがある。ちょうど一等と二等寝台を埋めるカテゴリに入ることが多いため、一人旅なら利用してみるのも手かもしれない(なお、原則ドライバー用の浴室やサロンは利用不可)。
主な航路
- 稚内~利尻島・礼文島:ハートランドフェリー
- 大洗~苫小牧:商船三井さんふらわあ
- 名古屋~仙台~苫小牧:太平洋フェリー
- 敦賀・舞鶴・新潟~小樽:新日本海フェリー
- 敦賀~新潟~秋田~苫小牧東:新日本海フェリー
- 八戸~苫小牧:シルバーフェリー(川崎近海汽船)
- 青森~函館:青函フェリー・津軽海峡フェリー
- 青森~室蘭:津軽海峡フェリー
- 大間~函館:津軽海峡フェリー
- 新潟~佐渡:佐渡汽船
- 東京~徳島~新門司:オーシャントランス(オーシャン東九フェリー)
- 横須賀( 神奈川県 )~新門司:東京九州フェリー
- 久里浜( 神奈川県 )~金谷( 千葉県 ):東京湾フェリー
- 下田(静岡県)~新島・神津島(東京都・伊豆諸島) :神新汽船(フェリーあぜりあ)
- 清水(静岡県)~土肥(静岡県):駿河湾フェリー
- 伊良湖(愛知県)~鳥羽(三重県):伊勢湾フェリー
- 神戸~小豆島~高松:ジャンボフェリー
- 神戸~大分、大阪~別府、大阪~志布志:商船三井さんふらわあ
- 神戸・泉大津~新門司:阪九フェリー
- 大阪~新門司:名門大洋フェリー
- 大阪~新居浜(愛媛県・東予港):四国開発フェリー(オレンジフェリー)
- 神戸~新居浜(東港):四国開発フェリー
- 神戸~宮崎:宮崎カーフェリー
- 宮島口(広島県)~宮島桟橋:JR西日本宮島フェリー(宮島連絡船)・宮島松大汽船
- 和歌山~徳島:南海フェリー
- 境港(鳥取県)・七類(島根県・松江)~隠岐:隠岐汽船
- 柳井(山口県)~周防大島(山口県)~松山(愛媛県):防予フェリー
- 下関~釜山(韓国):関釜フェリー
- 下関~太倉(中国・蘇州):蘇州下関フェリー
- 博多~釜山:カメリアライン
- 博多~壱岐・対馬(長崎県):九州郵船
- 鹿児島~桜島:桜島フェリー
- 鹿児島~奄美大島~徳之島~沖永良部島~与論島~本部(沖縄県)~那覇:マルエーフェリー、マリックスライン
関連イラスト
関連タグ
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