もしかして
公共交通機関の廃止
日本における公共交通機関はそのほとんどが民間企業によって運営され、公営企業が運営している場合であっても独立採算制が原則とされている。しかし、運行コストが高かったりして採算の取れない鉄道路線や路線バス、フェリー航路であっても、道路運送法や鉄道事業法、海上運送法の規制を受けるため、事業者の独断で廃止したり、運賃を値上げしたりすることはできない。公共交通機関を事業者の都合で廃止したり減便されたりすると、地域住民の福祉や街づくりに多大な混乱をもたらすためである。地域公共交通の廃止の際は、新設と同様、国土交通省への届出が必須となっている。
日本は諸外国に比べて公共交通機関の運賃がとても高い傾向にあるが、これは事業者に対して(コミュニティバスの運行や連続立体交差事業などを除いて)一般財源=税金の投入が許されていない(行政による補助金の投入はあくまでも例外的な扱い)ためである。このスキームは大手私鉄が不動産開発や商業施設の運営などの副業を意欲的に推進してきた首都圏や関西圏では有効に機能してきたものの、地方では鉄道・路線バスの赤字を理由とした減便・廃止が繰り返されて公共交通機関が機能不全に陥り、車社会と化してしまっていることが多い。
日本の公共交通事業者は、かつては電力や都市ガスのような他のインフラ事業者と同様「需給調整規制」が敷かれ、需要と供給の関係を判断して供給が多すぎる場合には新規参入を認めないとして過当競争による共倒れを防ぐとともに、赤字路線は利益が出ている路線からの「内部補助」により維持することが定められていた。
しかし、1998年の運輸政策審議会総合部会の答申「交通運輸における需給調整規制廃止に向けて必要となる環境整備方策等について」を受けて規制緩和が進められ、公共交通機関の競争促進が進められるとともに、事業者および沿線自治体の判断により廃止が容易にできるようになった。そうはいっても事業者の都合による撤退や倒産・廃業に追い込まれては地域としては困るわけで、赤字であっても地域住民に必要とされる路線については、地方自治体が維持のため補助金を投入する決断が迫られることがある(新たな道路整備などでは国交省からの交付金が充実しているが、既存の鉄道や路線バスの維持に対しては支援が乏しく、施設安全の向上などを目的とした補助金などしかない)。なお、この規制緩和は2000年代以降のローカル線・地方路線バスの減便・廃線ラッシュや、ツアーバスの事故多発の遠因となった。
ちなみに、国によっては公共交通機関による移動権を人権と位置付け、公共交通機関に採算を求めることはなじまないとされている場合もあり、そのような国では、運賃は採算度外視で安く抑えられ、中央政府による公共交通事業者への赤字の補填が当たり前に行われている。
メイン画像の特急「かもしか」も、廃止された列車の一例である。
鉄道における廃止は以下に分類される。
- 列車の廃止
旅客列車、あるいは貨物列車の運転を取りやめること。乗客が減って採算が合わなくなった列車が廃止対象となると思われがちだが、車両の老朽化、優等列車(新幹線含む)に誘導したい、人手不足、工事の邪魔になるなど事業者側の都合が理由になっていることも多く、かなりの需要がある列車でも廃止されることはある。2000年代の前後には寝台特急の運転取りやめが相次いだが、長距離列車の運転は手間がかかるのでやめたいという事業者側の意向も大きかった。
- 路線の廃止
鉄道路線の運行を取りやめること(⇒廃線)。かつては国鉄の赤字ローカル線が第三セクターやバス路線へ転換された。最近では災害によりバス代行ののち鉄道路線廃止となったJR岩泉線や、長野新幹線(北陸新幹線)の開通によって利用客の減少が見込まれたJR信越本線の碓氷峠区間など。
- 駅の廃止
駅の営業を取りやめること。(⇒廃駅)。駅としては廃止されても信号場として運転扱いのみを継続することもある。ちなみに駅のプラットホームは線路に特別に近づけて設置されているため、廃止すると速やかにこれを撤去しなければならない。
- 切符の廃止
乗車券(切符)の扱いを取りやめること。列車の廃止と同じく需要が少ない切符が廃止されると思われがちだが、鉄道会社にとって利益率の低いフリー切符や、金券ショップ等に流れることの多い新幹線の回数券等が廃止されることもある。代表例では国鉄時代から存在した周遊券が使い勝手の悪い周遊きっぷに変更された後、売り上げが激減し、周遊きっぷも廃止になったということがある。