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ツアーバス

つあーばす

旅行代理店が貸切バスを借り上げて人員の輸送を行う募集型企画旅行商品、又はその目的で用いられる貸切バス
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ここでは路線バスのように「旅行参加者の移動」のみを提供するものを中心に取り扱う。


概略編集

道路運送法に基づき路線バス事業者が運行を行う長距離路線バス(いわゆる高速バス)とは異なり、旅行業法に基づき、旅行代理店等の主催者が観光バスを借り上げて、募集型企画旅行の形態で乗客を募集する形態をとる。

特徴として長距離路線バスと比較して大幅に安価な価格で利用可能。そして決定的に異なるのは代金は「運賃」ではなく「旅行代金」として収受され、参加者は代金をバス運行事業者ではなく旅行代理店、または集合場所に駐在する旅行代理店のスタッフに支払う。


貸切バスで観光地などを巡るバスツアーと異なり、貸切バス事業者のスタッフである車掌バスガイド、旅行代理店のスタッフである添乗員も乗務しないし、出発から到着までの運送の役務以外は提供されない。


都市間ツアーバス編集

2000年に行われたバス事業に関する規制緩和以降2013年7月まで盛んに運行されていたもの。特定の都市間を高速道路経由の夜行バス、または昼行バスで運行するもので国土交通省では高速道路を経由する2地点間の移動のみを主たる目的とする募集型企画旅行として運行される貸切バスを都市間ツアーバスと定義していた。


利用者から見ると乗合バス事業者が運行する高速路線バスと車両の内装や価格帯に大きな違いがなく、乗合高速バスと都市間ツアーバスを同じ「高速バス」として括っている場合があった。

しかしツアーバスはあくまでも貸切バスのため、道路運送法に基づいて認可された路線バスではない。そのためバスターミナルバス停を利用できない、定時運行、利用者個人の支払う料金の規定、運転手の連続乗務時間と交代回数、車両の運用などに規定が及ばない、出先で点検整備を行う車庫や営業所がなくてもよい、高速道路の通行料金区分が異なるなど多くの違いがある。


これらのバスの源流として1960年代に始まった「帰省バス」があげられる。お盆や年末年始では現在でも帰省客が多い繁忙期であるが、当時は集団就職や農閑期の出稼ぎで地方から大都市へ出て行った人も多く、現在では信じられないほどの帰省需要があった時代である。

その頃の長距離移動は、基本的には国鉄の長距離列車(主に夜行の急行列車)に頼るほかなかった(道路事情が劣悪かつ、まだ庶民レベルでマイカー所有は厳しかった時代である)が、特に年末年始ともなると全国から予備の客車をかき集めて臨時列車を仕立てても乗客をさばき切れず、その列車も座席に座ることはおろか通路やデッキに立ち客が溢れる有様だったという。

そこで、輸送量を補い、より安く提供したのが「帰省バス」であった。先駆者である中央交通(後述のツアーバス制度廃止までこの形態を維持、廃止後は新高速バスとして存続)の様な観光バス会社だけでなく、西鉄バスなど既存のバス会社も行っており、中でも信南交通のようにドル箱路線と成り、高速路線バス化するものもあった。また、1990年代半ばまで長らく若者向けのスキーツアーが多数行われており、こちらもツアーバスのノウハウとなった。


1980年代には道北観光バスが初の都市間ツアーバスを運行(後に高速路線バスに転換)し、1990年代末の規制緩和で爆発的に増えていったのである。

なお、これらの都市間ツアーバスの多くは貸切登録車両の乗合特認、通称「24条2項→21条免許」が適用されており、乗合免許ほどではないものの法令の網と規制がかけられていた。実際、この特認が認可されなかった例や運行停止命令が出た例もある。


この形態によるツアーバスは、既存の路線バスとの整合性についてかねがね議論がなされていたが、後述する2012年の事故を受けてツアーバスを規制する方針を固めた。2012年6月には国交省・観光庁が事業者に対して「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」の別などを明示するように指導。後に制度が変更され2013年7月以降募集型企画旅行としての高速ツアーバスを運行することはできなくなった。大手事業者は「新高速乗合バス」に転換したが、転換できるほどの体力のなかった中小事業者の多くは廃業するか、撤退を余儀なくされた。安全という目的のための犠牲である。


高速乗合バスとツアーバスの1本化編集

バス事業の規制緩和によって誕生したツアーバスだが、厳しい規制を強いられている乗合バス事業者からは規制緩和直後から批判があった。例えば両備バスの社長、小嶋光信は、ツアーバスについて「路線バス事業まがい」「法の不備を突かれて」認めてしまったと批判している他、2012年に発行した自身の著書内でもも「同じ路線事業行為でも一方は規制されてコスト高を免れず、他方はフリーハンドで経営できるという、アンフェアな競争状態」と批判している。実際に「高速路線バス」を運行してきた事業者は経営上少なからぬ打撃を受けており、路線の統廃合や高速路線バスからの撤退を強いられたケースも珍しくなかったうえ、特に地方のバス会社では高速バスの収入で地域の路線バスの維持費を賄うことが多くその収入源を絶たれたため路線バスの廃止が加速した結果地域の足が消滅することも珍しくない。


2005年に一度国からツアーバスの規制を強める通達がなされたが、翌年にはツアーバスを容認するような流れに傾いてしまい、結果としてツアーバスが跳梁跋扈するようになった。


ツアーバスの拡充は利用者からは安価な移動手段の選択肢が増えたとして歓迎されたが、その一方で運行する貸切バス事業者に「価格破壊」のしわ寄せによる問題が顕在化した。ツアーバスの運行を企画・乗客を募集する旅行代理店から、俗に言う「下請けいじめ」が横行するようになったのである。2007年に放映された「NHKスペシャル」では苦境に立たされるバス事業者が取材に応じ、旅行代理店の無理難題を押しつけられる様子が伝えられている。(その事業者は翌年に倒産・事業停止に追い込まれている)

これについても国から指導がなされてはいるが、2007年にはあずみ野観光バスのスキーツアーバスが乗員・乗客を死傷させる事故を起こし、貸切バス事業者に対して様々な指導がなされた。それでも事故が相次いで起きてしまったあたり他山の石という言葉はこの世界には通用しないようである。


関越道事故の影響編集

2012年4月、ツアーバス規制を強めるきっかけとなった1件の事故が発生した。関越自動車道高速バス居眠り運転事故である。この事故では乗客7人が死亡、乗客と乗員39人が重軽傷を負った。事態を重く見た国は国土交通省自動車局内に2012年5月、安全政策課内に「高速ツアーバス等の過労運転防止のための検討会」を設置し、専門家を交えた検討を行い、パブリックコメントの実施を経て、2012年7月に国土交通省通達旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用についてを改定した。この改定では運転距離が400kmを超える場合や運転手1名の乗務時間が10時間を越える場合の規定を厳格化し、同日から高速ツアーバスを運行する貸切バス事業者の安全への自主的な取組や、国土交通省が実施した最近の監査状況(法令違反や行政処分の有無など)の情報の公開を開始した。


関越道事故の後国土交通省は高速ツアーバスを運行する貸切バス事業者を対象に緊急重点監査を実施した所、立ち入り時点で何らかの法令違反を指摘された事業者が298事業者中250事業者存在した。これは調査対象の8割以上を占める割合である。更にその250事業者のうち48事業者が重大又は悪質な法令違反を指摘されていたことが明らかになった。

これだけの問題を抱えていたにもかかわらず、こうした事態が発生するまで放置が続いた要因として、多くの利用者がツアーバスと高速乗合バスの違いを分かっていなかったこと、そして目先の安さばかりに目が向いてしまい、結果として安全確保や法令順守をないがしろにする業者を助長させる地盤を造ってしまったことが考えられるだろう。


新高速乗合バスへの移行編集

2013年7月よりツアーバスと高速乗合バスを一本化した「新高速乗合バス制度」が施行された。

この新制度施行により、乗合バス事業者がバス路線の運賃、便数などを変更する際の国への届出期間を従前の「30日前まで」から「7日前まで」に大幅に短縮し、届け出る運賃も固定額だけでなく、割引運賃の上限値と下限値を示した「幅運賃」での届け出も認められるようになった。この他バス運行の受託などの制度も変更されている。


この新制度施行でツアーバスを主催していた旅行代理店が引き続きツアーバスを走らせる場合は

  • 移行期間の間に自前で車庫・営業所・運転手・車両を準備する
  • 一般乗合旅客自動車運送事業の許可を受ける
  • 乗合バス事業者に業態変更する

必要があった。


そしてこの制度が本格施行された2013年7月30日、それまでの都市間ツアーバスは終焉を迎えた。この制度で多くの観光バス事業者がツアーバスから撤退した一方で、西日本JRバス帝産観光バスに運行を委託するなど既存のバス会社もこの制度を活用することとなった。また、1990年からJR東海ツアーズでは『ぷらっとこだま』というツアーバスに類似した商品が存在している。


それでも貸切バス事業の問題点はとても改善されたとは言い難く、2016年には杜撰な安全管理体制の旅行代理店とバス事業者によって、上記の関越道事故と全く同じ産業構造下で15人もの犠牲者を出した軽井沢スキーバス転落事故が発生してしまっている。




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