精確に爆弾を落とすには?
爆弾を飛行中の航空機から精確に落とすことは難しい。飛行速度や高度、温度、湿度、風速などが複雑に影響し、これらを全て計算するのは難しい事だった。
第一次世界大戦で航空機が軍事目的で使われるようになると、爆撃の精度を高める研究が盛んになり、高度・速度などの条件を取り入れて落着地点を計算する照準器などが開発された。
同時に、正確な爆撃のために編み出されたのが「急降下爆撃」である。
この分野ではアメリカがリードし、1919年には世界で初めて実戦で活用し、海軍も雷撃機よりは急降下爆撃機を重視する傾向が強かった。
1933年のアメリカでの急降下爆撃のデモンストレーションを見学したドイツの元エースであるエルンスト・ウーデットは感銘を受けて、帰国後、今まで旧戦友の空軍総司令官ヘルマン・ゲーリングの勧誘を渋っていたドイツ空軍への入隊をしてまで、この戦法を空軍内に広め、第二次世界大戦のドイツ空軍の地上支援などに貢献した。
急降下爆撃機の役割
急降下により爆弾を機体と共に加速させて、水平爆撃機よりは遥かに近距離で投下するため、補正の必要や気象の影響が小さく、精密な爆撃を行い易い。また、艦船や地上兵器は上面の防御は手薄なため、戦果を挙げ易い。
こうした急降下爆撃の特質は、爆撃機に新たな任務を開拓した。
・敵艦の対空火器を攻撃し、雷撃機の攻撃を援護する「対空砲火制圧」。
・地上部隊の要請に応じて爆撃する「近接航空支援」。
急降下爆撃機の問題点
元々、敵に対して突っ込んでいくこの戦法はただでさえ敵の反撃に身を晒しやすいものであったが、当初は急降下爆撃機が己に次第に迫ってくる恐怖に耐える者も少なかったので損失も予想よりは少ないものであった。しかし、相手がそれに慣れ、また対空砲が発達していくと当然ながら損害は増加していった。
また急降下で加速がついた機体を引き起こす大きな荷重に耐えられるよう、機体強度を上げる必要があり、重量増加で飛行性能は低下する。その分は爆弾の搭載量に皺寄せが行き、九九式艦上爆撃機で250kg、Ju87で500kgが普通だった。
急降下爆撃機の落日
第二次世界大戦終盤、前述のような飛行性能の低さから戦闘機や対空砲による損害が激増した。艦艇のダメージコントロールの向上により搭載可能な爆弾では十分なダメージを与えられなくなった。
ロケット弾やミサイルなど射程の長い兵器が普及し、UAV(無人機)も登場して敵前に身をさらす必要も無くなった。
「敵に撃たれやすくなる」急降下の必要性はなく、急降下爆撃機は開発されなくなった。
スマート爆弾
現在はレーザー誘導爆弾(LGB)やテレビ誘導爆弾(EOGB)といった「スマート爆弾」により、精確な爆撃が行える。
ベトナム戦争で北ベトナムの重要拠点「ロンビエン橋」には高射砲や対空ミサイルが充実し、何度となく空襲が繰り返されたが成功しなかった。
1972年5月10日、「ロンビエン橋」に、第8戦術戦闘航空団のF4U戦闘機16機が攻撃をかけた。2,000lb(約900kg)航空爆弾にレーザー誘導キットを取り付けたGBU-10ペイブウェイ、2,000lbに大型化されたTV誘導爆弾AGM-62ウォールアイがこの攻撃に投入され、数度の攻撃の結果、爆撃効果判定は『目標は完全に破壊され、交通は完全に寸断された』であった。
余談
飛行性能は劣るが、パイロットの腕前次第では空中戦で通用した。前方機銃は自衛だけでなく、敵戦闘機に対する迎撃に使用されたこともあった。