108回殺された悪役令嬢
ひゃくはちかいころされたあくやくれいじょう
なまくらによって小説家になろうに連載されている小説(ラノベ)作品。
フルタイトルは『108回殺された悪役令嬢 すべてを思い出したので、乙女はルビーでキセキします』となっているが、タグとしては仕様制約上『108回殺された悪役令嬢』が推奨される。
なお以前のフルタイトルは『108回殺された悪役令嬢 すべてを思い出したので、知識チートでひきこもります』だった。
2020年8月にエンターブレインより主人公の赤子時代を描いた『BABY編』が上下巻出版され書籍化。挿絵作画(キャラクターデザイン)は鍋島テツヒロ。
同年9月より『電撃大王』にて鳥生ちのり(とりう)の作画によるコミカライズが連載されており、ComicWalker(FLOS COMIC)やpixivコミックにも配信されている。
概説
いわゆる悪役令嬢ループもの作品にあたり、幾度となく悪役令嬢(悪の女王)として死亡しループしている主人公が、その運命から脱するために引きこもりを目指す物語。
設定や物語展開が、かなりヘビーである一方で描写はコメディやギャグに溢れており、時に主人公が自ら「知識チートやルビーのキセキはどこ行った」「これじゃタイトル詐欺」「ジャンルタグ(異世界恋愛)が瀕死」などとツッコむなど読者にしかわからない(逆に言えば登場人物が知っていたら世界観的におかしいハズの)メタネタ・サブカルネタすらもブッ込んでいくため、通常展開時の読み味は軽い。ただし、シリアス時には重い展開や涙腺崩壊が長く続くことも多い。
あえて言うなれば、読み味そのものの感覚としては某少年漫画の総決算的一大ファンタジー漫画の読み味に似たもの(同類)と言える。ただし、その分、作品に対して一定の方向性を求める読者(いわゆる「ギャグはギャグ、シリアスはシリアス、どちらかにまとめるべき。両方を備えると読み味が散り台無しになる」とするタイプの読者)や、設定・世界観の厳密性(中世世界観なら中世として、RPGならRPGとして、その部分の前提的な約束を遵守してほしい、そこにネタをブッ込まれると世界観が台無しになる、とする考え)を重視する読者からは疑問視をされやすい作品でもある。
あらすじ
ハイドランジア王国を虐げ支配する、悪逆の女王スカーレット・ルビー・ノエル・ハイドランジア。
圧政に耐えかねた民衆が革命の気炎を上げる中、追い詰められた彼女は焦る足取りで階段より足を滑らせ、ものの見事な階段落ちを演じて、あえなく死亡する事となった。
しかし、その死によって女王スカーレットは気付く。自らが「公爵家の令嬢として生まれ、なぜか血で血を洗う王位継承争いに参加させられて女王へと上り詰めた挙句、革命の旗頭『救国の乙女』となった親友アリサに裏切られ、彼女を守る『5人の勇士』の誰かに殺される」という運命をループ転生によって108回も繰り返していた事に。
それを知ったスカーレットは、また再びのループ転生によって新たなる生き直しへと誘われている事を勘付いて「今度の人生では女王になんて絶対ならない! そんなものとは無関係の公爵令嬢として領地に引きこもって生きる!」と誓い、自らの「108回の人生」の記憶を保持したまま過去へとループ転生する事に成功する。
しかし、そんな彼女を待っていたのは生後即日、いきなり実母から殺されかかるというハードモードこの上ない運命であった。さらには、実母から殺されかかったスカーレットを救ったのは、よりにもよって将来において彼女を殺すことになるであろう『5人の勇士』のひとり、暗殺者ブラッド・ストーカーであった。そして、彼を皮切りに『5人の勇士』のうち数名がなぜかスカーレットの側に集ってしまう。
彼らに関わってしまっては、スカーレットの将来の即死フラグが確定する。しかし、そんな未来など知らぬ彼らは何ゆえにか事ある毎にスカーレットに関わってくる。かくて、これまでの「108回」すら生易しいと思えてしまう、平穏な人生を送りたいスカーレットのルナティックでエクストリームかつアドバンスな再びの運命(エクストラ・ステージ)が始まってしまうのであった。
登場人物
- スカーレット・ルビー・ノエル・リンカード
- 本作主人公。のちに悪逆を尽くす悪役令嬢スカーレット・ルビー・ノエル・ハイドランジアとなり処刑上の露と消える運命を背負い、それを108回も繰り返してきた赤髪紅眼のループ転生者。
- しかし、本人は至極真っ当な感性を持つ為政者だった。悪逆の人物評はとある人物による扇動によってもたらされたプロパガンダにしてデマである。しかし自身は108回の人生においては、その事に気づくことは無かった。
- 109回目の人生にして、初めてループの記憶を持ち越す事に成功してからは「女王などにはならず、権力闘争にも加わらず、領地に引きこもってスローライフを目指す」ことを信条としている……のだが、なぜか様々なトラブルが向こうから寄ってくることに。
- 寄ってくるトラブルの際たるものが、自らに近づく『5人の勇士』と『救国の乙女』の存在である。
- アンノ子ちゃん:スカーレットの中に潜んでいるらしき「108回の人生」の中にはありえない記憶を持っている、もうひとりのスカーレット。ちなみに名前は『所属不明(アンノウン/Unknown)の記憶』である事から。ちなみに彼女の記憶では『五人の勇士』はスカーレットの守護勇士であり、自身を守ってくれる存在として登場している。
- ブラッド・ストーカー/暗殺者ブラッド
- 『五人の勇士』のひとり。あらゆる国家に所属することなく傭兵と暗殺で生業を立たせ、自らの「武」を極めんとする独立系武闘派集団「治外の民」出身の暗殺者。のちに民を束ねる長として暗殺対象のスカーレットと対峙する事となり、互いに一族と国家を挙げて熾烈な戦いを繰り広げる(結果、治外の民はブラッドを残して滅んでしまう)事となる相手。
- しかし「現在」の時間軸ではスカーレットの命の恩人であり、実質上の幼馴染同然の間柄。母親に殺されかけたスカーレットの生への執念に敬意を抱き、彼女を守ると自らに任じて、挙句の果てに護衛メイド少年(※美少女顔で下手なメイドよりよく似合っている)としてリンカード家の守護を担うようになる。
- ちなみにメイド服(特にスカート)に関しては「スースーするけど、その分暗器を隠しやすくて、とっても便利だ」として非常にお気に入りである。あまつさえ一時期は、それが高じて里の男性陣(※ガチムチ武闘派筋肉集団)にメイド服を便利な服として布教しようと企んでさえいた。(一応、未遂に終わった模様だが、本人は引き続き嬉々として着続けている)
- 治外の民の宗家の子でもあり、幼くして、医療技術としても応用の利く高い暗殺・格闘技術を誇る。また尊敬する兄がおり、弟や妹もいる、中間子だったりする。
- セラフィ・オランジュ/風読みセラフィ
- 『五人の勇士』のひとり。世界最速の帆船「ブロンシュ号」を駆り、あらゆる風を読み切って物資や人員・情報を運びきるオランジュ商会の年若き会頭。のちにはその船乗りとしての風の読み切りで反乱軍を動かし情報を束ねて反乱軍の要のひとつとなり、ハイドランジア女王軍を翻弄し疲弊解体へと至らしめた男。
- 一方で「現在」の時間軸ではライバル商会の悪どい手練手管によって勢いを削られ、財産はオランジュ号と自らについてきてくれた僅かな古参の船乗りたちのみ、という超零細弱小商会の幼き会頭。とある偶然からスカーレットの父に手を貸す事となり、そのままリンカード家を襲った動乱に巻き込まれ、結果としてブラッドと友誼を結ぶこととなり、共にスカーレットを守ると誓う事に。のちにはスカーレットのビジネスパートナーとなり、彼女の繰り広げる商売に噛む事で商会のかつての勢いを取り戻した上で、さらに大きな勢いを得つつある。
- メアリー/フタリーチナヤ・フストリェーチャ
- リンカード家のメイドにして、スカーレットの乳母。そしてメイド少年となったブラッドにとってのメイド技術の師匠。スカーレットが成長して乳母の仕事が無くなった後は、スカーレット直属の世話係という立場は引き続き保持したまま、お針子メイドとして公爵家の服飾も一手に握っている。
- 本名は「フタリーチナヤ・フストリェーチャ」だが、その発音はハイドランジアの中央の人では難しいため、通名(愛称)として「メアリー」を名乗っている。
- 元はクロウカシス地方の片田舎で乳飲み子を育てていた年若い寡婦であったが、とある犯罪に巻き込まれた事で我が子を失い絶望に呑まれていた所、犯罪者を追ってクロウカシスにやって来たスカーレットの父に支えられ、乳母としてリンカード家に招かれた事情がある。
- スカーレットが生きてきた「108回」の人生の中では、彼女の記憶の中には登場しなかった人物。だが実はスカーレットのどの人生でもスカーレットの乳母であり、その全ての人生を貫いてどこまでも彼女の味方であった人物。しかし、ゆえにこそ「108回の人生」においてはスカーレットが物心つく前に陰謀で引き剥がされ、再びまみえる直前に謀殺されてしまっていた。されども、その遺志は死を越えてなお人々に伝播し引き継がれ、スカーレットの「108回の人生」において様々な形でスカーレットをあらゆる局面でその最期の瞬間まで守り続けていた。また「108回の人生」でのスカーレットは、自らの乳母の本名を「しあわせになれる言葉」として記憶していた。
- ちなみに謀殺された時には、新しい命が宿っており、その命が生まれたならばスカーレットが名付け親になっていたはずで、彼女の最大至高の従者として多大な活躍を果たすはずであった。(つまり母子共々に謀殺された事となる)
- コーネリア
- スカーレットの実母。スカーレットを生んで即日「女では跡取りにはなれない、こんな子はいらない」と発狂して我が娘を殺そうとするも、スカーレットの抵抗の果てメアリーとブラッドに止められる。
- 実は発狂は地方育ちのコーネリアを疎んだ義父母および、彼らと手を組んだ夫の妾(になりたがった豪商の娘)によるスカーレットの毒殺(特殊な毒薬による堕胎)未遂が原因。原因を突き止めたブラッドによって治療を受け解毒を果たした後は、正気と健康を取り戻す。
- 実は国家辺境を治め、弓術に長けた一族「メルヴィル家」の娘であり、弓を取らせれば一族でも至高の腕前を誇る手練れ。王家騎士団の弓取りたちにとっては伝説の存在として知られる深窓ならぬ深杜の令嬢であった。
- 森林を遊び場として生き、領地の人々を守るため弓に生きてきたため、貴族としての(社交界上の)礼法や作法は最低限しか学べておらず、義理の父母からは陰湿な嫌みとイジメの的にされ、そのために多大な屈辱を受けてきた事もあり、ある社交界の場において一晩で対人恐怖症を患う程の辱めを受けた過去が半ばトラウマ化している。そのため、なんとか世継ぎを産むことが妻としての存在意義と盲進した状態にあり、夫との間にすれ違いが生じている。
- スカーレットの「108回の人生」においては、盛られた薬の副作用と自身がスカーレットを手にかけようとしてしまったというショックから、スカーレットを殺害する途中で深刻な心臓発作を起こし、スカーレットを辛うじて殺さずに済ませつつも死に至ってしまう。ただ、彼女の死により娘のスカーレットは二の矢の暗殺(病死のコーネリアの死後間もなく事を起こせば商会の娘の謀殺が疑われるため)を免れると言う、ある意味では皮肉な結果となった。
- ヴェンデル・クリスタル・ノエル・リンカード
- スカーレットの父。当初、妾を囲っていたという触れ込みだったが、実はそれは陰謀によって流された嘘。本当は愛妻家……というか正真正銘の嫁バカ。
- 「馬闘術」と言われる人馬一体の戦闘術を駆使する、一騎当千どころか一騎当億クラスの強者。その無双ぶりは「常勝不敗の公爵」「紅の公爵」として敵味方に広く知られ畏怖される。
- スカーレットの「108回の人生」においては、妻を失ったショックで一気に老け込み、容姿が別人(精悍な体躯がゲッソリと痩せ落ち、哀しみの慟哭の果てにハゲた。そのため今生のスカーレットは父の姿を見て一瞬誰だか理解できず、そして若き日の父のイケメンぶりに衝撃を受けた)のようになりつつも妻の復讐に生きる魔王と化して、その陰謀に加担した者に執拗なる復讐を敢行していた。ところが最後の最後には亡き妻の幻影という罠にかけられ謀殺される事となった。
- ただスカーレットの「108回の人生」においては上述の復讐のために家を留守がちにしてしまったため、肝心のスカーレットには「お父様は口ではお母様を今でも愛していると言いながら、その実、妾のもとに入り浸っているんだ」と誤解されていた。もっとも幼少期のスカーレットは周囲からその疑惑を何度吹き込まれても父を信じていたのだが、父の死後には父母の愛情の痕跡は何者かに消されてしまったため信じられなくなってしまう。なんにせよヴェンデル自身が幼少期に置かれた環境(後述)のせいで愛情表現が苦手な不器用な父親である事は、スカーレットのどの人生においても共通する。
- マッツオ・ジェダイト・ノエル・バレンタイン
- ハイドランジア国騎士団・王家親衛隊の隊長。ヴェンデルの救援要請によりコーネリアとスカーレットの守護のため、リンカード家を巡る騒動の渦中に派遣される。
- 騎士ではあるが基本的な戦闘スタイルは「剣」ではなく「拳」であり、ノーリーチのインファイトを最も得意な戦闘スタイルとしている。いちおう騎士としての専用武器は所持しているが、これも剣ではなくインファイトでの保護装備である手甲とフレイル型モーニングスターである。
- スカーレットの「108回の人生」の中で、最後の最期まで王家最後の砦として彼女に付き従った忠臣。彼女の苦難の人生の中で影となり日向となり付き従い、力になり続けた最高の漢。義に厚く、友誼を遵守し、女性に敬意を以て接し、弱きに常に寄り添い、悪しき強きを挫き、道を誤った上部には強く諫言する、騎士の中の騎士。そのため、スカーレットの苦難も優しさも苦悩も知り、あらゆる者が残虐な愚王と罵るスカーレットに対し「誰よりも心優しく誇り高き女王である」と評し、彼女を罵る声に対しては常に疑義と怒りをぶつけ続けた。
- スカーレットの「108回の人生」においては、実はリンカード家を辞したのちのメアリーの婚約者であり、メアリーが謀殺された折に彼女に宿っていた命の実父。メアリーの謀殺によって絶望に沈むも、彼女が生前に遺した「私に何かがあろうとも私の愛はあなたとスカーレット姫さまの中に置いてきています」「もしも私に何かあったなら、スカーレットさまを守って下さい」という遺言に導かれ、スカーレットを終生守護する。
- スカーレットの今生においても、様々な奇縁で彼女と苦難を共にする事となる。
- バイゴッド夫妻
- ヴェンデルの父母であり、スカーレットの祖父母にあたる人物だが、自身の贅沢な生活にしか興味がない浪費家。領民からは重税と贅沢のために土地から追い出しなどで苦しめ嫌われており、財産を食い潰した挙げ句に領土の切り売りで侯爵の位以外リンカードの家に価値がなくなるや息子のヴェンデルにリンカード家を継承させて母方の裕福な実家に移り住み(その時にリンカード家の財産と呼べる芸術作品や調度品全てを持っていった)、息子のヴェンデルには高い爵位を譲ったと恩着せがましく息子の功績から甘い汁を吸おうとしている悪質な人物。
- その後も贅沢から財産を食い潰し、現在は悪質なシャイロック商会に多額の借金をし、商会が貴族の位を求める行動に協力する。
- 息子に対しても家族の情は微塵も感じられず、地位もない恋女房と結婚したことを忌々しく感じており、義理の娘コーネリアに対しては息子の留守を狙って陰湿な嫌みやイジメを重ねており、ある社交界ではコーネリアの不作法の揚げ足を取るだけに足らず、居竦んだ彼女を公衆の面前で書くのも憚る諸行で彼女を一晩で対人恐怖症にするまでに精神を病ませた。その後、コーネリアの懐妊を知ると喜ぶどころか「誇り高き我が家に汚らわしい血が混ざる」と憎悪に狂い、商会の甘言に乗って堕胎の謀略を手引き。結果「108回の人生」では毒を盛られたコーネリアは、早産ながらスカーレットを産むが、その負担で死亡する事となった。
- しかし、コーネリアの毒殺が成らなかったスカーレットの今生では、全てを知り激怒したヴェンデルと後に成長したスカーレットによって因果を含められ相応の落とし前をつけられる事となった。
- アリサ・ディアマンディ・ノエル・フォンティーヌ
- スカーレットと対を成す「ヒロイン」にしてハイドランジアを極悪なる女王より解放せんとする「救国の乙女」として運命付けられた金髪蒼瞳の少女。博愛を唱え、あらゆる者に慈悲を説く。
- スカーレットとは学校の同級生。そして一方的にスカーレットに懐くアホの子。脳味噌がスワップ気味で性にも奔放だったりするが、その奔放ぶりも「博愛」として捉えられている人物。
- しかし、それらの阿呆ぶりは全て演技。その実態はスカーレットたちと同じループ転生者であり、彼女らのループ転生と破滅を仕組んだ張本人。そしてスカーレットに執着し、彼女の魂から生きる力を抜き去って自らのものにせんと企むアルテマルナティックサイコレズ。しかも、そのルナティックぶりが「困難に晒されあがく魂こそ美しい」「なおかつ困難に潰されて絶望に沈むその瞬間こそ命にとって価値があるもの」とすらのたまうレベルのドS方向に振り切っている。つまり「好きな子はトコトンまでイジメて追い詰めたい(そして殺したい)」タイプであり、しかも独占欲も相当でスカーレットに近づく者は男も女も親も子も友人も許さないという、それはもう徹底したキレっぷりを披露する。その様は、もはやヤンデレとかクレイジーサイコレズなどというレベルではない。(というか、クレイジーサイコレズなど生温い子どものままごととすら言い切れるレベルの破綻者)
- おまけにループ転生によって自らのチートに磨きに磨きをかけきっている。人の心理や欲望を巧みにくすぐって操る手練手管は老練の政治家すら容易く巧みに赤子の如く手玉に取れ、治外の民の武術すら定命では決して届かぬクラスまで極めきり、変化術すらも使いこなし、特に自らが執着しているスカーレットには完璧なトレースのレベルで化けきる事ができる。その強さはもはや人間の枠ですらなく、ぶっちゃけ勝てる気がしないレベル。あと本性を現すと言葉遣いの端々が何気にエロい。つまり端的にアッサリ言ってしまえば某シリーズに登場するあの人の同類。