概要
「妖精としてのマブ」について言及した古い出典としてヨーハン・ヴァイヤーの悪魔学文献『悪霊の幻惑について』の補遺「悪魔の偽王国」(1577年)で参照されたグリモワール『精霊の職務の書』(Liber officiorum spirituum)がある。
そこではオベリヨン(Oberyon)、オベイリヨン(Obeyryon)すなわちオベロンの妻として「ミコブ(Mycob)」表記で言及され、彼とのあいだに7人の娘をもうけたとされる。
ひとを不可視にさせる能力を持ち、鉱物、金属、植物の秘密、更に医学と「真理」に通じている。冠を被り緑色の装いをしていると記される。
7人の娘たちは父のように物理学に通じ、母のように薬草に通じている。また、不可視の力を有した指輪を与えるという。
ミコブの名は16世紀から17世紀までの幾つかの写本ではミエオブ(Myeob)と「メイヴ」に音が近くなり、その関連を強く匂わせるものとなっている。
フィクションにおけるマブ
ケルト神話における女王メイヴの種族は人間だが、クイーン・マブは妖精として言及される。
ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」(初演:1605年)にはオベロンは登場するが、彼女は登場せず妻もティターニアになっている。マブが登場するシェイクスピア作品は「ロミオとジュリエット」(初演:1595年前後)で、登場人物マキューシオが言うところによると、瑪瑙の小石くらいの大きさで芥子粒サイズの小人たちに自身が乗る車を引かせているという。
妖精たちは人間の体に接触したり、その上を通過することで人間に夢を見させるのだという。こうした超小型設定は「夏の夜の夢」側では語られず、イメージした絵画でもせいぜい一般的な小妖精くらいのサイズで描写される。
1813年出版のパーシー・ビッシュ・シェリー作『クィーン・マブ 哲学詩、及び注』(Queen Mab; A Philosophical Poem: With Notes)では天上に魔法の宮殿を構える存在として登場し、地上の人間の女性の魂をそこに連れていき、過去から現在に至るまでの愚かな人類史を見せていく。