概要
イギリスの舞台作家ウィリアム・シェイクスピアによって1590年代中頃に書かれた喜劇形式の戯曲である。
原題は『A Midsummer Night's Dream』。
「真夏の夜の夢」と訳されたり、表記される事もある。
なお、原題を直訳すると真夏ではなく「夏至の夜の夢」が意味的には近い。
話の内容に引っ掛けて、いい夢から現実に戻ったことを表す比喩表現でもある。
日本や海外でも、何度も映画化・舞台公演が実現しているほどの世界的な名作。
同作品をテーマにした、メンデルスゾーンの音楽も合わせて (結婚行進曲は特に) 有名である。
内容は結婚を控えた貴族の男女達や妖精達によって織り成されるストーリーとなっている。
歌や音楽、魔法といったロマンティックな要素に溢れた作品である一方、人間の愛欲や不和を詰められた作品とも評される。何よりタイトルに冠された「夏の夜」「夢」という言葉にどこか解放的なイメージ・魅力が漂う事も国や地域を問わずに高い人気を誇る一因であると考えられる。
内容
シェイクスピアの名作には、イギリス国外を舞台にした作品が非常に多い。
本作もその中の一作であり、ギリシャのアテネを舞台にしており、ギリシャ神話をベースにした物語が展開される。これは、古代ローマの詩人であるオウィディウスの著書『変身物語』から影響を受けている為であると指摘される事が多い。
一方で、オーベロンは北欧神話、パックはイギリスの妖精が元ネタであり、インドの子供が出てくるなど、必ずしも変身物語のみが元ネタという訳ではなく、あくまでもベースに過ぎない。
物語の大筋
本作は喜劇ではあるものの、多彩な登場人物と複数の事件が交錯するという構造から、特に中盤から終盤にかけて主要な登場人物が入り混じってごちゃごちゃするので、話の筋をわかりにくところがある。
本作の主な内容を乱暴に一行でまとめると、ある女の子(ヘレナ)に同情した妖精たちが惚れ薬を使ったら、使う相手を間違えてしまったという話になる。
以下、本作の内容を登場人物の紹介を交えて、解説する。
物語の詳細
本作の内容を詳しく紹介すると、テセウスとヒュッポリテの結婚式前日からその夜に起きた出来事をまとめた話である。
テセウスとヒュッポリテが結婚すると決まった事で、六人の職人が劇を披露する事にして、その練習のために妖精の住む森に入る事になる。
一方、テセウスの元には、あるカップルの事件が持ち込まれる。そこでテセウスは、法に照らし合わせて、二人に別れるか、死ぬかを判決として言い渡す。これを不服にしたカップルは妖精の森に入り、それを追う一組の男女も森に入る。
一方、森では妖精の王と女王が一人の取り替え子を巡って痴話喧嘩をしており、その痴話喧嘩に決着をつけるために、妖精の王が一計を案じることになる。
そこで、六人職人、四人の男女、妖精たちの三者が入り混じる事になる。
つまり、国王の結婚という一大事を中心に、四人の男女のいざこざ、妖精の王と女王の痴話喧嘩、六人の職員の劇の練習という三つの事件の縦軸があり、これが入り混じっている為に、ややこしく複雑な話になっているのである。
如何、人間側と妖精側に分けて、それぞれの動向をまとめる
人間側・アテネ
- シーシアス(テセウス)&ヒポリタ(ヒュッポリテ)
アテネの公爵とアマゾンの女王。この二人自身は話にあまり絡まないが話の縦軸となる二つの事件が彼らに関連して起こる。
二人の結婚を祝い、六人の職人は劇を行う事にし、その練習の為に妖精の住む森に入る事になる。一方で、ハーミアの父から訴えを受けた事から、ライサンダー・ハーミアカップルを別れさせる命令を出す。
- ライサンダーとハーミア
両思いの二人。しかしハーミアの父は二人の交際に反対であり、ハーミアとディミートリアスを結婚させようとしている。
つまりは、好き同士なのに別れさせられようとしている二人。
「娘は父に従う」という法により別れさせられる事になり、駆け落ちして妖精の住む森に入る。
- ディミートリアスとヘレナ
ディミートリアスはハーミアが好きで、ヘレナはディミートリアスが好きである。
いわば、好きな人がいる人を好きになった人たち。
駆け落ちした二人を追いかけて、妖精の住む森に入る。
- 六人の職人たち
テセウスとヒュッポリテの結婚式を祝う為の練習を行う為に、妖精の森に入る。
特に、この中でもボトムという男は、重要な役回りになる。
妖精側・森
- オベロンとティターニア
ティターニアは自身を崇拝するインドの女性から子供を「取り替え子」として取り上げ、大切にしていた。一方で、オベロンもその子供を気に入り、自身の小姓にしたいと思っていた。そこで痴話喧嘩が起きてしまう。
オベロンはティターニアに対する一計を案じ、彼女に惚れ薬を盛る事で彼女から取り替え子を取り上げようと考える。一方、オベロンはティターニアに惚れ薬を盛る前に、ディミートリアスとヘレナのカップルの様子を目撃し、ヘレナへの同情からパックに命じてディミートリアスに惚れ薬を盛るように命じる。
- パック
オベロンの部下として惚れ薬を盛る役。本作におけるトリックスター。
オベロンの命令で惚れ薬を使う事になる妖精だが、ティターニア、ディミートリアス、ライサンダーに惚れ薬を盛った事で、事件を混乱させる。
まず、オベロンはパックにティターニアに惚れ薬を使う事を命じるが、その一方で森の中に入ったディミートリアスとヘレナのカップルの様子を見たオベロンの命令により、ディミートリアスにも惚れ薬使うように命令される。
しかし、間違えてライサンダーに使ってしまう。それにより、ライサンダーはヘレナを好きになってしまう。
これを知ったオベロンは再度ディミートリアスに惚れ薬を使うように命令し、これによりディミートリアスもヘレナを好きになってしまう。
人間側・森
ディミートリアスとライサンダーはヘレナを好きになってしまうが、急に態度を改めた二人にヘレナは逆に二人に揶揄われていると思い込み、二人から逃げる。
一方、ハーミアは急にライサンダーがヘレナを好きになった事で、ヘレナが何かをしたと思い込み、ヘレナに突っかかる。
それにより、ハーミアとヘレナ、ライサンダーとディミートリアスでしっちゃがめっちゃかの喧嘩が起こる。
妖精側・森
一方で、森に入った六人の職人のうち、ボトムはパックによりロバ人間に変えられてしまう。
そんな中、惚れ薬を盛られたティターニアに見つかり、ティターニアはロバ人間に惚れてしまいめちゃくちゃな姿をオベロンに見つかってしまい、これによりオベロンに取り替え子を差し出す事で話は落着する。
その後、ロバ人間はオベロンにより元のボトムの姿に戻り、ティターニアにかけられた惚れ薬の効果も解かれて、オベロンとティターニアは和解する。
一方、オベロンとパックは惚れ薬を盛られてややこしい関係になった四人の男女を目撃してしまい、事件を治める為に四人を眠らせ、ライサンダーの惚れ薬の効果を解き、ディミートリアスはヘレナに惚れたままにする。
人間側・アテネ
翌日。森の中で目覚めた四人は、そこでテセウスとハーミアの父に見つかるが、オベロンの魔法によりディミートリアスがヘレナに惚れていた事から、ハーミアの父はライサンダーとハーミアの関係を認め、テセウスへの訴えをとり下げる。
その後、テセウスとヒュッポリテの結婚式が行なわれ、大団円。
影響
この作品が後世に与えた影響は大きく、タイトルをパロディした作品や、登場人物の名前を流用した作品は多い。