概要
コキ50000形は日本国有鉄道が1971年から1976年にかけて合計3276両製作した貨車の1つで、この車両は「コンテナ車」に分類される。
列車の高速化・トラックの輸送単位に適合したコンテナの投入を目的として開発され、民営化でJR貨物の所属となった後も主力として活躍した。
通常の貨車であるコキ50000と車掌室付きの緩急車コキフ50000が存在したほか、コキフ10000に改造を施して走行性能を揃えた改造車、制動装置を改造して営業最高速度を引き上げた車両や、緩急車から車掌室を撤去した改造車などバリエーションはかなり多岐に渡る。
性能
営業最高速度は95km/h(高速貨B)で貨車としては高速である。制動装置には貨物の積載量に応じて制動力を制御する装置が付属したKU弁(CL方式)が使われており、高速走行中からの制動距離は安全な域に抑えられている。
先輩格のコキ10000と比較すると最高速度が5km/h劣るものの、走行装置が簡単でけん引する機関車や連結する貨物列車に関する制限は皆無と言ってよく、車体が拡大されたほかコンテナの緊結装置が改良されていたため積載効率も良好と、使い勝手がよい貨車であった。
このため、時代が下ると構造が複雑で運転上の制約が多いコキ10000を使用した高速貨物列車Aは削減され、代わりにコキ50000が主力となった。
車体の塗色は「赤3号(レンガ色)」で、有蓋貨車に用いられていた「とび色」よりもやや赤みの強い色である。
台車は10000系貨車に使用されていた空気ばね台車TR203は採用されず、枕ばねに巻きばねを使用し構造が簡単なTR223が採用された。
このため、緩急車コキフ50000の高速走行時の乗り心地は筆舌尽くし難いほど劣悪であったと言われており、定数削減で余剰となった10000系貨車から空気ばね台車を流用する(51000番台)、あるいはコキフ10000そのものの制動装置を改造し走行性能を揃えたうえで50000系貨車に編入させる(59000番台)など様々な対策が取られた。
国鉄時代の改造
コキフ50000の台車交換
車掌の労働環境改善のため1979年より余剰となっていたコキ10000やワキ50000・ワキ8000等から空気ばね台車のTR203を供出して交換した。
TR203の許容負担重量が元のTR223に比べて小さいため、車体中央部のコンテナ緊締装置が一部撤去され、積載能力が5tコンテナで3個、10tコンテナで1個に減っている。
コキフ10000からの編入改造
コキフ50000の台車交換と並行して余剰となっていたコキフ10000から14両がコキフ50000へ編入された。
改造は種車の電磁ブレーキを撤去して塗装を変えただけ。
民営化後
車掌室の撤去
民営化直前の1985年に貨物列車への車掌乗務が廃止されたため、1987年よりそれまで車掌室が付いていた車両から車掌室を撤去し、通常の貨車とほぼ同様に運用できるよう改造が行われた。しかしながら、このグループの車両のうち、空気ばね台車を履いた51000番台とコキフ10000から改造された59000番台はコンテナの積載効率が悪く、一般車と同じ台車に再改造されるか比較的早期に淘汰された。
余剰のTR223を用意し完全な通常仕様に改造された車は一般車の続き番号に編入され晩年まで使用されたが、TR203のまま残った車(58000番台)は台車が許容する積載重量がやや劣っていたため5tコンテナを4個までしか積載できないうえにTR203そのものの整備が煩雑という事情があったためである。
コキフ10000から改造された59000番台は車体が短かったため、仮に台車を振り替えても他の車両との混用は不可能であった。
1990年代前半にはTR223台車に亀裂が頻発する、という問題が発生。短期間で全ての台車枠を強化型(TR223F)に交換することとなった。(交換車は台車枠がグレー塗装となった)
2001年には台車からの微振動に起因する荷ズレなどの問題への対策を施したTR223Gへの再交換が全車両を対象に行われている。
高速化改造
貨物列車の高速化に伴って制動装置に改造を施して最高速度を100km/h(250000番台)、或いは110km/h(350000番台)まで引き上げられた車両も存在した。
250000番台
国鉄時代の1985年に登場したグループ。車体は淡緑色。
ブレーキ弁に改造を施して応答性を上げ、ブレーキを掛けてから実際に作動するまでのタイムラグを短縮させることで空走距離を短縮させて、従来編成重量1000tまでであったコンテナ列車を最大で1200tまで引き上げたほか、特定の条件下で最高速度100km/hでの運転に対応させている。
ただ、100km/hで運転できるのは編成重量が1000tまでの列車で、10000系貨車や後述の35000番台と違って電磁弁などは使用していないもののけん引する機関車が限られている。
2012年全廃。
350000番台
1988年に登場したグループで、コキ10000と同様に制動装置に応荷重機構のほかに機関車からの操作で作動する電磁弁(CLE方式)を設けて最高速度110km/hでの運転を可能としている。
車体は黄かん色。
しかしながら、振動面で問題が多くあくまでもコキ100系が出揃うまでのピンチヒッターという立場であったため、充分な数の後継車が揃うと高速運用から外れ徐々に数を減らされた。
後年は首都圏の小輸送に充当されたものの、複雑な制動装置の整備性の悪さが仇となり2008年に全廃された。一部は北海道新幹線の工事用貨車に改造転用されている。(廃車済み)
クールコンテナ対応車(57000番台・57100番台)
1987年に登場した電源集中式の冷凍コンテナに対応する車両。
車体中央に発電機を積んだ車両(57100番台)と、発電機から冷凍コンテナに電気を供給する引き通し線を備えた車両(57000番台)でユニットを組んで使用された。
57100番台に設置された発電機は、自車のほかに前後それぞれ2両、合計5両に載せられた冷凍コンテナに電力を供給する能力があった。
塗色は青20号で、車体側面に*COOL EXPRESS*のロゴが入れられていた。
後に冷凍コンテナそのものに冷却装置(冷凍機械)とその動力源を内蔵し、単独で使用できる冷凍コンテナが普及すると、すべての車両が通常のコキ50000に戻されている。
他用途への改造
チキ900
スライドバンボディシステム方式の実用化に向けた試作車として1988年に改造。
スライドバンボディシステムとはトラックの荷台の仮面にそりを設置し、トラックの油圧ウインチでワイヤーを介して荷台だけをスライドさせ、貨車への積替えを行うもの。
試作車のために試験以外の定期運用に入ることもなく、2000年に廃車。
チキ100
チキ900で得られたデータを元に製作されたスライドバンボディシステム方式の量産車として5両が1989年に改造された。
運用コストの問題などからスライドバンボディシステムは実用化されず、苫小牧 - 相模貨物間の自動車部品輸送用として運用され、1996年に運用を離脱。2000年廃車。
チ50000・チラ50000
北海道新幹線の新在共用区間へロングレールを輸送するためのレール輸送車として、コキ350000から12両が改造された。
JR北海道子会社の北海道ジェイ・アール商事がJR貨物からコキ350000を購入し、JR北海道が商事からリースを受ける形態で運用された。
チ50000は編成両端に連結され、レールの積み下ろし設備を供え、チラ50000は編成中間に連結されてレール積載設備、車両によっては作業用設備を供える。
レール輸送終了に伴い2012年に廃車。
去就
民営化後も長らく主力として使用されていたものの、製造から30年以上が経過し疲労の蓄積が激しかったことや貨物列車の運転速度が向上して本車では要求を満たせなくなったことから、2008年からコキ100系のコキ107形が量産開始。これに伴いコキ50000形は淘汰が進み、2018年3月のダイヤ改正でJR貨物での定期運用が終了した。
コキ50000のうちトップナンバーで車掌室のない「コキ50000」が埼玉県さいたま市の鉄道博物館に保存された他、コキ51844が陸上自衛隊輸送学校に訓練用教材も兼ねて保存されている。
以上の他にコキ50009が明電舎沼津事業所の敷地内専用鉄道でコキ250000と共に使用されているのが確認されている。