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50000形

ごまんがた

鉄道車両の形式のひとつ。ここでは小田急電鉄の特急型電車(ロマンスカー)について紹介。
目次 [非表示]

国鉄貨車にコキ50000形(⇒コキ50000の記事を参照)などの例があるが、旅客用では小田急電鉄の例しかない。


概要編集

Remake Odakyu 50000VSE小田急ロマンスカー@新宿駅

2005年3月19日デビュー。箱根の魅力向上とロマンスカーブランドの復権、10000形HISE車の置き換えを目的に製造された。

小田急ロマンスカーのシンボル的存在でもあった。


登場経緯編集

この車両の導入経緯は、かなり昔まで遡る。


ロマンスカーは元々、箱根特急としての観光特急であったが、90年代に入りとバブル崩壊後の景気低迷や旅行形態の変化で観光客以外の途中駅乗降の日常利用が増加するなど、ロマンスカーの乗客層には変化が起きていた。これに対応して、当時老朽化が進んでいた3100形NSE車の置き換えと、箱根特急の利用者減少を日常的な目的での特急利用者を増加させることで補おうと1996年に30000形「EXE」を導入した。先代の20000形RSE車同様、小田急ロマンスカーの特徴だった前面展望席も連接構造も未採用とし定員数を増加したためか、ロマンスカーの利用者を大きく増やすことに成功した。


ところが、EXE車は通勤客重視の車両であり、途中駅利用に対応するための車両であるにもかかわらず、新宿から小田原まで無停車の花形特急『スーパーはこね』に運用する、観光の広告にイメージリーダーとして起用するなど宣伝面、運用面で本来の目的とは異なる運用にも多く起用されたこと、マイカー湘南新宿ラインの台頭などもあってか「箱根へのアクセスはロマンスカーじゃなくてもいい」という状況になっていたこともあって、ロマンスカー全体としての利用者は増えたものの箱根特急としての利用者が大きく減ってしまうこととなり、調査の結果、箱根へのアクセスにロマンスカー利用を検討する客はその理由として展望席の存在を挙げていた。


先代のRSE車も展望席、連接車もなかったがそれでもハイデッカーやダブルデッカーなど観光的要素を持っていたこと、箱根運用が土休日限定で本来の目的に集中できていたことももあってか大きな不評がなかったが、EXEはそのような観光要素を補える部分が存在しなかったことや、置き換え対象のNSE車が展望車だったこともあったのではと指摘する声もある。


こうした影響を受けて、結局2000年代初頭にはEXE車はイメージリーダーから外されてしまい、登場から10年以上が経過した展望車の10000形HiSE」がイメージリーダーに復帰するという事態になっていた。


ところが、その直後に今度はそのHiSEにも問題が生じてしまった。というのも、2000年代初頭当時に施行された交通バリアフリー法にて、既存車両は更新時にバリアフリー化することが義務付けられたのだが、HISE車は先頭部を除いてハイデッカー構造であり、先頭車以外は乗降用のドア部に数段のステップが存在しており、更新を行うということが困難であった。


そこで、HISE車の更新を行わずに新型車両による置き換えが決定し、そこで登場したのがこのVSE車である。

加えて、「箱根の魅力向上と活性化」&「小田急ロマンスカーブランドの復権」を目的として登場した。

"Vault Super Express"、略して「VSE」の愛称を持つ。Vaultとは、かまぼこ形の天井を意味する。


車両解説編集

HiSE以来の連接構造と前面展望席を採用する一方、1車両の長さを増やして11連接から10連接に変更(※左右対称のデザインにするため)され、空気バネによる車体傾斜方式も小田急初採用。

シルキーホワイトをベースにした白い車体に、ロマンスカー伝統のオレンジバーミリオンの帯を窓下に入れた。特徴的なヘッドライトの位置から、どことなく出っ歯に見える。デザイナーの岡部憲明は、直線やエッジを多用した男性的なデザイン(後に登場するGSEは女性的)な車両とコメントしていた。


HiSEの置き換えであるにもかかわらず製造本数は製造コストの影響か10連接の編成が2本の製造にとどまり、置き換えられたHISE車のうち2編成は編成短縮を行って長野電鉄へ移籍した(⇒ゆけむりの記事を参照)が、この時点はHISE車も小田急で2編成残っており、その後2012年まで運用された。


2006年に鉄道友の会からブルーリボン賞受賞。


ちなみに、豊川駅(日本車輌)からの甲種輸送は白いシートで車体の大部分を隠して輸送された。(参照)



車内編集

  • 1号車と10号車には展望席が設置されている。
  • 3号車と8号車にはトイレとカウンタースペースが用意されており、その内、3号車には個室まで用意されている。
  • 車椅子対応出入口は8号車のみに設置されている。
  • それ以外の車両は座席のみの構成となっている。

運用編集

「箱根観光特急」として明確な差別化を図るため、車両運用は箱根特急に特化したものとした。「スーパーはこね」「はこね」メインで50000形限定の運用が組まれ、基本的によほどの代走でもない限り「ホームウェイ」「えのしま」等には使用されなかった。乗務員も、VSE専用の試験に合格した者のみで構成され、他列車とは一線を置くまさにフラッグシップであった。

停車駅も、町田駅本厚木駅小田原駅と非常に少数であった。


しかし、2016年のダイヤ改正で平日の「ホームウェイ」運用が開始されると、江ノ島線でも定期的に運行されるようになり、相模大野駅にも停車するようになる。

2018年に70000形GSE」がデビューしてからは「前面展望席付き車両」で共通運用が組まれ「えのしま」「さがみ」にも使用されるようになり、箱根専属特急としての役割を完全に終え、マルチな運用が可能となった。


2008年に60000形、2018年に70000形が登場してもなお高い人気を誇り、10周年の2015年にはそれを記念した催しも多く、誕生から11年間「箱根観光専用特急」として走行し、後輩登場後もイメージリーダーとして起用され続けるなど小田急側としても非常に特別な存在であったのだが……。


退役編集

THANKS VSEありがとう!VSE


2022年3月12日のダイヤ改正(※小田急ではダイヤ変更と案内)では、社会情勢の変化などを鑑みて「はこね」運用を削減することになり、この結果特急車両に余剰が発生。検討の結果、VSE2編成を定期運用から外すことになった。様々な事情から早期引退説は流れていたものの、デザインは全く古さを感じさせないことから実際に発表されるとファンや沿線住民の大きな反響を呼んだ。


早期退役の理由編集

2021年時点で車齢16年、2023年でも車齢18年。鉄道車両の平均寿命は通勤車両で30年~40年であり、高速鉄道でも15年~25年、特急車でも30年前後であるが、それと比較してもあまりにも短く、車齢だけ見ればまだまだ古くなくこのまま走り続けても引退まで最低でも10年はあるとみていいはずだ。人気投票においても断トツ1位であり、利用者のみならず社内での人気も高く、広告でも大きく目立っていた。

加えて、小田急側としても2018年のGSE車の登場後もVSE車を継続して使用するための補修・更新計画について検討していた。


では、どうして早期引退に追い込まれたのか。そこには検討の過程で、次のような問題点が浮上してしまったのである。


・ダブルスキン構造

先代の30000形「EXE」は鋼製車体で改修工事が比較的簡単であったのに対し、50000形「VSE」は改修工事に難があるダブルスキン構造のアルミ車体であったため、早期の退役となってしまった。

もっとも、それだけの理由ならMSE、GSE車もダブルスキンであり、これらは大規模更新が難しいながらも長期的に使う予定であるため、これだけの理由で引退に至ったわけではない。


・機器類面

常軌に車体構造に加えて、引退を大きく決定づけたのが機器面での問題である。VSE車の機構には多くの特殊構造が盛り込まれており、特殊な車体傾斜装置の保守面の問題、その予備部品が海外から取り寄せていたこともあって更新部品の調達が困難となり、性能を維持できなくなってしまったのだ。


このような事情が重なった結果、EXEのようなリニューアルを行えずに早期引退に至ってしまった。


なお、通勤特化のEXEと観光特化のVSEは何もかもすべてがが対照的ではあるものの、それぞれの開発目的は共に「それぞれの目的での利用者を増やすため」であり、方向性が逆なだけで根底にあるものは同じであり、まさしくコインの両面のような関係でもあった。

また、MSE車以降の車両は基本的にEXEかVSEを意識したようなしようとなっていることからも、VSEと共に21世紀以降のロマンスカーの祖となった車両ともいえる。


引退に際してはVSEに携わった多くの社員、元社員、開発担当のコメントなどを見る限り、小田急側としても相当の苦渋の決断だった可能性が高い。


特別な機構を設けず時流の変化期に更新時期を迎えリニューアルを受けたことで時流に乗り、設計時点で長寿化を図っていた7000形「LSE」は鋼製車で、1980年から2018年までの38年の歴代最長期間活躍していたこと、その引退からわずか3年後の発表、しかもこの間に他に引退した形式がなかったこともあり、本形式の短さがより際立つ。車齢18年であるため、LSE車の半分にも満たなかった。


特急専用車になる前の車両を含んでも、1900形が23年、1700形は23年という形で20年は走行していたことから、この車両の20年未満がいかに短いかがわかるだろう。


ちなみに、更新をせずに引退するというのは何も本形式が初めてではない。

本形式に置き換えられた1987年登場のHISE車と、HISE車の直近の後輩でありその構造も継承していた1991年登場の20000形RSE車もまた、2012年に上記の1980年登場のLSE車よりも早く引退している。

この2形式は、観光に特化してハイデッカー構造を採用したのだがそれがバリアフリーに対応できない形で仇となり、更新工事を行わないこととなった結果、共に2012年に早期引退に追い込まれてしまったのである。

それでも2形式とも短いながらも活躍期間が20年は越えていたこともあって、20年にも満たなかった本形式の短命さが目立つ結果となっている。置き換え対象であったHISE車は時代の波に乗れずにLSE車らよりも早い引退となったが、こちらはそれよりも若く似たような理由で、さらに悲しい運命となってしまった。


  • 参考:他社の事例では近鉄特急の場合、比較的新しい「しまかぜ」や「ひのとり」であっても鋼製車体で製造されている。これはリニューアル工事の際車体の切り貼りをしやすくするためであり、アルミ車体だとその切り貼り自体が難しくなる。

ちなみに、引退理由について現在設置が進められているホームドアの影響だという声があり、発表の数年前から「ホームドアに対応できないから引退するのではないか」という噂も存在した。

現在もホームドアが理由だと信じて止まないファンも多く存在するが、実際にはVSEと他形式(EXE・MSE・GSE)との乗車位置を比べるとさほど違っておらず、VSE以外でも対応していない車両もあり、実際に完全対応しているのはGSE車のみである。ホームドアはドアカットで対応していることを考えるとこれは早合点といえよう。

結果的に理由は違うものの早期引退説自体は的中してしまったが。ただし、2019年以降は故障が頻発していたという情報もあり、こちらに関しては関連性があるかもしれない。


いずれにせよ、特急専用車としては20年にも満たないロマンスカー史上最短で、先輩のEXEどころか、通勤車と特急車という違いがあるとはいえ最後の鋼製&アイボリーであり本形式よりも20年以上も古い小田急最古参である8000形よりも先に引退することとなってしまった。8000形とEXE以外にも、1000形、2000形、3000形もVSEより先輩である。美人薄命という言葉が存在するが、VSEもまさしく鉄道車両としてはそれであったと言える。


その後、2022年3月11日に定期運転を終了。引退発表後は惜別乗車を目指す乗客でチケットの確保も困難となるほどだった。

なお、最終列車は箱根運用で最後を飾ったHISE車とは異なり、意外にもこれまでの専属路線の小田原線でも観光運用でもなく、初期からの途中停車駅を通過もしくは未経由の通勤列車かつ江ノ島線のホームウェイ87号藤沢行きとなった。


定期運行終了後編集

以降は団体向けの臨時列車として下記の各種イベントを展開。2023年9月に50002編成が一足先に引退し、残る50001編成も12月10日に全運用から退いた。これにより66年間続いたロマンスカーの連接車の歴史にも終止符を打っている。


過去に車両構造が原因で先輩車よりも先に引退したHiSE車、RSE車が一部車両が地方鉄道で活躍していることもあってVSE車の譲渡を期待する声も多いが、小田急での引退が機器面での問題であり、加えて大手の小田急ですら修繕できない車両のメンテナンスならば地方私鉄では財政的にさらに厳しくなるであろうこともあってその可能性は限りなく低いとされており、小田急側も積極的には売りには出さないと言及している。


(2022年)

  • 3月26日:沿線在住の新入学小学生を対象にした貸切運行
  • 4月16日:親子を対象にしたツアー

(2023年)

  • 2月25日:鉄道系YouTuberとのコラボツアー(がみ・ひろき・かんの・西園寺・ZAKI・たなか
  • 9月23日、24日:50002編成ラストラン。50001編成と並走、同時発車、追い抜きなどを行うミステリーツアーを実施。
  • 10月14日:海老名にて、現役ロマンスカー5車種を並べた撮影会を実施。
  • 12月9日:50001編成最後の撮影会を実施。撮影会後、海老名→新宿を走行。
  • 12月10日:相模大野→(片瀬江ノ島)→唐木田→(新宿)→秦野、秦野→(箱根湯本)→成城学園前で50001編成ラストラン

引退後は当初海老名にあるロマンスカーミュージアムで保存予定とミュージアム内にも掲示されていたが、現車は2024年現在も2編成ともに車籍が残されており、具体的な動きはない。



関連項目編集

小田急電鉄 特急 VSE ロマンスカー 連接車

4000形 60000形 70000形


外部リンク編集

引退記念サイト

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