概要
小田急の開業60周年を記念して1987年にデビューした、特急形車両・ロマンスカーの1形式。1989年までに11両連接車が4編成製造された。
車両
機器面では7000形「LSE」のものが基となっているが、展望席以外の乗客も車窓の眺望を楽しめるように、客室は高い位置にあるハイデッカー構造が採用され、車両愛称は「High-decker, High-level, High-grade Super Express」を略して「HiSE」と命名。
高床式としたため中間車の客用扉には階段を2段設けている一方で、先頭車の展望室は7000形と同じ低い位置に揃えられており、両先頭車の客室扉には階段が存在しない。また、引退まで7000形とは共通運用を組み、当日までどちらが来るか分からない仕様になっていた。
直近の後輩である20000形はロマンスカーで初のボギー車であり、加えてSE車以来の非展望席構造となったが、10000形のハイデッカー構造は継承された。
7000形まで継承採用されていたロマンスカーカラー3色(バーミリオンオレンジ、グレー、ホワイト)を本形式では一切採用されず、パールホワイトをベースにロイヤルケープレッドの濃淡2色を直線的なデザインとなり、流れるようなスピード感と若々しさを表現。本形式以降のロマンスカーは、ある程度共通のデザインを持ちつつもすべて独自のカラーリングを纏う車両となっていく。カラーリングという意味では、ロマンスカーの革命児でもあったと言える。後に7000形も1995年以降に「展望席付きロマンスカーのイメージ統一」(3100形は2000年までに引退)を目的に本形式と同じ塗装(色の濃淡は異なる)に変更されたが、2012年に本形式が引退した後にも残った2編成は全て元来の塗装に戻っている。
活躍
1987年12月23日から運用開始。登場当時からしばらくの間は最上位列車である「はこね」の一部列車に限定運用された。
本形式の登場により、特急車両の運用に余裕が生じたため、翌年3月からは特急の増発も行なわれた。1989年には2編成が増備され、同年7月からは「あさぎり」を除く特急列車は全列車が11両連接の特急車両で運用されるようになった。
登場当初こそ、本形式はロマンスカーのイメージリーダーだったが、後輩車両が登場した後はイメージリーダーの車両としては扱われなくなった。
しかし、1996年ににデビューした30000形「EXE」は、年間利用者数を本形式のデビュー年である1987年には1100万人だったものが2003年には1400万人としたことで利用者全体は増やしたものの、それまでのロマンスカーのイメージに合わない通勤特化型の車両でありながらもイメージリーダーや箱根特急の花形列車に使用した結果、箱根観光での利用はが2003年には300万人程度と、1987年の550万人と比べて45%も減らしてしまった。もちろん30000形以外にも要因はあるが、これには、当時イメージリーダーとして宣伝に起用されていた30000形に「小田急ロマンスカーのイメージ」とされた展望席が存在せず、ロマンスカー利用者は展望席を求めていることが大きいということが調査で判明した。
このため30000形のデビューから数年後、事態の深刻さに気付いた小田急によってロマンスカーのイメージリーダー的存在に戻された。
なお、2001年4月から翌年3月まで、国のイタリア政府とのイタリア紹介事業「日本におけるイタリア2001」を記念し、1編成が各車両にイタリア国旗をイメージした緑・白・赤の3色のストライプ帯を追加し、「イタリアンエクスプレス」として運行された。
晩年
ちょうどその頃、2000年に改正された「交通バリアフリー法(現:バリアフリー新法)」。既存車両の大規模リニューアルの際にはバリアフリー化が義務付けられた。
この時、登場から10年以上が経過し、更新期を迎えつつあった本形式だったが、先頭車以外は高床構造により昇降時に階段を数段上る必要があり、バリアフリーにも対応した更新が困難なことから、本形式は7000形(1995年から1999年までに更新)とは異なりその対象外となり、新型特急車両によって置き換える方向性が2002年に決定した。
2005年に50000形「VSE」が2編成製造されたことにより第2・4編成は廃車除籍、4両編成へ短縮改造を受けて長野電鉄へ移籍した(⇒長野電鉄1000系「ゆけむり」)。
残る第1・3編成についても60000形「MSE」増備と引き換えになったのか退役が決まり、第3編成が2011年に廃車された。最後まで残った第1編成は、同じくハイデッカー構造を採用したために短命となった20000形、40年以上の活躍で老朽化していた初代5000形と共に2012年3月16日をもって定期運用を終了。その後の展示の後に廃車された。
在籍期間は25年で、20000形と並んで歴代で特急専用車としては3番目の引退となり、初めて30年に満たずの退役にもなり、結果的に先輩の7000形よりも短い活躍となった(尤も、LSE車は歴代最長の38年活躍ではあるが)。また、この引退劇は「独創性を持つのはいいが時代の流れも見なければならない」ということも意味している。
退役後は3両が喜多見検車区に保存されていたが、最終的に第1編成の10001号車のみが「ロマンスカーミュージアム」に展示されている。
ちなみに、HISE車を置き換えたVSE車だが、久々のロマンスカーということで多くの技術と装置を掲載した力作であったが、それが仇となりHISEの引退から10年後の2022年3月に定期運用を終了し、翌年12月には完全引退してしまい、HISEの活躍年どころか20年にも満たずわずか18年での引退となり、理由は違えど時代の波に飲まれて本形式の二の舞のような形となってしまった。
関連項目
小田急電鉄 特急 ロマンスカー 展望車 連接車 10000形
