「貴方、幻視が出来るの?」
「落ち着いて…と言っても無理だよね。大丈夫?」
「この水が貴方の体の中に入ったの。流した血の分だけ」
概要
演:南りさこ
物語の舞台である羽生蛇村独自の信仰『眞魚教』の聖職者“求導女”なる女性。赤いベールに赤い服と赤ずくめの服装が特徴。
物語序盤で異変に巻き込まれて傷ついた主人公・須田恭也を助け、赤い水の意味や幻視能力、村をうろつく屍人の事等様々な情報を提供してくれる。村でも、普段から共に勤める求導師・牧野慶や、一部を除く村人たちから厚い信頼を寄せられている。
出会った当初は物腰柔らかく穏やかな好人物で、プレーヤーは彼女を頼れる人物だと思うであろう。しかし物語が進み、村の因縁が解き明かされていくにつれ……
この先物語の根幹に関わるネタバレ有り
貴女という実が育つまで
随分と掛かった 長かった…
自分が何者か忘れてしまうくらい…
でも これで終わり。
その正体は1300年以上の時を生きてきた不老不死の人間で、羽生蛇村を襲った怪異の元凶となった者である。
今から凡そ1300年前の西暦684年、羽生蛇村は日照りによる大飢饉で壊滅状態にあり、当時子供を懐妊していた比沙子も飢えで死に掛かっていた。そんな折、巨大な三角岩と共に謎の異形が天上の“常世”から降ってきて、羽生蛇村に落ちた。空腹の比沙子を始め生き残っていた数人の村人は、我先にと落ちてきた異形に群がりその生肉を食べてしまう。
異形が断末魔の悲鳴を上げた瞬間、その声を聞いた村人達は皆死に絶えたが、何故か比沙子だけは無事に生き残った(理由は不明だが「妊婦だった為」というのが定説)。その代わり『永遠の命』という呪いを掛けられ、「常世の存在を下位の存在である人間が食らった」罪の贖いの為に、一人悠久の時を生かされることになったのである。
比沙子はその後娘を出産するが、娘は生まれながらに「不完全な不死(肉体だけが朽ち、命が永遠に尽きない)」の命を持っていた。これが後に『神代家の呪い』と呼ばれる呪いである。
比沙子は自身と娘にかけられた呪いを解くには「自分が食べた異形の肉を元に戻して自身の過ちを贖う」ことが必要と考え、娘を異形への生贄にする事を思いつく。
その生贄となった娘こそが神代家の先祖であり、つまり物語のヒロイン・神代美耶子は比沙子の直系の子孫ということになる。最後の末裔たる美耶子は先天盲のためか歴代の花嫁より強い幻視能力を持ち、比沙子はこれこそ“実”の集大成と考え、彼女を捧げれば贖罪が終わるかも知れないと大いに期待していた。
が、1000年という人間には長過ぎる時間を生きた比沙子は精神が疲弊して人格が分裂し多重人格となっており、自分自身が誰なのか、何のために儀式を行っていたのかすら分からなくなりつつある。
作中では眞魚教の求導女、澄子、本来の人格(儀式をする人格)が見られているが、澄子は後に消滅したと思われる。
本編での同一人物とは思えないほどの豹変ぶりは、序盤で須田と会った頃の慈愛に満ちた「求導女」の人格が途中で引っ込み、代わりに儀式の遂行のみを目的に行動する人格が表層化してきたことが原因。このせいで須田や知子は行く末を翻弄され、最悪の展開に繋がってしまう。
なお、「娘を捧げ続ければ自身の罪が許される」というのは比沙子の勝手な想像に過ぎず、本当に儀式を続ければ許されるのかは分からない。
比沙子は「永遠に許されない」という絶望に気付くことなく、本来の目的すら曖昧なまま、自らの子孫を生贄に捧げ続けているのである。
また、比沙子が異形の肉を食べた自分自身ではなく娘を生贄にしたのは、「呪いを解いて永遠の命を得る」という良いとこ取りをするのが目的があったためと言われている。
余談
八尾比沙子のモデルを務めたのは「南りさこ」という壮年(出演当時)ほどの女性であるがすべての経歴が謎の人物である。SIREN出演以前、そして出演以後の詳細は調べても全くわからなかった。
だがSIREN展で行われたトークイベントでようやく言及されたが、近況がわからないのは結局変わらなかった。
元ネタは全国各地に伝説が残る「八百比丘尼」。SIREN世界にもこの伝説は存在するが、比沙子が全国各地を巡ってこの伝説が残ったのか、比沙子以外にも人魚(=常世の存在)を口にして不老不死の呪いを受けた女性が存在したのかは定かではない。
羽生蛇村の人間はほとんどが比沙子の血族であり、村全体が呪われているような状態にあるとされ、村の人間の大半は永遠に若いままの比沙子に違和感を持たず、もし違和感を持ってもそのことについて考えようとすると頭がぼんやりとし、有耶無耶のままに違和感そのものを忘れるという。
末路
捕らえた美耶子を捧げ、遂に復活した堕辰子。ようやく贖罪を果たしたと歓喜する比沙子だったが、その様子は貧弱で何処かおかしい。実は美耶子が須田に血を分け与えた事で美耶子の“実”としての完全性が失われ、また美耶子だけでなく須田とも意識と肉体を共有することになってしまい、そのせいで堕辰子は狂った状態で蘇ってしまったのだ。堕辰子は獣同然に暴れ回り、淳を殺し、須田や竹内に襲い掛かった。
更に求導師の妨害により苦手とする陽光をモロに浴び、重傷を負った堕辰子は常世の一空間、いんふぇるのに逃げ込む。堕辰子を追い共に常世へ渡った比沙子だったが、そこに現れた須田を見て彼が実(=美耶子に宿る堕辰子の血)を盗んだ張本人と悟り激昂する。
それというのも常世は堕辰子と血肉を共有する者(=比沙子、彼女の末裔である神代の女、屍人)しか来れず、常人には足を踏み入れることのできない場所だったのである。
追い詰められた比沙子は已む無く自身の“実”を捧げ、堕辰子は完全体として再生する。最早現世の命運は尽きたかに思われた。
しかし求導師から託された神器宇理炎と、異界で必死に生き延びようと足掻いた人々により神に対抗する力・木る伝が解放され、神代家の家宝である刀・焔薙に、不死の存在を消し去る青い炎が宿る。銃と焔薙を携え、護り手として現れた淳を斃し、残る焔薙を手にした須田は、美耶子の力を借りて堕辰子の首を落とした。
堕辰子の最期と共に比沙子の不死も解かれ、白髪となって弱り果てた比沙子は、首と共に崩壊するいんふぇるのの奈落へ落ちていくのだった。
しかし悲劇は終わらない。奈落へ落ちた比沙子は赤い海を通じて、“御神体喪失に伴って儀式が失敗に終わった”各時代の異界へ飛ばされ、儀式再開を望むその時代毎のもう一人の比沙子へ首を渡す行動を組まれる新たな呪いが生まれる。比沙子に書き込まれた“永遠”の概念によって、羽生蛇村の忌まわしき歴史はひたすらに繰り返され、文字通りどうあがいても絶望を体現する事となった。