「……うん美しい…… すばらしい花火だよ…」
「ショータイムの幕開けにふさわしい…」
CV:堀内賢雄(アニメ映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』)
概要
『シティーハンター』における「実質的なラスボス」である。
なぜ、「実質的なラスボス」なのかと云うと、原作漫画では海原神が登場する一連のエピソードで『シティーハンター』は最終回にはならず、連載終了までの所謂「後日談」となるエピソードにまだ敵となるキャラクターが出て来るためである。
名前から分かる通り、日系人。年齢は50代から60代くらいだと推測される。
中南米を本拠地とする麻薬密売組織『ユニオン・テオーペ』の総帥にして長老(メイヨール)と呼ばれる人物。
作中で起こった『エンジェルダスト』という麻薬が絡んだ重大事件全ての黒幕である。
原作漫画の初期において、海原神は麻薬密売組織ユニオン・テオーペの本格的な日本進出を目論み、幹部達を使い暗躍する謎の存在として描かれている。
ある年の3月31日、ユニオン・テオーペ日本支部の幹部がXYZを使い『シティーハンター』をシルキィ・クラブへと呼び出す。
依頼を確認に来た槇村秀幸に対し幹部は「組織が日本へ進出する際に邪魔になる暴力組織の首領を抹殺する依頼」をするが、槙村はこれを断固として断り組織に敵対する意思を見せた。
「依頼を断り敵対心を見せた報復」として、幹部はエンジェルダストを投与され狂人と化したチンピラを刺客として差し向けて槇村を殺害した。
しばらく時が経ち、物語の終盤になるとユニオン・テオーペは再び日本進行を開始し、長老(メイヨール)である海原神はその正体を顕にする。
手始めに海原は獠のアメリカ時代の相棒だったミック・エンジェルを刺客として差し向けるのだが、紆余曲折ありミックは仕事を放棄してしまう。
これに対して海原は「冴羽獠を抹殺する仕事の依頼」を反故にしたミックが乗ったジャンボ機を、エンジェルダストを投与した工作員を使って無関係の乗客と乗務員もろとも爆破する。
それでもミックは瀕死の状態でかろうじて生存しており、虫の息で海上を漂っていた彼を海原は回収し、更に最新型のエンジェルダストを投与して瀕死の状態から無理矢理に回復させたうえで強力な洗脳効果によって狂人化させて操り、獠や海坊主達と戦わせたのだった。
主役の二人にとって、冴羽獠は海原とエンジェルダストに関して後述の深い因縁があること、槇村香は兄の槇村秀幸の死が裏社会の人間として生きるきっかけになったことから、『海原神』は『シティーハンター』と云う物語全ての元凶とも言える存在なのである。
初登場 ~ 一時撤退
原作漫画の序盤での海原神は暗闇に浮かぶシルエット(横顔や顔の下半分くらいが蝋燭の薄明かりでぼんやり見える程度)のみでの登場だった。この頃は部下達から長老(メイヨール)と呼ばれるのみで本名は全くの不明だった。
当時、急激に勢力を拡大していた麻薬密売組織ユニオン・テオーペの日本進出を企てるも、槇村を殺された復讐の為に新たな『シティーハンター』としてコンビを組んだ冴羽獠と槇村香の2人から日本支部に様々な攻撃を仕掛けられる。
違法地下カジノを仕切っていた幹部のひとりである男爵(バロン)を殺されたのを始めとして、経営する宝石店を襲撃されたりした挙げ句には現金輸送車を強奪されて日本支部からの上納金を全て奪われると云う大打撃を与えられるのだった。
ユニオン・テオーペの日本支部を仕切っていた大幹部であり海原の側近で最強の戦士でもあったユニオン親衛隊の将軍(ジェネラル)までもが獠の策略によって追い詰められてしまう有り様で、上納金を奪われた罪を咎められた将軍(ジェネラル)は海原より「死の烙印」を施されてしまい、「24時間以内に冴羽獠を抹殺せよ」と命令される。
最早、後がなくなった将軍(ジェネラル)は獠への憎悪と抹殺への執念から自らにエンジェルダストを投与し、文字通りの「不死身の殺人マシーン」と化して、獠と真夜中の新宿中央公園で激戦を繰り広げるのだが、右足の義足に仕込んでいたグレネードランチャーの砲身に銃弾を撃ち込まれて爆発四散し跡形もなく死亡。獠に一矢報いる事すら出来ずに完全敗北した。
この結果から、海原はこれ以上の『冴羽獠』への深入りは危険と判断し、日本からの一時撤退を余儀無くされるのだった。
満を持しての再登場
原作漫画ではそれから5年以上と、かなりの長期間物語からは退場していたが、連載最終盤に当たって最大にして最凶最悪の強敵として再登場を果たすことになる。
日本からの撤退後、ユニオン・テオーペは麻薬シンジケートの枠を遥かに超えた軍需的な事業にまで手を広げたことで、既に全米を勢力下に置く程にまで組織を発展させていた。
更に強力な新型エンジェルダストの開発にも成功し、現在では各国の軍から注文が殺到するなど、国家とも手を組もうという段階に来ていた。そして再び日本進出を目論見、本格的に物語に登場する。
海原の左脚は後述の「過去の負傷」により義足になっており、義足内部には高性能爆薬が仕込まれていて海原の身体に生命活動が困難になる程のダメージが発生した場合は自動的に起爆するように設定されている。
『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』でも左右の足で足音が違い、歩く度に金属音が鳴っていた。
原作漫画では冴羽アパートを訪ねた際に獠たちの部屋がある6階まで階段で上がって来ており、海原の足を引きずる歩き方で左脚の義足に気づいた香が思わず罪悪感から部屋に入れてしまっていたが、恐らくこれは香を油断させるための演技である。
その後は足が不自由な素振りを見せる様なことは無く、特に獠との最終決戦では海原は足が不自由とは思えないほど支障なく、むしろ常人離れした動きで素早く行動していた。
仕方のないことだが、北条司氏の画風の変化によって海原の顔つきが連載初期の頃と連載末期の再登場時で大分変ってしまっている。
性格
犯罪組織のボスらしく冷酷で、殺人に対する躊躇いは皆無。
たった一人の裏切り者であるミックを殺すため、エンジェルダストを投与した工作員を使いジャンボ機を爆破し、起爆スイッチを握っていた工作員はもちろんのこと無関係な乗客と乗組員もろとも皆殺しにする程である。
海原の船に侵入したブラッディ・マリィーに対しても、恐ろしく狂気に満ちた目と冷酷かつ残忍な顔つきを見せ、海中へ逃げたマリィーに「狂気の笑顔」を浮かべながら手榴弾で追い撃ちをかけるなど容赦がない。
失態を犯した部下にも情け容赦がなく、熱した指輪で額に最後通告である「死の烙印」を施した上で、与えた制限時間内に任務を全う出来ない場合は如何なる理由があろうと抹殺している。
また、戦闘を「ショー」と呼び、標的に様々な精神的苦痛を与えては残酷な状況を楽しむ悪趣味な面も持つ。
一方で冴羽アパートを訪ねた時など、時折その行動に似つかない穏やかな表情を見せることもある。また話し方自体は丁寧で、学識が感じられる。
狂人ではあるが、ただの新興の麻薬密売組織だったユニオン・テオーペを大国への軍事介入が出来る程の国際的犯罪組織の規模にまで急激に成長させる、上記のような恐怖政治を敷きながらも多数の忠実な部下を従えているなど、トップとしての手腕やカリスマはある模様。
その容姿は香のよく知る人物とも似ているのだが…。
人物(ここからはネタバレになります)
過去
かつて海原神は中米の小国の反政府ゲリラに所属し、ブラッディ・マリィーの父と並び、部隊でも一二を争う勇猛な戦士だった。
ゲリラの村に拾われた、飛行機事故で両親を失った日本人の少年の名付け親にして育ての親でもあり、マリィーの父と共に彼に戦い方の全てを教え、鍛え上げる。
その少年のことを実の息子同然に愛しており、ヘマをして敵の捕虜となった少年を助けるため、部隊の制止を聞かず一人敵陣に乗り込み助け出したほど。
この時の逃走中に左足を失うも、その少年を責めるようなことはせず、まるで「自分の足一本でお前の命が助かるのなら安いものだ」と言うように、ただ黙って優しく微笑んでいた。
しかし、長すぎた戦いにより、海原の精神は次第に狂気に侵されていってしまう。
敗戦の色が濃くなった際に、巻き返しのためと海原は非人道的な作戦を提唱する。
それはエンジェルダストにより不死身の狂人兵団を作るというものだった。
仲間を使い棄ての手駒のように扱うその非人道的な作戦は当然否決されたが、海原は自分を父親のように慕う前述の少年を騙してエンジェルダストを投与し、独断で戦場に送り込む。
そして、その少年はたった一人で政府軍の小隊を壊滅させた。
戦果自体は凄まじいものであったが、その余りにも凄惨で残酷な殺し方と、戦闘後に残された無惨な死体の山には思わず目を背けたくなるものがあり、投与された少年も禁断症状で死線を彷徨い正常に回復するまでにはかなりの月日を要した。
この海原の狂った凶行に恐れをなしたゲリラ部隊は彼を追放したのだが、その後も海原の狂気は止まる所を知らず、戦場から姿を消した海原はいつしか中南米を拠点とする麻薬密売組織のユニオン・テオーペの総帥にまで登り詰め、世界中に悪意をばら撒き続ける事になる。
ここまで説明すれば分かると思うが、海原を父親のように慕っていたその少年こそが冴羽獠であり、彼は海原に対し愛情と悲哀、憎しみが入り混じった複雑な感情を抱いている。
また全滅したと思われていた政府軍の小隊、唯一の生き残りが海坊主である。
彼の失明の原因は、エンジェルダストで狂戦士と化した獠のナイフ攻撃で負った傷によるものだった。
戦闘能力
使用する拳銃はコルトアナコンダの6インチバレルに「First edition」の刻印があるもの。
獠の戦いの師匠であるため、彼の射撃の癖や速さを全て知り尽くしており、その実力は獠と同等かそれ以上だとされている。
かつて海原に裏切られ、怒りに任せて復讐に来た獠をいとも簡単に返り討ちにしている。
作中で銃の腕が獠以上と描写されているのは海原だけであり、そのうえ親子として過ごしていた相手でもあるため、技量的にも心情的にも、獠にとってはまさに最強最悪の敵である。
エンジェルダスト
ユニオンが主に売りさばく『違法薬物・PCP』の俗称。
非常に強力な麻薬であり、投与するだけで、マインドコントロールや筋力の増強、痛覚の麻痺といった様々な効果をもたらし、額を銃弾で撃ち抜かれたり、顔面をマグナム弾で吹き飛ばされたりしてもすぐには死なない身体になる。
しかも、投与された者はその洗脳効果と興奮作用によって、死すらも恐れない人間兵器(もしくは爆弾)に変えられてしまう。
獠が知る限りでは、かつて投与された犯罪者が警官隊に20発以上の銃弾を撃ち込まれても死なない「死すら忘れた狂人」と化したこともあったらしい。
ミックが投与された新型エンジェルダストは洗脳効果が強化され、命令者である海原の声以外は全く届かなかった程である。
実際にエンジェルダストを投与された獠やミックは凄まじいまでの戦闘力と生命力を発揮しており、槇村を殺害したチンピラにいたっては車を運転中の槇村を急襲し、槇村から車で壁に叩きつけられたりマグナム弾を数発身体に撃ち込まれても全く怯むこともなく、更には驚異的な怪力でズタズタに破壊した車のドアの窓枠を槇村の背中に突き刺して致命傷を負わせている。
更に筋力を人間の限界以上にまで高めるため、その反動で死に至る者もいる。
生き残ったとしても禁断症状により生死を彷徨い、地獄の苦しみを味わうことになるため、まさに悪魔の薬である。
ユニオン・テオーペはこのエンジェルダストを用いて、裏社会の人間や市民を洗脳し刺客に仕立て上げて戦力を増強し、組織力を温存しながら、組織にとって邪魔な存在を次々と抹殺しては勢力を拡大させていた。
アニメ映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』でも登場するが、時代背景の変化に合わせてか「体内のヘモグロビンと結合し体組織を変化させ人体を強化するナノマシン」となっている。
ただし、エンジェルダスト投与後の効果に関しては原作漫画とほぼ同じ。
映画の劇中で投与されてしまった人物は、直前まで冴羽獠に敗北し鎖骨や両腕など複数箇所に銃弾が打ち込まれて銃を構えることすらままならなくなっていたのにもかかわらず、筋肉の収縮によって自力で弾丸を体外へと排出し、更に凄まじい再生能力で傷を全て塞いでしまった。
そして驚異的な身体能力や動体視力を発揮し、獠を終始圧倒していた。
さらに、ナノマシンによって凄まじい闘争心と快楽も得られるが、本来戦いたくないのにもかかわらず戦わされることへの葛藤と自尊心を傷つけられたことによる精神疲労が見られ(たびたび声を荒げて頭を押さえていた)、最終的には自我がすり減り、身体の制御さえも奪われて自決すらも出来なくなり、戦闘マシンとして死ぬまで戦わされることになる。
現在
海原神は麻薬密売組織という枠を遥かに超え、最早「世界の戦争を裏で操る死の巨大犯罪組織」と言っても過言ではない程のスケールにまで急成長したユニオン・テオーペの総帥として麻薬の流通や軍需事業の開拓を行う一方で、自らの「最高傑作」とも言うべき「息子」である冴羽獠と、その彼と密接に関わった槇村秀幸やミックをはじめとした多くの人間を殺害、もしくは生き地獄を味あわせ、精神的に苦しめることに至上の喜びを見いだしている。
ユニオン・テオーペが再び日本へと進行を開始し、獠たちと全面抗争となる前には、わざわざ冴羽アパートを訪れて獠と香に宣戦布告をした。
一人で対応した香には世界的犯罪組織のトップとは思えないほど礼儀正しく、優しく穏やかな雰囲気で接していた。
しかし、彼の存在を感知し怒りに満ちた獠が現れると、その狂気じみた素顔を露わにし、彼の前でユニオンの実績を嬉々として語る。
この際に、獠は狂気に取り憑かれ変わり果てた「親父」である海原を見て深く悲しみ一筋の涙を流した。
その直後に獠と香、海坊主は海原との決着をつけるため、マリィーが潜入した混乱に乗じて海原の客船を急襲し乗り込む。
海原は客船の時限爆弾を始動させた上で、彼らを閉じ込め、自分の元へ来るよう仕向ける。
エンジェルダストにより洗脳されたミックと獠が戦うことになった時は、「友と引き合わせるためにエンジェルダストを投与した自分に感謝して欲しい」と嘯き、戦いを仕向けた張本人でありながら、それを「ショー」と呼び、観客として大いに楽しんでいた。
香の命懸けの説得により、ミックは僅かに正気を取り戻して海原を攻撃するも、避けられたうえに誤って船の制御装置をエンジェルダストの驚異的な力によって破壊したミックは高圧電流で感電して倒れてしまう。
「エンジェルダストでもミックの女好きは押さえられなかった」と海原は皮肉混じりに挑発をするが、それでも獠は全く動じなかった。
獠との一騎討ちとなった最後の戦いは長引かず、互いに一発撃ちあった末に海原は心臓を撃ち抜かれて鼓動を止める。
この時、偶然にも床に落ちていたミックの『幸運の御守の弾丸ペンダント』が海原の足に絡まって僅かにバランスを崩させていたのだった。
その後、心臓の鼓動が完全に止まっているにもかかわらず獠に「親父」として語りかけ、自分の義足に詰まった爆弾を使って船底に穴を空け脱出しろと伝えるとともに、自らの今までの行為を詫びる。
地獄のような戦争の中で人間の狂気しか見えなくなっていたという心の内を獠に伝え、狂気の暴走を止めてくれたことに感謝をし、かつての戦場で見せた様な優しい微笑みを浮かべると一筋の涙を流し、静かにそのまま息を引き取った。
「ありが…とう… 息子……よ…」
余談
- ミックは海原が自分にエンジェルダストを投与した理由は、獠と戦わせるためではなく瀕死の自分を助ける方法がエンジェルダストだけだったからではないかと考えている。
- 獠はそのことに対しては明確な返答をしなかったが、狂気と正気が葛藤するあまり、海原自身も自分の行動が狂気なのか正気なのかわからなくなっていたのではないかと答えている。
- 作中の博識さが感じられる言動や獠の名前を見るに、獠の教養深さは海原の影響によるものと考えられる。なぜ「海原」の姓を名乗らせずに「冴羽」という苗字をつけたのかは不明。
- 設定的にラスボスに相応しいキャラクターだが、この後でエンディングへと続くエピソードが1巻分待っているため最期の敵ではない。
- なぜ心臓の鼓動が止まっている筈の海原が獠と会話が出来たのか?海原もエンジェルダストを投与していたのか?と読者からの疑問に対して作者の北条司氏は「あの時の海原は完全に死んでいました。では獠は大量の出血のせいで幻覚を見ていたのか?それとも海原の幽霊か?それは私にも分からない。御想像にお任せします」と答えている。
関連タグ
息子殺しを依頼した人物:ミック・エンジェル
過去の同志:ブラッディ・マリィーの父、教授