概要
時は1983年7月23日。燃料計に不具合が生じていたエアカナダ143便は必要な燃料を手作業で弾き出すことで運行されていたのだが、給油係及びダブルチェックを実施した機長と副操縦士の3人全員がキロをポンドと間違えて計算していたために上空でガス欠を起こしエンジンが2基とも停止(※1)。動力が死んだためにトランスポンダ(※2)も機能を停止。当時その報告を機体側から受けたロン・ヒューイット管制官が事故を回想した時にこの名言が飛び出した。
“エンジンが両方とも停止したと聞いて、私は確かこう言ったと思います”
“なんて事だ、もう助からないぞ”
割と鬼畜としか言いようのない字面だが、これでもかなりオブラートに包んだ意訳であり、原文と直訳は
“I'm talking to a dead man(俺死人と喋ってる…(≒これから墜ちて死ぬ奴と交信している))”
という、ド直球すぎるものだった。
まぁ、エンジンが停止して方向転換が完全に舵頼みになり、電力が死んでコンソールがほとんど死んでた状態なので無理もない。
ちなみに、総集編で再びこの場面が取り上げられた際は、「絶体絶命です」とさらにオブラートに包んだ意訳になっていた。
(※1)1ポンドは約0.45キログラムなので、必要な燃料の半分も入っていなかった計算になる。
(※2)飛行機から管制に位置情報を送る装置
……で、肝心の事故の方は?
数え厄満の無理ゲーとしか言いようのないこの事故だったが、事態を察したヒューイット管制官はすぐさまこの状況でなんとか事故機の位置を把握できる旧式レーダーを引っ張り出しフォローを開始。ボブ・ピアソン機長がグライダー経験を頼りに舵を取り、モーリス・クィンタル副操縦士が土地勘を活かして旧ギムリー基地へ誘導。そこでドラッグレースが行われていたとは露知らず、会場はパニックに襲われたが、幸運にも機体は着陸に成功し犠牲者を出さずに済んだ。
殆ど燃料が残っておらず軽くなっていたからこそ制動が効いたことや、空中での燃料切れを想定したシミュレーションを滑空に向かない機体で行っていた操縦士が居たこと、機長がグライダーを趣味にしていたため滑空に有利な体勢を知っていたこと、当時の天候や風などが滑空に有利な状況だったこと、前輪が展開できない不具合が起きたからこそ着陸した滑走路を通常のように走れず滑走路にいた子供達が無事に逃げ切れたことなど、途方もない奇跡と管制官や乗員のこれ以上ない努力が重なった結果起きた、奇跡中の奇跡であり、邦題も『不運の先に待つ奇跡』となっている。
余談として、番組中では取り上げられていないが、メーデーを受けて当初降りる予定だった空港から整備士が不時着地点へ車で向かったが、こちらもガス欠に陥り辿り着けなかったそうな。
詳しくはこちらの記事を参照。 → ギムリー・グライダー
メーデー民御用達の名言
全員助かったためにトラウマにならずに済んだこともあってか、インタビューに応じたヒューイット管制官がとてもいい笑顔でこれを言ってのけたためにメーデーファンにバカ受け。語尾を“ゾ♡”にして、シリーズを代表する名言となってしまった。
……但し、この事故は“関係者の決死の作業の結果犠牲者を出さずに済んだ”奇跡と努力の結晶ともいうべき案件である。(※3)
ある種の生存フラグといえる言葉でもあるため、同じように死者を出さずに済んだ事故の動画でつぶやくのはいいとしても、多大な犠牲者を出してしまった事故でこのネタコメントをするのは不謹慎であるということは言うまでもない。
飽くまで、笑い話で済む事故に対してのみ使われるべきであるということだ。
(※3)当該事故の状況を再現したシミュレーターで訓練を実施したところ、操縦した全員が墜落、乗組員全員死亡の判定を貰ったという話を作中で聞ける。当然と言えば当然な結果である。
Pixivでは
「もう助からないゾ♡」という八方塞がりな状況を思わせながら何処かインモラルでアブナイ雰囲気が漂う字面から、主に女性優位で色々と助からなさそうな事態に陥っているイラストに付けれらる傾向にある。
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ギムリー・グライダー……ヒューイット管制官らが担当した、エア・カナダ143便事故の別名。