概要
長さの基本単位をヤード、重さの基本単位をポンドとする単位系。温度の華氏や仕事率を表す馬力(英馬力)、英熱量(Btu)などもこの単位系に含まれる。
イギリス、そしてその勢力圏たるイギリス連邦において採用され(イギリス単位→帝国単位)、そこから独立したアメリカ合衆国においてもほぼ同様のものが用いられている(米国慣用単位)が、両者は微妙に異なる。
1ヤード=0.9144m、1ポンド=0.45359237kg。
特徴
人体のサイズを基準としたとした単位が多い(身体尺)。(例:インチ→手の親指の太さ=25.4 mm、フィート→足の大きさ=30.48cm)
直感的でわかりやすいともいえるが、当然ながら足の大きさや親指の太さは人によって異なる。ヤードポンド法の身体尺基準は大柄な西洋人の男性であり、体のサイズの小さい女性や東洋人からすると違和感を覚えるところであろう。
綺麗に十進法で統一されているメートル法、例外はあるが十進法基調の尺貫法に対し、ヤードポンド法は12インチが1フィート、3フィートが1ヤード、1760ヤードが1マイル...という具合に不規則で、換算がややこしい。さらに、英連邦諸国で用いられていた帝国単位と米国慣用単位でも値が異なり、ややこしさに拍車をかけている。体積単位に至っては液体用(液量)と穀物用(乾量)で単位が異なる有様である。
歴史
歴史的には、ヤードの基準は現統治者の身体測定の数値(身長・座高・足の大きさ・指の長さと掌の大きさ、など)であった。国王の世代交代ごとに数値が変わり、わざわざ一から計測しなおさなければならない。ポンドも統治者の都合で1ポンドの基準が変動し、過去の値を参照する場合は時代によって統治者が誰だったかを確認する必要がある。
これは古代ローマ帝国の「度量衡(どりょうこう)法」を参考にした結果であり、19世紀初頭になって外交の国際化が進むにつれて、他国との調整や植民地との連携に支障をきたすと懸念されてようやく改正のメスが入り、メートル法を基準に厳密に定義しなおされた。
かつては七つの海を制覇した大英帝国とその勢力下の地域で採用されていたため、日本でも明治〜大正期には英国の影響の強い分野(例・鉄道)で広く通用していた。日常生活や伝統的な分野では日本在来の尺貫法が支配的であり、フランス発祥のメートル法も広く使われていたため、3単位系共存という状態だった。1921年に改正された度量衡法でメートル法に一本化され、その後は航空など限られた分野で使われている。
現状
現在ではイギリス本国を含むイギリス連邦各国も多くはメートル法を標準として用いており(完全に置き換わったわけではない)、ヤード・ポンド法が多くの分野で用いられている国家は実質的にアメリカ合衆国「だけ」になってしまった。
ところが。
アメリカ合衆国が圧倒的に強い分野である航空・軍事・コンピューター分野、一部スポーツにおいては、ヤード・ポンド法が未だに支配的地位を保っているのである。
結果、特にメートル法を公用単位としていてアメリカの技術を多用する国(例:日本国)にとってはそれらの分野での苦労が絶えないことになる…
事実、アメリカ国内ですらヤード・ポンド法とメートル法の取り違いによる重大事故を何度か起こしている。
「やはりヤード・ポンド法は悪い文明!粉砕せよ!」
なお、アメリカ合衆国でも医療業界ではメートル法が標準なので、アメリカ人でメートル法に慣れている人を見ると「医療関係者か」と思われるようである。
関連タグ
- 尺貫法…日本の歴史的単位系。(尺・貫)
- 鉄道…イギリス発祥。軌間(レールの幅)の多くはヤード・ポンド法由来である。
- 印刷解像度…1インチあたりのドット数が世界標準になっている。
- マクドナルドのクォーターパウンダー(4分の1ポンドの意味)…ヤード・ポンド法に馴染みの薄い地域では「マックロイアル」の商品名で販売。
- パウンドケーキ…全ての材料を同量混ぜ合わせて焼くケーキ。名前の『パウンド』が元々1ポンドずつ混ぜ合わせていた名残である。
- ギムリー・グライダー…メートル法とヤード・ポンド法の取り違えによって燃料切れとなり、旅客機が墜落しかけた世界的にも有名な航空事故。メーデー!航空機事故の真実と真相でも紹介された。パイロットと管制官の的確な判断で着陸に成功し死者無し。
- 毎日こつこつ俺タワー…ヤード・ポンド法をテーマにした常設イベントがある。