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大まかな概要編集

発生日時2009年6月1日午前2時頃 ※1
発生場所大西洋赤道付近の海上
運航会社エールフランス航空(Air France)
機材エアバスA330-200F-GZCP / 2005年初飛行)
乗員12名(うちパイロット3名)
乗客216名
死者228名(全員)

運航乗務員3名(全員がフランス国籍)

機長マーク・デュボア(Marc Dubois、58歳)
副操縦士デイビット・ロベール(David Robert、37歳)
副操縦士ピエール・セドリック・ボナン(Pierre-Cédric Bonin、32歳)

エールフランス航空の創業以来、またエアバスA330の就航以来最多の犠牲者を出した事故であり、また21世紀に入ってから製造されたワイドボディ機で犠牲者が出た初めての墜落事故でもあった。


消息不明、そしてブラックボックス発見まで編集

前日5月31日夜にブラジルリオデジャネイロを発ったエールフランス航空AF447便はフランスパリシャルル・ド・ゴール国際空港に向けて飛行していた。日付が替わってブラジル管制を離れた後、管制交信の通じないデッドゾーン ※2に突入。2時間後に対岸のセネガル管制と交信するエリアに入る予定であった。


ところがその後セネガルの管制を始めとしたあらゆる呼びかけに応答せず、シャルル・ド・ゴール空港への到着予定時刻を過ぎても到着の気配がなく、完全に消息不明となる。


フランス、ブラジル、スペインなどの各軍隊が最後の交信位置を中心に捜索を始めるが、数日後に機体の残骸や搭乗者遺体などが発見され、墜落が確定。

事故が起きやすい離着陸前後でもないのに新型ハイテク機が突如墜落する」というあまりにも奇妙な事故であり、また残骸発見地点は水深が4,000m(つまり富士山の高さよりも深い)に達する上に海底の地形は起伏が激しかったため、最大の手掛かりとなるブラックボックス回収が捗らず、爆弾テロや乱気流などの様々な仮説も数少ない証拠からほぼ否定されるなどして原因究明は難航した。


そして2年近く後の2011年4月、無人水中探査機などの最新鋭テクノロジーを駆使、長い時間と数千万ユーロを掛けた史上最大規模の捜索の末、遂に海底に沈む他の残骸と共にブラックボックスが見つかり、回収された後にフランス航空事故調査局(BEA)で解析された。













………しかし、判明した事故原因はBEAのベテラン調査官ですら顔面蒼白になるほど信じがたいものであった。












最期の3分間編集

結論から先に言ってしまえば、原因は半分以上がボナン副操縦士の誤操縦であった


デュボア機長「交代か。じゃあ私は休ませて貰うよ。」


ブラジルの管制を離れた後、ベテランのデュボア機長が休憩のため若手の交代副操縦士のロベールと交代したことでコックピットは若手2人の状況となる。しかし、ここで機体に通常ならば大して問題ないちょっとした異常(速度計氷結)が生じる。


ボナン「I have control.(僕が操縦します。)」


ボナンは機首を上げるが、機体が失速寸前となりロベールは「降下して速度を付けよう」と発言する ※3。


ロベール「速度が落ちている。1度降下した方が良い。」


しかしこの後ボナンは3分近くもの間、ロベールが代わりに操縦すると言い出してもなおひたすら操縦桿を引き続けた。これにより失速に突入し、そのまま機体は落下を続けより悪い状況に引き摺りこまれてしまう。ここで、パニックになったロベールがデュボア機長がコックピットに呼び戻す。


デュボア機長「どうしたんだ!?」

ロベール「操縦が効きません、やれることはやったんですが……!」


しかし、慌てて戻った機長にも状況を冷静に分析する時間がなかった。


ロベール「上昇だ!上昇しろ!」


すると、ここでボナンが衝撃的な発言を放つ。


ボナン「でも、さっきからずっと引いてますよ!?


デュボア機長「!? ダメだ、これ以上機首を上げるな!!」


しかし、気付いた時には既に遅かった。3分間落下したまま高度2,000フィート(約600メートル)を割り、対地接近警報装置(GPWS)が鳴り出した頃、コクピットボイスレコーダー(CVR)はクルー達の最期の言葉を記録していた。


ボナン「なんてことだ、墜落するぞ! あり得ない!」

ボナン「しかし一体何故なんですか!?


最大の原因が自分にあることにボナンは最期まで気づくことなく、機体は落下速度時速200キロで、大西洋の真ん中に腹打ちで墜落してしまったのであった。







……念のため付け加えるが、エールフランス航空は世界一の航空機メーカーを抱える先進国フランスのフラッグ・キャリアである

そのような名高い航空会社のパイロットが失速からの機体の立て直しに失敗する初歩的なミスを犯して、230人近くの犠牲者を出す事故を起こしてしまったのである

BEAの調査官達が2年かけて追い求め、そしてようやく見付けた答えがこの結末だったことに青ざめるのも無理はないだろう。


メーデー民の反応編集

楽しい空の旅


後述する様に事故の最後の引き金を引いたボナン副操縦士に全ての非がある訳ではない(事故原因は複数要因が絡んでものであった。また、かなり苦しいがあえて擁護するなら経験の浅い時にトラブルに見舞われ頭の中が茫然自失状態になってしまったという事情もある)のだが、彼が犯してしまったミスが余りにも初歩的だったため、テネリフェ空港ジャンボジェット機衝突事故のヤーコプ・フェルトハイゼン・ファン・ザンテン機長(Jacob Veldhuyzen van Zanten)や、クロスエア3597便墜落事故のハンス・ウルリッヒ・ルッツ機長(Hans Ulrich Lutz)と共にメーデー!三大やらかしパイロットに選ばれるという不名誉を被っているほか、レバノン料理やピトー管、ブラジル・コンゴーニャス空港の滑走路「35L(サンゴーエル)」などと並んで人気のネタワードとなってしまっている。

転じて、機首上げによる腹打ち墜落を「ボナン墜ち」、また機首上げによる失速を防止する装置(ボーイング737MAXMCAS)を「アンチボナンシステム」、逆に自動操縦等の誤作動で機首上げが発生した事故を「オートボナン」と呼ぶことがある。


海外でも似たり寄ったりの扱いらしく、彼の本名を検索すると検索候補にIdiot(おばかさん)と出てくる模様。


後書き編集

この事故が祟ったのか、一部の航空ファンやメーデー民からエールフランス航空※4が危険な航空会社として扱われ、同じスカイチーム加盟の航空会社で事故が多い(或いはかつて多かった)大韓航空※5(韓国)・チャイナエアライン※6(台湾、旧名は中華航空)・ガルーダ・インドネシア航空※7(インドネシア)の三社と共に「スカイチーム四天王」という蔑称を纏めて付けられてしまった。(なおスカイチームにはこの他にも空飛ぶ棺桶という蔑称を付けられたアエロフロート・ロシア航空※8(ロシア)がかつて加盟していたこともあって、他の2連合よりも魑魅魍魎が集まっているとされやすい。ただし盟主のデルタ航空(アメリカ合衆国)は非常に高い安全記録を持っているなど、一概に全てのスカイチームメンバーが危険視されているというわけでもない。なお、対極となる連合は豪州カンタス航空や英国のBAなどがいるここだと言われている。)


また航空業界の初歩的な基礎知識を忘れ、事故の最後の引き金を引いてしまったボナン副操縦士は墜落地点からほぼ地球の真裏にある日本の一部の方々を中心に盛大に笑い者にされている。


しかし、この事故は

  • エールフランス航空がそもそも訓練を満足に行っていなかった
  • 若手二人だけのコックピットで明確な立ち位置が決められておらず、意思疎通も足りなかった(クルー・リソース・マネジメントが欠如していたともいえる)。
  • エアバスA330の操縦システムは両操縦席の操縦桿が機械的に連結されていないサイドスティック式であり、お互いの操作を認識しにくいようになっていた(ボーイング機の場合は操縦桿であるため、このような状況は生じないといえる)。

などいくつもの要因が重なって発生したものであり、ボナンが全て悪いわけではなかった(勿論上述のザンテン機長とルッツ機長にも同様のことがいえる)。また事故を再度起こさない様にするという観点からも、特定の個人にむやみに責任を負わせるのはよくないことといえる(責任を負わされたくないが故にヒヤリハット段階をスルー、隠蔽して大事故に直結してしまうというのは航空事故の典型例とも言える。起きたことは起きた事、説教で済む内にさっさと報告を上げて指示を仰ぎ、その後の責任を投げるのが一番無難だといえる)。

さらに後のシリーズには、飲酒飛行手順無視、麻薬、無免許飛行、乗客諸共巻き込んで自殺などといった彼等よりもっとひどく、なおかつシャレにならない大ポカをやらかしたためにネタにすらできないクルーも多く現れたので、彼らが最も問題のあるパイロット三傑という扱いでないことにも留意したい。


何より、

  • これは実話であること、巻き添えでたった1度きりの人生を打ち切られた人達が227人もいること ※9
  • 家族、友達、同僚を突然失い、悲しんだ人々がそれ以上に多くいること

を忘れてはいけないのである。


その後編集

本事故から13年が経った2022年10月10日、エアバス社とエールフランス航空が本事故に関して過失致死罪で起訴された。しかしその半年後の2023年4月17日、フランスの裁判所は事故との因果関係は証明できないとして両社に無罪判決を下している。


注釈編集

※1 グリニッジ標準時換算。日本時間では6月1日午前11時頃。

※2 大西洋や太平洋のど真ん中では一部管制との直接交信、及び管制からの追跡が不可能なデッドゾーンエリアが存在する。

※3 空気力学的に飛行機は機首を上げ過ぎると翼を流れる空気の流れが乱れ、やがて機体を浮かせる揚力が0になって落下し始める。これが失速である。ここから回復するには機首を下げ、翼の空気流を回復させる。これは航空業界の者にとっては基本中の基本知識といえる。

※4 本事故以前にも超音速機コンコルドでの世界唯一となる墜落事故を起こした他、エアバス機の多くの機種で事故を起こしていた(コンコルドに関してはコンチネンタル航空のDC-10機が滑走路に落とした破片を踏ん付けてしまったことが原因であったため、どちらかといえば被害者であるが)。ただし、この447便の事故を最後にエールフランス航空は死亡事故を起こしていない。

※5 1999年頃、大韓航空特有の上下関係の厳しさ(メーデー民からは「儒教」という蔑称で呼ばれる)からCRM(クルー・リソース・マネジメント、簡単にまとめるとコックピット内の人間関係)崩壊に起因する事故が多発したことで、韓国航空会社が一律で米国危険リストに入れられてしまい、事実上の制裁措置を一時的に受けていた。ただし、1999年を最後に大韓航空は死亡事故を起こしていない(2010年代以降はライバル社・アシアナ航空のやらかしが顕著となった)。

※6 1994年に日本の名古屋で墜落事故を起こしたのを皮切りに1998年(台北)、2002年(澎湖諸島近海)で立て続けに大規模な事故を起こした時期があり、「華航四年大限(中華航空は4年に1度特大事故をやらかす)」という都市伝説が一時期囁かれていた。なお2006年以降は死亡事故は一切起こしておらず(2007年に日本・那覇で炎上事故を起こしたがこの際は死者なし)、体制は改善されたといえる。ただし、台湾島内のライバル社・エバー航空が対極ともいえる無傷の安全記録を持っていることもあってか、現在でも負のイメージがまだ拭い切れていない模様(名古屋と那覇の件があった日本では特に顕著といえる)。

※7 本事故直前となる2007年3月にオーバーラン事故を起こした(他には1997年にA300墜落事故があった他、日本の福岡でも離陸失敗事故を起こしている)。ガルーダ機事故2ヶ月前にも(メーデー民から最悪のLCCとして見なされた)アダム航空が墜落事故を起こしていたため、本事故でインドネシア国内の航空安全の甘さが問題視され、2018年までEU(欧州連合)からインドネシア国内の全航空会社に出入り禁止措置が下されていた。ただし、2007年の事故を最後にガルーダ・インドネシア航空は死亡事故を起こしていない(ライオン・エアやインドネシア・エアアジアなど国内他航空会社では散発的に事故が起きているが)。

※8 共産圏ということもあり、航空安全という概念がザルでしかなかったソ連時代には数えきれないほどの事故を起こしていたほか、ロシア時代にもありえない原因で墜落してしまうなどトンデモエピソードを量産し続けることに定評がある。旧ソ連時代には国内にアエロフロートしか航空会社がなかったこともあり、累計の死者数では8000人以上を記録している。これはダントツで世界ワーストの記録である。近年では2019年にもSSJ100で緊急着陸に失敗した他、2022年以降はウクライナ関連の制裁を受けて更に事故の危険性が高まっていると言われている。2022年にロシア連邦軍がウクライナを侵攻した際にスカイチームから制裁措置が下され、2024年現在は資格停止中。

※9 なおボナン副操縦士の妻もAF447便に搭乗しており、2人の幼い子供を残して夫婦共々犠牲となってしまった。


関連タグ編集


事故報告書編集


類似事故編集

  • トルコ航空1951便墜落事故
  • 中華航空140便墜落事故
    • 他にも原因は絡んでいるが、どちらも着陸進入中にパイロットの意図しない着陸復航モードの作動により機体が失速して墜落した。このためメーデー民からはオートボナンと呼ばれる。なおどちらも乗員乗客の全滅は免れた。
  • 全日空61便ハイジャック事件
    • こちらはハイジャックによって高度が下がっていた為に機体を上昇させようとして失速。危うく墜落するところだったが、機長(犯人に刺殺されて死亡)がオートスロットルを入れていたため、間一髪で墜落を免れた。

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