ボーイング707大韓航空858便に起きた悲劇。国家による民間機へのテロ行為として大きな衝撃を与えた。
概要
当該機はイラクのバグダード・サダム国際空港を離陸、UAEやタイを経由し韓国に向かう便であった。
しかしタイのバンコクを目前にしたラングーン(現・ヤンゴン)から南約220km海上上空の地点で突如連絡が途絶え、姿を消した。
周辺諸国による捜索が行われたが、飛行機の残骸が12月に入って発見。原型を留めない遺体も見つかり爆発事故に遭ったことが判明した。
当該機が不明になったことを知った直後から韓国当局はハイジャックの可能性も考慮して乗客の不審者の洗い出しに乗り出しており、経由地のUAEアブダビ空港で降りた乗客達のうち男女の組に着目。彼らは日本のパスポートを所持して日本人の親娘としていたがほどなくパスポートは偽物と判明。
バーレーンからローマへ向かおうとしていた彼らを日本大使館員やバーレーン警察が追い捕まえようとしたところで彼らは服毒自殺を図り、壮年男性は死亡、女性の方は服用している途中で警察官に毒薬を叩き落とされ死にきれぬまま倒れた。
回復した彼女はバーレーンから韓国へ引き渡され取り調べを受けた。この女性こそが当時25歳の金賢姫(キム・ヒョンヒ)であった。死亡した男性は金勝一(キム・スンイル)という59歳の工作員で、彼女との血縁関係はなく、この任務にあたってコンビを組まされた間柄だった。
韓国に連行された彼女は当初は日本人であると自称、その後は中国人と自称したが数々の矛盾や彼女の立ち居振る舞いからその嘘は見抜かれており、軍隊に準ずる訓練を受けた者、北朝鮮の手の者であることも早くから推察されていた。補足しておくが、個人差はあれど50代以上であれば日本語や日本文化の素養があったのが80年代の韓国社会(しかも支配層は戦前日本の支配に加担した勢力)である。
そこで当局は彼女を韓国の市街地に連れ出し、実際の韓国の様子を見せ、また彼女達が殺した乗客達が罪のない出稼ぎの民間人であることなどを教えた。
北朝鮮で聞かされていたのとはあまりにも違う韓国の様子を目の当たりにし、祖国に騙されていたことに気づいた金は全てを自白し、自身の本名と北朝鮮の工作員であること、事件が金正日の指令であることを告白。事件の概要が明らかとなった。
また、金の証言から彼女が工作員として育成を受けた機関には工作員への日本語などの指導担当として、「李恩恵」と朝鮮名を付けられた日本人女性が就けられていたことも判明。後にこの女性は1978年に東京都で行方不明になっていた女性であることが判明、日本人拉致事件の謎解明の一端ともなった。
事件の経緯
金賢姫の供述によると、彼女らは10月に指令を受け北朝鮮を出国後ハンガリー等を経由しイラク入り。経由地のユーゴスラビア(現・セルビア)のベオグラードで他の工作員から受け取った酒瓶に入れた液体爆弾(PLXと推察されている)に市販のラジオに仕込んだ小型プラスチック爆弾と時限爆破装置を当該機内に持ち込み、手荷物入れに入れてアブダビで降りた。
機体がラングーンから南約220km海上に差し掛かった際に爆弾が炸裂したものと見られ、機体は空中分解し乗員乗客115人全員は死亡したものと見られている。乗客の多くはイラクに出稼ぎに行っていた韓国人だった。
その後
北朝鮮側は関与を一切今に至るまで認めておらず、諸外国の親北朝鮮系の人物・団体なども陰謀論を主張して北朝鮮の関与を否定。当時の日本社会党もこれにならったが世論の批判を受けて見解を撤回するに至った。日本共産党は北朝鮮の犯行であるとの立場にたっている。
その後韓国に亡命した北朝鮮工作員の証言などもいくつかあったものの、指令を出したとされる金正日も現在では既に死去しており、何故このようなテロを行ったかは不明な点が未だに多い。ソウルオリンピックの妨害工作説もあるが、結果としては韓国と北朝鮮の南北共催の計画が打ち切りになった程度である。
また本件は航空機の保安体制の問題点等も浮き彫りになった。
2010年、当時の民主党政権下で実行犯の金賢姫が来日した際は、チャーター機で送迎、軽井沢の別荘に滞在、高速道路を封鎖しヘリコプターで遊覧飛行など、国賓並みの待遇を受けた。
表向きは、拉致被害者の横田めぐみさんの情報を聞くためという名目であったが、結局新しい情報はなく、「税金でテロリストを接待しただけか」と批判された。
中井洽国家公安委員長(当時)は、
「何が問題なのか。彼女は一生海外旅行できないかもしれないのだから、日本を見せてやりたかった」
とコメントしている。
「李恩恵」にされた拉致被害者女性の実兄である飯塚繁雄氏は「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の代表を長らく勤め、金賢姫と韓国で面会している。
しかし妹を取り戻すことができないまま、2021年12月18日に他界した。
注意
大韓航空機撃墜事件とは全く別の事件である。