事故概要
発生日時 | 2010年11月4日 |
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発生場所 | インドネシア・バタム島上空 |
機種 | エアバスA380-842 |
乗員 | 29 |
乗客 | 440 |
犠牲者 | 0名(全員生存) |
空中での攻防
カンタス航空32便はイギリスのヒースロー空港を発ち、シンガポールのチャンギ空港で給油。その後目的地のシドニーに向けて定刻通り離陸した。その便では機長の能力審査試験が行われており、正規の乗員に加えて審査役のパイロットも乗り合わせていた。
が、離陸してわずか20kmのインドネシア上空で突然轟音と共に2番エンジンが機能停止。そして乗客の一人が思わず外を見やると左翼に穴が開き燃量が漏れているのを発見した。
直ちに乗員はPANPANコールを打診した後、総動員で対処にあたる。緊急事態と見た審査員も協力し、機長は操縦桿、副操縦士は計器の確認とECAMコンソールによるトラブルの対処、審査員は飛行に必要なデータの計算を担当する。もう一人の控えの副操縦士は対処すべきECAMのエラーメッセージの異常な多さを不審に思い、客室に翼を見に行き損傷を確認した。遠く離れたカンタス航空のコントロールセンターのエンジニアも、困惑しながらもデータの収取にあたる。
(ちなみに丁度そのころ、インドネシアではこのA380から脱落したエンジンカバーやエンジンの破片が民家に落ちており、怪我人こそ出なかったものの地元マスメディアは「うわ、カンタス機墜落か!?」という速報を流してしまった。まぁ人間よりもデカいエンジンカバーや金属片を目の当たりにすれば墜落を疑うのも無理はない。)
損傷に対処しながら、機長はどの程度操縦機能が生きているか把握。それをもとにパイロットたちは重量をはじめとした様々なデータをパソコンに入力して着陸に適切な速度などを模索し空港に向けて降下。
着陸の前に安全性を確かめた機長は機体の動きが鈍くなり、操縦性能の限界を覚え、復航が効かない一発勝負であることを悟る。速度の誤差は4ノットしか許されないという過酷な条件下で、ついに着陸が始まった。
そして失速警報が鳴る中、接地。逆噴射装置やスポイラーが効かず車輪のブレーキを精一杯踏み込んだのち、オーバーランまで150Mというところで辛くも32便はけが人を出さずに地上に辿り着いた。
無事に降りるまでがダイバート
オーバーランすることなくチェンギ空港に戻ることができた32便だったが、着陸後も予断を許さない状況が続いていた。乗員が停止後にエンジンの停止操作をしても、1番エンジンが回転し続けたのである。更には2番エンジンの方も操作を受け付けず、残骸からも燃料がこぼれ続け、飛行機火災の危険があった。
乗員はこれに対し脱出スライドを展開することは思いとどまり、外の消防隊が危険を取り除くまで乗客を機内に待機させた。乗客は着陸後も降りれないことを怪訝に思いながらもこれに従った。1時間後に第二エンジンの消防作業は完了して燃料火災の危機は去り、乗客はタラップを用いて無事降りることができた。
が、1番エンジンは以降も動き続けており、水を注ぎこんだだけでは収まる様子が無かったため、着陸から3時間後エンジンに消火剤の泡を吹き込んでようやく停止させ、乗員たちも無事怪我なしに降りることができた。
事故調査
ようやく停止した機体の様子を見た乗員や調査官は唖然となった。2番エンジンは破裂しており、そこからショットガンのように飛び散った破片が油圧や燃料パイプや電気系統といった左翼の重要な部分をぶち抜いてしまっていたのである。道理でECAMにエラーメッセージの山が大量に表示された訳であり、これだけでも重大なトラブルというに充分であったが、角度次第ではキャビンに破片が飛んできた可能性すらあり、そういった意味では32便は幸運であった。
カンタス航空は事故後、即座にA380型機の即日運行停止を発表・実行し、ATSB(オーストラリア運輸安全局)とロールス・ロイスが調査を行った。
地上に落ちた部品のうちニッケル合金製のタービンディスクを調べてみると、円盤は遠心力で伸びて強度に限界が来てしまい、金属片がブチ巻かれてしまったのである。更に第二エンジンを調べてみると、ロールス・ロイスの設計ミスでオイルを取り扱うスタブパイプが本来よりも薄くなっていたことを発見。そこが金属疲労で破損し、オイルがエンジンに注がれて温度を上昇させ、オイル火災を引き起こし、タービンディスクを必要以上に回転させて、破損させてしまったのであった。
この調査結果をもとにA380を検査してみたところ、就航していた20機で合わせて34ものエンジンがこの欠陥を抱えていたことが判明し、直ちに交換されることになった。更にはソフトウェアにエンジンの過回転を防ぐシステムが組み込まれることになった。
クルーへの評価
目に見えぬエンジンの欠陥によりトラブルに見舞われた32便のクルーたちは、類いまれな技術と互いを信頼しあうCRMをいかんなく発揮し事故機を無事に着陸させることに成功した。本来であれば操縦を手伝ってはいけない審査役のパイロットも緊急事態を鑑みて進んで協力したことは評価されている。こうしてカンタス航空の伝統は護られたのである。
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