TWA800便墜落事故
いんぼうろんをひていするえあくらふとぱずる
発生日時 | 1996年7月17日午後8時過ぎ(現地時間) |
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発生場所 | ニューヨーク州ロングアイランド沖、JFK空港の東約45km地点 |
機材 | ボーイング747-100(該当機の初飛行は1971年) |
乗員 | 18名(うちコクピットクルー4名) |
乗客 | 212名 |
犠牲者 | 230名(全滅) |
1996年、アトランタオリンピックの開催を間近に控えたアメリカではテロへの警戒が強まっており、7月17日のニューヨークJFK発パリ経由ローマ行きのTWA(トランスワールド航空)800便も”乗客の1人が手荷物を預けただけで搭乗していない”と言うことを理由に出発が遅れていた。暑い中、機内で待たされる乗客のためにエアコンはフル稼働していた。
(航空機爆破テロでは大抵の場合テロリストが荷物だけ預けて搭乗をすっぽかした後荷物に紛れ込ませた爆弾を空中で爆発させる。これを防ぐため旅客便はキャンセルがない限り手荷物を預けた人が全員搭乗しないと出発できないようになっている)
……が、手違いで本当は乗っていたことが判明し、1時間遅れの午後8時に離陸。
燃料計の1つが狂っていたようだが、特に大きな問題はないまま巡航高度まで上昇していた最中……
突然機体中央下部で爆発が発生。
そこから発生した亀裂は数秒で機体を一周し機首部分が先に脱落。
残った中央及び後部の胴体は"乗員乗客をのせたまま"、一旦エンジン暴走と重心変化で急上昇した後失速しきりもみ状態で急降下。
途中で左主翼が脱落し、残った後部も海面に突っ込んでいき、粉々に砕け散った。
その後の海面には、数時間もの間航空燃料による激しい炎があがっていた……。
突然の墜落故に当初はやはりテロが疑われた。実際にそれらしき物質が検知されたが、後に少し前に事故機を使用して爆発物探知犬の訓練を行った際についたものと判明し、これは否定された。
一方で陸地の近くで墜落したために数多くいた目撃者の殆どが、こう証言した。
「ミサイルが旅客機にぶつかったようだ」
これに「ミサイルはアメリカ海軍が撃った」という尾びれがつき、これを元ケネディ大統領の報道担当官であったピエール・サリンジャーが支持した結果世論は大荒れ状態となる。
しかしこれも最終的に根拠が完全に否定されたとして取り下げられ、事故一点で調査が進められることに。
最終的に公表された原因は、一言でいえば機体の老朽化をはじめとした様々な問題の積み重ねであった。
TWAは当時アメリカの大手航空会社の一つだったがこの事故以前から経営状態が悪く、1992年と1995年の2度に渡って連邦破産法第11章(チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用を申請するなど当時非常に財政面が悪化しており、就航から25年も経過したB747を置き換えられず未だにニューヨーク~パリ線という大幹線に飛ばしていた。
(一応置き換えの予定はあったが、事故には間に合わなかった)
また大西洋線ではそこまで長距離を飛ばないため、航空燃料は殆ど両側の主翼タンクに積まれており、機体中央下部の燃料タンクにはほんの僅かの量しか入っていなかった。
事故の日、800便は1時間もの間地上でエアコンをフル稼働していたが、このエアコン装置は中央燃料タンクのすぐ近くに配置されており、ほんの僅かしかなかった航空燃料が排気熱で熱せられ、気化した。
(航空燃料は液体状態でなら殆ど燃えないが、気化すると急激に炎上しやすくなる。墜落時よく爆発するのはそのためである)
そして就航から25年を経てボロボロになった機内配線がショートし、飛行中に燃料測定器に通じる配線に過大電流が流れ、気化した燃料への着火装置になってしまった結果……
というのが最終報告であった。このショートについては、ブラックボックスのボイスレコーダーが爆発直前に一瞬不自然なノイズを記録した、つまりブラックボックスに通じる配線の電流がおかしくなっていたことで発生が証明されている。
またミサイルを見たという目撃証言だが、これは目撃者達が炎上する機体を見た後に遅れてタンクの爆発音が聞こえたため誤認してしまったものだとされた。
(打ち上げ花火の音や雷鳴が遅れて聞こえるのと同じ理屈である)
なおこの結果に至るまでに、事故調査を行ったNTSBでは海中から引き上げた機体の残骸で巨大三次元ジグソーパズルを作り、
更には事故機と極めて似た状況で実際に燃料が着火する温度に届くかの"飛行試験"を行っていた。下手したら死ぬのに……NTSBさんやべェ……
先述の通りTWAは2度に渡ってチャプター11を申請しつつも運航を続けており、丁度この事故が起きた1996年から新塗装を導入してイメージ刷新を図ったほか、新型機材の導入などの高効率化や積極的な経営拡大路線をとることで立て直しを図っていたもののこの事故で完全にトドメを刺される結果となり、2001年にアメリカン航空に吸収され、消滅した。
またこの後、”燃料タンク内に窒素を送り込んで引火しにくくするシステム”をボーイングは開発。最近の機体には標準装備されているらしい。
因みに同じ747でもハイテク型の-400以降は配線位置などが変更されており、同種の事故は起きえないようになっているとか。
一番不幸だったのは中央及び後部の胴体に残された乗員乗客(特にその中でも前方に座っていた人達)だろう。
墜落するまでの間、気絶する事すら出来ないまま絶望的な状況を体験させられたのだから、その恐怖は筆舌に尽くしがたいものであろう。
……そして結局陰謀論は今なお語り継がれており、2013年には元NTSB調査官までもが
「殆どの証拠をFBI共が揉み消しやがった!あの最終報告は嘘だったんだ!」
と言い出す始末。残念ながら日本航空123便墜落事故同様、この事故の陰謀論もまた永久に語り継がれていくのであろう……。