概要
水島新司作の『ドカベン』シリーズの登場人物。
作中における明訓高校の初代監督であり、その後は多くの高校の監督を歴任して山田達の前に立ちはだかったライバルキャラの1人ともいえる。
一見するとやせ細って浮浪者のようにすら思える老人。大の酒好きであり、いつも酒が入った徳利を携えている。酒屋から量り売りの酒をツケ払いの名目でたかり続けたり、二日酔いの状態で練習や試合に臨む、監督就任の報酬は金銭よりも酒の方が大事等、内面の方も中々にろくでなしの飲んだくれ。酒以外でも高校野球編の最初期にはヤクザを相手に野球賭博(中学野球の試合)を不用意に行ってしまったことで恨みを買う(一応内容には不正のない真っ当な賭けだったのだが)といったトラブルも起こしている。
その反面、高校野球の監督としての手腕はたしかなもので、作中では山田世代の入学から1年秋神奈川県予選まで明訓の監督を務めた後、クリーンハイスクール(1年秋関東大会)→信濃川高校(1年春センバツ~)→東郷学園(2年秋神奈川県予選~)→室戸学習塾(3年夏甲子園)と、合計5校の監督を歴任。このうち明訓、信濃川、室戸の3校で甲子園大会出場を果たしている。ちなみに東郷学園だけは甲子園出場も明訓との直接対決も叶わなかった。
全盛期の頃はノックを得意としていて、二日酔いでふらついた状態でも強烈な打球を長時間打ち続け、結果ノックを受ける選手達の方がフラフラになってしまう「酔いどれノック」を入部2日目の新入生部員に行い、山田、岩鬼、里中の3人以外の全員が退部してしまった(殿馬が入ったのはこのしばらく後)。
性格は不真面目な印象が強いが、短気で負けず嫌い、そして野球の采配においては非常に狡猾な一面を見せる。激高するとべらんめぇ口調になるのが特徴。
一方で情に厚い面もあり、1年秋の神奈川県予選前にはまだ1年生で負傷離脱中でもあった里中を敢えてキャプテンに任命することで部に居場所を作り、同大会後自分が辞める前のミーティングでは直前の横浜学院との決勝戦で致命的なタイムリーエラーをしてしまった山岡鉄司を、日頃の活躍や適性を評価して新キャプテンに指名した。
山田の9歳下の妹であるサチ子のことは何だかんだ野球部の部員達と一緒に面倒を見て可愛がっていて、彼女が兄の手伝いで部の雑用を行ったり、練習やミーティングに一緒に参加していても普通に受け入れていた。1年夏の甲子園大会への遠征にこっそりついてきてしまった際にも彼女にコーチの役目を与えてベンチに招いていた(後の土井垣、太平監督時は流石にここまでの自由は許していない)。
監督として選手を見る目もたしかであり、チームに土井垣将という絶対的正捕手がいながらも里中との相性を理解して山田の捕手起用と土井垣の一塁手転向を実行した。また偶然や見当違いもあったとはいえ、経緯を考えれば後に甲子園やプロの世界でもトッププレーヤーとして大活躍するほどの逸材となった岩鬼を発掘して高校野球の世界に導いたのも紛れもなく徳川である。
1年夏の大会前にはベンチ入りメンバーの選定を、1年生も含めた部員全員参加による「ごぼうぬきノック」で決めるなど、ある意味公平な実力主義であった。
明訓の監督を退いた後は監督として明訓を打倒することに情熱を注ぐ。特に山田に対しての挑戦心が強く、1年秋関東大会決勝後に「山田太郎を倒せる者を探しに行くか」と意気込んでいた。ほかにも里中のことは明訓のエースとして強く警戒していたり、岩鬼のことは時にからかったり小馬鹿にしつつも「明訓のガンであり宝だぜ」とチームに不可欠な存在であることを認めて評価している。
最後は3年夏の甲子園大会で室戸学習塾の監督として犬飼兄弟の三男坊・知三郎と共に明訓に挑むが、最終的にかつて自身が監督時代に岩鬼と共に実行した「偽装スクイズによるウエストボール(悪球)誘い」という作戦を岩鬼にやられて嵌まり、決勝ホームランを打たれたことで大きなショックを受けた。
プロ野球編以降
プロ野球編では10巻において、岩鬼の夢の中という特殊なシチュエーションでわずかに登場した。
18巻では付け髭とカツラで変装した「山の神・大音寺雪舟」として再登場。箱根の山中にあるお堂で仙人を名乗って地元の住民らから金銭と引き換えに治療や悩み相談を請け負うという詐欺まがいのことを行っていた(本人曰く基本的には真面目に悩みを聞いて真摯に対応していたが、時にはいい加減になることもあったという。ただし地元民にとっては高額ながらも口コミで評判が広がるほどに好評だった模様)。そこに1998年新年の合同自主トレで箱根を訪れていた明訓五人衆が訪ねてきて、急な肩痛を患った山田の治療を3万円で請け負う。山田や岩鬼から徳川に似ていることを指摘されて怪しまれるも、他人のフリを貫いて山田の治療を実行。治療と言っても祈禱をした上でスローイングのフォームをオーバースローからスリークォーターに変えることを助言するだけだったのだが、偶々これが上手くいったことで山田からは感謝された。治療の際に「半日安静にする」という助言を入れることで時間を稼ぎ、当人は急いで自宅に戻ることで翌日岩鬼が掛けてきた確認の電話に対応してアリバイ工作をし、その場は何とか誤魔化し切った。大音寺雪舟の姿では23巻にも登場し、山田の実家を訪れて「ホームラン王の祝い」として手製のバットを贈った。
翌1999年の新年自主トレ(24巻)では前年の確認電話の折に微笑三太郎から誘われたことを理由に、明訓五人衆と、当時ルーキーで一緒に自主トレに参加していた松坂大輔の前に現れる。明訓時代のように練習指示を出しながら当時を懐かしみ、かつてのようにノックを買って出ようとするが、既に老齢と酒浸りが祟って体が弱り、まともに打つことができなかった。その夜、夕食の席で五人衆と酒を共にするが、酔って気を良くしたことで岩鬼の誘導尋問に引っ掛かる形で大音寺雪舟について暴露してしまい、翌朝宿の女将の言葉でそれを知ったことで行方を眩ます。自宅に戻った後、わずかな時間ながらかつての教え子達と共に過ごせた楽しさと懐かしさ、そして自分の現状への情けなさに涙を滲ませ「次はもっとマシな徳川になって会いに行く」と決意し、愛用の徳利を川に投げ捨てる場面で出番を終える。
それからまた長期間出番がなかったが、スーパースターズ編において約9年ぶりに再登場。
2008年のオフに行われる里中とサチ子の結婚式に招待するため、山田が行方を捜していたが、かつての自宅は家賃滞納により退去していてホームレスになっていたことが判明。バイトで草野球の審判をしながら日銭を稼いでおり、ホームレス仲間と楽しむ程度には酒も続けている。山田から結婚式に誘われた際には当初は辞退を申し出たものの、後に自分に出来る最大の正装である明訓高校野球部のユニフォームを着て出席。結ばれた里中とサチ子を祝福した。
余談
- フルネームは1年春センバツ大会準決勝の明訓対信濃川戦翌朝の新聞記事の文章で明かされている。あぶさんや一球さんなど水島漫画には史実の偉人や戦国武将が名前の由来になっているキャラも少なからずいるが、ここまでストレートに大物の名前をそのまま使ったケースは他にないだろう。
- 長い間家族についての描写は一切なかったが、スーパースターズ編での登場時に実は妻がいたがホームレスになる前に先立たれたこと、子供はいなかったことが明かされた。
- 初登場は山田たちの中学時代で、山田・岩鬼・殿馬が所属する鷹丘中学と、後の教え子の1人でもある小林真司が率いる東郷学園(中等部)の試合を不知火守と一緒に観戦していた。このとき不知火とは相応に親しい様子だったが2人の関係についてはその後ほとんど描かれていない。しかし上記の野球賭博において徳川が不知火に賭けていたことは明かされている。
- 1977年公開の実写映画版では作者の水島新司氏自身が徳川役を演じた。(メイン画像参照)