概要
一言で言えば、彼の代表作でもある、野球狂。野球を取ったら何も残らないのではないかと思われるほどであった。
描く方も、やる方も大好きで、ビートたけしとは野球を通したライバルであり仲間。
彼の登場までは、巨人の星に代表されるように、投手vs打者のライバル物語として描かれることが多かった野球漫画というジャンルにおいて、漫画らしい荒唐無稽さを持ちつつも「野球」という団体競技のルールや戦術やベンチワーク、個々の選手や指導者たちの心理描写が表す立場の違いなど、より専門的な視点からのドラマも追求する作風が人気を博し、新たなスタンダードを打ち立てた。
水島と同世代の友人で、自身も「ちかいの魔球」などの野球漫画を描いたちばてつやは彼の死去に寄せて「あなたのすぐれた野球マンガの出現で、私は野球を描けなくなりました」と評した。
ちなみに、本格的に野球漫画を描き始めたのは漫画家になって10年近く経ってからである。これは、デビュー当時は好きな野球を描けるほど画力に自信が無かったためだと本人が述べている。
アトリエにはいつでも草野球に行けるようにバスが常備され、多数の連載(全部野球)を持ちながら年間60試合近く草野球に出場。
投手として草野球200勝を達成し、自分で名球会入りパーティーを開くという野球狂っぷり。
代表作『ドカベン』『野球狂の詩』『あぶさん』『一球さん』他。
『あぶさん』が単行本107巻、実に41年に渡って連載されていたことは有名だが、実は『ドカベン』も高校野球編からドリームトーナメント編まで全て合計すると単行本全205巻になる大長編作品である。一人の漫画家が書いた巻数としては最長である。
『大甲子園』や『ドカベンスーパースターズ編』では複数の作品の選手が戦い合った。
略歴
1939年4月10日、新潟市に誕生。実家は「さくら」という魚屋を経営していたが、父親がギャンブルで多額の借金を背負い生活は厳しかった。
1955年、白新中学校を卒業。3年生の時は卒業式のため1日学校へ行っただけで、家の手伝いやアルバイト等に明け暮れた。新潟明訓高等学校への進学を希望していたが、父親の借金のカタに水産問屋「松尾鮮魚店」へ丁稚奉公に出される。
1958年、大阪の貸本漫画出版社「日の丸文庫」の新人漫画コンクールに「深夜の客」を投稿。次点に終わったが佐藤まさあきが評価し、特別に特選二席として掲載されデビュー。「日の丸文庫」社長の山田秀三宅に住み込み、出入りしていた影丸穣也、本宮ひろ志、山本まさはる、政岡としやらと親交を結ぶ。
1964年、「日の丸文庫」から独立し上京。富士見町(千代田区)に住む。「週刊少年キング」(少年画報社)に「少年鷹王」を掲載し、少年誌デビュー。
1968年、「週刊少年キング」で「ほえろ若トラ」(田淵幸一の少年期から阪神タイガース入団までの物語)を連載。初の野球漫画。
1970年、「男どアホウ甲子園」を「週刊少年サンデー」(小学館)で連載。最初のヒット作となる。
1972年、「野球狂の詩」を「月刊少年マガジン」(講談社)で、「ドカベン」を「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載開始。
1973年、「あぶさん」を「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載開始。
1975年、「一球さん」を「週刊少年サンデー」で連載開始。
1976年、「球道くん」を「マンガくん」(小学館)で連載開始。
1983年、今まで描いてきた高校野球漫画のクロスオーバー作品「大甲子園」を「週刊少年チャンピオン」で連載開始。
2012年、「ドカベン」の40周年を記念し、最終章「ドカベン ドリームトーナメント編」を「週刊少年チャンピオン」で連載開始。
2018年、「ビッグコミックオリジナル」に載った「あぶさん」の読み切り作品が最後の作品となった。
2020年12月1日、漫画家を引退することを発表。
2022年1月10日、肺炎のため東京都内の病院で死去。満82歳没。
主な作品
- 銭っ子(原作:花登筺 テレビドラマでは「つくしんぼ」のタイトルで放映された)
- あぶさん
- アルプスくん〇
- いただきヤスベエ(原作:牛次郎)
- 一球さん◎
- 男どアホウ甲子園(原作:佐々木守)◎
- エースの条件(原作:花登筺)
- おはようKジロー〇
- 球道くん◎
- 極道くん〇
- ストッパー〇
- ドカベン◎(1972年 - 1981年)
- 大甲子園
- ドカベン プロ野球編(1995年 - 2003年)
- ドカベン スーパースターズ編(2004年 - 2012年)
- ドカベン ドリームトーナメント編(2012年 - 2018年)
- 虹を呼ぶ男〇
- 光の小次郎〇
- へい!ジャンボ〇
- 野球狂の詩◎
- 野球狂の詩 平成編〇
- 新・野球狂の詩〇
- 野球大将ゲンちゃん〇
- ダントツ◎
この内、
- 太字はアニメ化・実写化された作品。
- 『あぶさん』以外の作品は、◎が『大甲子園』に、〇は『ドカベン ドリームトーナメント編』に登場人物が登場。
水島とホークス
水島と言えば熱狂的なホークスファンとしても知られ、その活動は1ファンの域に留まらなかった。
特に南海ホークス時代は球団の懐事情を鑑みて先のバスで球場に出向いては選手に食事を奢ったり、タイトルを獲得した選手には自ら金一封を贈呈したりしていた。
さらに代表作の1つ『あぶさん』では主人公・景浦安武がホークスに所属するが、連載開始前に選手兼任監督だった野村克也と景浦の入団交渉(という名の打ち合わせ)も行っている。漫画の内容も球団の裏の部分まで事細かに描写しており、南海ホークス球団史副読本としての側面を持つ。
球団側もこれに応え、景浦の背番号90番を2009年の彼の引退まで欠番にした他、景浦の引退セレモニーも実際に球場で行った。
この他、ホークスがダイエーに身売りされる際に新球団オーナーである中内氏がホークスの事情について尋ねるため水島と会食したことがある(ホークスについて誰が一番詳しいかと尋ねたところ、全員が水島の名を挙げたため)。
なお、セ・リーグではかつては阪神タイガースのファンだったが、近年広島東洋カープが好きだという発言があった。
予言的な話
描く漫画は、後になって現実に起こることが多々あり、予言者としても有名である。
- ルールブックの盲点の1点:該当記事参照。
- 審判が倒れる、ビデオ判定:上記の出来事と同じ試合で発生。手は尽くしたけど駄目だったを参照。
- 通天閣ボール(イーファスピッチ):坂田三吉が山田と殿馬に投じた。その後多田野数人と東海大四の西嶋亮太が本当に投げた。
- 渡辺久信のノーヒットノーラン:漫画に描かれた数日後(1996年6月11日)、本当に達成。
- 5打席連続敬遠:中二美夫が山田に対してやった。その後、松井秀喜が明徳義塾戦で本当にされた。
- 女性プロ野球選手:『野球狂の詩』の主要人物として描かれた女性プロ野球選手水原勇気であるが、連載当時は非現実的な話とされていた。しかし2008年に関西独立リーグに吉田えりがドラフト指名され、地方リーグながら女性プロ野球選手が現実のものとなった。