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概要

ここから先は『僕のヒーローアカデミアエピローグ以降のネタバレを含みます

『謎の少年』とは、物語最終盤に登場した謎多き人物である。名前、年齢、個性までもが謎に包まれており、わずかな出自が語られるのみでその他の情報は一切明かされない。

人物

無造作に伸ばされた長い黒髪と、口元を布切れのようなもので縫い合わされているのが特徴。ボロ切れのような服を纏っている。

見た目からは中学生ほどの少年のように見受けられるが、後述の家庭の事情や本人の語り口から伺えるように、精神年齢は実年齢よりもさらに幼いと思われる。

個性の詳細は不明。下記のように「突然変異」であり、家系のもつ個性とは明らかに異なるとされる。

指先がAFOの「鋲突」を思わせる形状に変化するシーンが僅かに描かれた。

活躍

この少年の過去は、彼自身の独白によって語られている。

彼の家はシスター※を雇うほどの裕福な家庭で、特に何不自由のない生活を送っていたようだが、彼に両家どちらの系統にも属さない突然変異の個性が発現したと分かると、彼の家族は態度を一変。彼の“個性”どころか存在すらも気味悪がり、彼の口元を縫い合わせて地下室に監禁する。

※ただしこれが「女性修道士」を意味するシスターなのか、それとも単に「姉妹」なのかは明かされていない。

ある日、彼の家族は「世界が終わる」と彼に言い、食糧を残して行方をくらましてしまう。その後外の世界で行われた最終決戦の影響によって家が半壊。ようやく地下室から脱することができた少年は外の街を1人放浪する。

街を彷徨い歩く中で少年が見たのは、復興に励む人々とヒーローの明るい笑顔だった。自分は惨い虐待を受けたのにも関わらず、変わらず笑みを称える外の人々との差に理不尽を感じ、衝動的な殺意が芽生えた彼は、“個性”を発動して社会に牙を剥こうとする。

しかしそこで、1人の老婆が少年の手を取った。彼女はかつて、道端を歩く1人の少年に声をかけたものの、少年の不気味な雰囲気を恐れ、「すぐヒーローが来てくれるからね」と立ち去ってしまった過去があり、彼を見捨てた罪悪感にずっと苛まれ続けていた。二度と同じ過ちを犯さぬために、老女は少年に言葉をかける。

「もう大丈夫だからね。おばあちゃんが来た』からね」

彼女のその言葉は、これまで拒絶され否定されてきた少年を思いやる優しい言葉だった。少年はようやく自分を見てくれる存在に出会い、大粒のを溢れさせ、寸前のところで思いとどまったのだった。

余談

先述の通り、彼が受けた虐待は理不尽極まりないものだった。

『個性の特性のみで家族に忌避され』、『実の家族から隔絶した生活を強要させられ』、『社会との繋がりを絶った生活を余儀なくされた彼は』、この理不尽を押し付けた世の中に対して、“破壊”を選択しようとしたのである。

しかしそんな彼を救ったのは、ヒーローではなくたった一人の平凡な女性だった。これが意味するのは、ヒーロー社会の新たなあり方である。

ホークスが唱えていた「ヒーローが暇を持て余す社会」とは、「ヴィランを根絶した社会」ではなく、「常に誰かが誰かに手を差し伸べ、救い出す社会」を意味していた。

死柄木をはじめとしたこれまでのヴィラン達も、元は社会から排斥され拒絶された被害者達だった。そんな彼等に誰かが手を差し伸べられていたら、彼等がヴィランとしての生き方を決める前に救うことができたなら、違う結末が待っていたのかもしれない。

この少年とは、「あのとき救うことができたなら」というもしもを描いた、ある意味での「もう1人の死柄木弔」と言える。

また物語序盤から「ヒーローが助けに来てくれるのを待とう」としてきた一般市民が、「お節介と言われても自分が手を伸ばそう」と思ったというのは、この作品におけるテーマの総括とも取れるだろう。