概要
西海岸のデルマーで行われた2021年のブリーダーズカップ。この年の牝馬レース・ディスタフはGⅠ4連勝中のレトルースカ・同年のケンタッキーオークス馬マラサート・前年のケンタッキーオークス馬シーデアズザデヴィル・アズタイムゴーズバイなど国内の精鋭ぞろいになった。ここに唯一の外国馬として、日本からマルシュロレーヌがO.マーフィー騎手で参戦することになった。
欧州からはマーフィー騎手の他にデットーリ騎手がアルゼンチン出身の地元馬ブルーストライプを担当することとなった。
この時のマルシュロレーヌの評価としては大穴扱いだった。それもそのはず、彼女は国際的には重賞未勝利扱い(実績のあった地方重賞は国際的にはリステッド)。さらに、主戦の川田将雅騎手が遠征に帯同しているのにもかかわらず、O.マーフィー騎手に乗り替わった。
また、勝機のあるJBCレディスクラシックを捨ててまでBCディスタフに挑んだことに対し、キャロットの一口馬主からの反応は批判的だった。それもそのはず、遠征費用は一口馬主の負担だからである。
ここまで見ると、彼女の挑戦は無謀な挑戦であり、メリットもほぼ無い。では、なぜ遠征したか。言ってしまえば、彼女の役割はBCフィリー&メアターフに挑んだラヴズオンリーユーの帯同馬である。矢作芳人厩舎の僚馬であった彼女とはもともと仲が良く、厩舎も同じだった。
ラヴズオンリーユーは2時間前に行われたBCフィリー&メアターフを勝利し、日本馬史上初のBC制覇を成し遂げた。後は彼女が無事にレースを終えるだけと思われていた。
出走馬
米国は日本と同じくゲート番をそのまま馬番とする。
ゲート番 | 馬 | 年齢 | 騎手 | 調教師 |
---|---|---|---|---|
1 | プライベートミッション | 3 | F.プラ | B.バファート |
2 | ロイヤルフラッグ | 5 | J.ロザリオ | C.ブラウン |
3 | マラサート | 3 | J.ヴェラスケス | T.プレッチャー |
4 | ブルーストライプ | 4 | L.デットーリ(GB) | M.ポランコ |
5 | クレリエール | 3 | R.サンタナJr. | S.アスムッセン |
6 | レトルースカ | 5 | I.オルティスJr. | F.グティエレス |
7 | ホロロジスト | 5 | J.アルバラード | W.モット |
8 | シーデアズザデビル | 4 | F.ジェルー | B.コックス |
9 | アズタイムゴーズバイ | 4 | L.サエス | B.バファート |
10 | マルシュロレーヌ(JPN) | 5 | O.マーフィー(FR) | 矢作芳人(JPN・栗東) |
11 | ダンバーロード | 5 | J.オルティス | C.ブラウン |
展開・結果
まず最内枠のプライベートミッションがハナを奪い、1番人気レトルースカが2番手、アズタイムゴーズバイ、シーデアズザデヴィルという形で縦長の展開に。位置取り争いで400m21秒99、800m44秒97という驚異的なハイペースとなり、プライベートミッションとレトルースカら逃げ先行勢は早々に一杯になって後退、今度は後方待機していたマルシュロレーヌとマラサートがまくって上がってきてマルシュロレーヌが先頭に立ち、内から叩き合いながら伸びてきたダンバーロードの追撃をハナ差振り切ってゴール。ラヴズオンリーユーの帯同馬の扱いをされ9番人気(単勝50.9倍)の伏兵扱いだったマルシュロレーヌが、きつい前傾ラップの消耗戦を制して米国ダート牝馬の頂点に立ったのだ。
上位人気は2番人気マラサートが何とか3着に入ったものの、1番人気レトルースカは失速してブービー10着の大惨敗となった。
着順 | 馬番 | 馬 | 人気 | 着差 |
---|---|---|---|---|
1 | 10 | マルシュロレーヌ(JPN) | 9 | |
2 | 11 | ダンバーロード | 7 | ハナ |
3 | 3 | マラサート | 2 | 1/2 |
4 | 5 | クレリエール | 5 | アタマ |
5 | 2 | ロイヤルフラッグ | 3 | 1/2 |
6 | 8 | シーデアズザデヴィル | 4 | 5 |
7 | 4 | ブルーストライプ | 10 | 大差 |
8 | 9 | アズタイムゴーズバイ | 8 | ハナ |
9 | 7 | ホロロジスト | 11 | 大差 |
10 | 6 | レトルースカ | 1 | 2 |
11 | 1 | プライベートミッション | 6 | 5 |
備考
- 勝ち馬のマルシュロレーヌはその後、サウジカップに遠征。牡馬相手の紅一点かつ、外枠ながら6着に入り、このレースが完全なフロックではないことを見せた。
- このレースでマルシュロレーヌにはレーティング116が与えられた。牝馬は4ポンド加算されるというルールに沿えば、プレレーディング上では、同年のチャンピオンズカップを6馬身差で勝利したテーオーケインズと同値である。
- このマルシュロレーヌの大激走は日本競馬のダート路線の景色を大きく変えた。この翌々年、サウジカップでパンサラッサが、ドバイワールドCでウシュバテソーロがそれぞれ優勝し、BCクラシックでもデルマソトガケが2着と再びダートの本場アメリカの最高峰で才覚を示した。日本ダート路線が本場の舞台で通用することを示せるようになったのには、まず彼女の存在が不可欠だったのは間違いない。
- 3着のマラサートは翌年のBCディスタフで3頭が横並びになる大接戦を制し、リベンジを果たした。
- 21年のエクリプス賞では最優秀芝牝馬をラヴズオンリーユーが受賞したが、帯同馬だったマルシュロレーヌもラヴズオンリーユーとのコンビでモーメント・オブ・ザ・イヤーを受賞。
- このレースに出ていた馬のうち、
- 翌年同レースで2着に入ったブルーストライプはセリでナーヴィックインターナショナルがグランド牧場の代理で400万ドル(当時のレートで約5.8億円)で落札。グランド牧場の海外繋養繁殖牝馬となった。
- ホロロジストは21年のセリでノーザンファームが落札。年内にノーザンファームへ輸入されて繁殖入りし、23年に初仔となるサートゥルナーリア産駒の牡馬を出産した。
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ステイゴールド 彼女の父父。同じく帯同馬としての扱いながら、当時G2のドバイシーマクラシックでファンタスティックライトら相手に勝利した。