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パンサラッサ

ぱんさらっさ

2017年生まれの日本の競走馬。主な勝ち鞍は2022年のドバイターフ(GⅠ)・2023年のサウジカップ(GⅠ)で、その他にも2022年の中山記念(GⅡ)、2021年の福島記念(GⅢ)を制した。日本調教馬としてサウジカップを初制覇した他、大逃げ戦法をレーススタイルとする逃げ馬として知られ、多くの競馬ファンを沸かせたことで名高い。
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プロフィール編集

生年月日2017年3月1日
英字表記Panthalassa
香港表記本初之海
性別
鹿毛
ロードカナロア
ミスペンバリー(IRE)
母の父モンジュー(IRE)
生産者木村秀則牧場(北海道新ひだか町)
馬主広尾レース
調教師矢作芳人(栗東)
厩務員池田康宏
主戦騎手弥生賞まで坂井瑠星騎手、5歳以降は吉田豊騎手
獲得賞金3億170万円+1195万米ドル

2017年3月1日生まれの日本の現役競走馬(20世代)。戦績は2023年2月25日現在で25戦7勝(国内22戦5勝、海外3戦2勝)。


ロードカナロアは短距離GⅠを6勝し、「龍王」の異名で知られる日本競馬史上屈指の名スプリンター。母ミスペンバリーは凱旋門賞馬モンジュー産駒のアイルランド産馬で、日本で調教された後未勝利のまま繁殖入りした。本馬はその7番仔に当たる。


馬主の広尾レースはいわゆる一口馬主クラブの一つ。外国産馬を中心としていたクラブ「サウスニア」が2007年にリニューアルしたもので、「青、袖緑一本輪」(サウスニア時代は「海老、白一本輪、白袖」)の勝負服を使用する。

ちなみに前身のサウスニアは1995年に創設されたが、その実質的な前身は「シンボリホースメイト」という一口馬主クラブ。その名の通り名門のオーナーブリーダーとして有名なシンボリ牧場が母体となったクラブで、かの「皇帝シンボリルドルフを牧場側と共同所有していたことで知られる。


馬名は古ギリシア語で「全ての海」を意味する言葉で、かつて地球の陸地が巨大な一つの大陸(パンゲア)だった時にそれを取り囲んでいた大洋を指す。ハワイの海神カナロアの名を持つ父からの連想であり、「GⅠレースに勝利し唯一の王者となってほしい」との願いが込められている。

ちなみに出資者によると他にも

  • キングバリー(祖父と母の名から)
  • メイドリーム(日本ダービー5月(May)に夢(Dream)を乗せて。またmayは「明」であり、明るい夢を皆で抱きたい想いから)
  • ヴェルト(ドイツ語で「貫禄」「威厳」の意)
  • フルレッグス(英語で「全力の脚」の意)

が候補として挙げられていたとのこと。


性格/強み編集

性格編集

逃げ馬は他馬を怖がる(ツインターボカブラヤオー)、他のどの馬よりも前を走らなければ駄目だと思い込んでいる(ダイタクヘリオス)等、気性面で何かしら問題を抱えていることが多い。

パンサラッサはそれらとは少々事情が異なり、調教中に身体能力の高さもあり調教師を何人も振り落としたりパドックやレース後に首を前後に振り回したりと、一言で言うならば「やんちゃ」な性格の持ち主である。だがレース中は特に問題も起こさず蹴り癖等も無いためやんちゃではあるが気性難というわけでは無く、本格化前の3~4歳前半時には怪我に悩まされた事もあり性格に反してやや虚弱な体質の持ち主だった。

一方で雑音は苦手な一面があるようで、ある時栗東トレセンで車の往来音に驚いてしまい、矢作調教師の愛弟子である坂井瑠星騎手の車を破壊しそうになったという。

そのような神経質な面もあったのか厩舎では馬房の壁を蹴る癖がある暴れ馬であり、畳で保護された馬房を使っていた模様。種牡馬入りする際もアロースタッドのスタッフが暴れることについて忠告を受けている他、シャトル種牡馬としてオーストラリアへ遠征した際も特殊ゴムで保護された馬房があてがわれた事が明かされた(暴れ癖が周知されたのもXの牧場に到着した旨の情報発信ポストだった)。

メンコをつけていない時の扱いには特に注意を払うように関係者には注意されたとも言われている。レース本番では獅子舞ムーヴはすれどそこまで酷い姿は見られなかったため、引退後に蹴り癖などの話を知って驚いた、というファンも少なからず居た模様。

また一方で矢作調教師などによると、デリケートなサラブレッドには珍しく遠征が好きらしい。馬運車に乗る時はいつも足取りが軽い他、遠征先でも飼い葉の食い方が変わらないとのこと。この遠征適性がパンサラッサのローテーションを支える一因にもなっていた。


ちなみに、遠征(お出かけ)大好きなことや、実際には行われなかったが天皇賞(秋)前のインタビューで落ち着きすぎているとスタートからの行き脚が悪くなるので、あえてスタートの前に大観衆の前でメンコを外してテンションを上げる。という作戦が明かされたことから、競馬ファンからは「陽キャ」と例えられることもある。

また、それを裏付けるかのようにレース前のパドックでも首をブンブン振って暴れている様子がよく見られる。一般にパドックでこのようになってる馬は無駄な体力を使ってしまい本番は凡走すると言われがちだが彼に限って言えばむしろ暴れてたほうが好走するとか言われたりする。


そんなパンサラッサの厩舎での愛称は「パンくん」。自分がそう呼ばれていることも認識しているようで、大阪スポーツの記者が「パンくん」と呼び掛けたところ馬房から顔を飛び出したという


強み、レーススタイル編集

デビュー当初から強みとしていたのは高い重馬場適性。関係者が「水掻きがついてるかのよう」とも表する重馬場巧者でもあり、重めだったり洋芝コース上のレース成績も良好。

未勝利戦を抜け出した際も不良馬場で勝利した。

札幌記念がわかり易いが、このような重馬場では距離を極端に引き離すような事はしないが絶妙なハイペースで後方の足を消耗させにかかる。

まだ逃げ馬としてのスタイルを確立し切る前の下積み当時は、陣営スタッフ達で雨乞いをしたという逸話もある。


そしてパンサラッサの代名詞として語られる最大の特徴と言えるのが2021年秋以降に確立された逃げ、それも大逃げのレーススタイル。元々コーナリングが非常に巧い馬であったが、試行錯誤の末に他馬からの影響を受けない大逃げスタイルがこの馬の特色を最も活かせると判断されたことによるものである。

過去の有名な大逃げ馬を例に上げると、サイレンススズカ「道中少し息を入れることによる二段構え」ツインターボ「他馬を自身の破滅的ペースに巻き込んだり人気薄を利用して道中息を入れる」といったスタイル等が思い浮かぶが、パンサラッサが確立した大逃げスタイルは、「序盤から一定のハイラップを刻み続け、終盤減速しても粘り続ける」という、これだけ見ると非常にシンプルなもの。


だがそのハイラップは1F(200m)あたり11秒前半台、それが1000m以上継続するのが本馬の特筆するべき点。このラップはマイル1600下手をすればスプリント1200に匹敵するほどで、パンサラッサの得意距離とされる1800~2000の序盤から刻むラップとしては明らかなハイペース。追走しようとした他の逃げ馬達はその破滅的でこそ無いが逃げとしては明らかに速い絶妙なペースに付いていけず、息を入れる暇も無く道中突き放されてしまう。この父ロードカナロアから継いだ高いスピード能力によるハイラップに加えて、本馬はコーナリングが得意という最内経済コースを通れる大逃げにマッチした強みを持つため、後続馬が最終コーナーまでに距離を詰めるのは非常に困難。


「そんな逃げをすれば前述したツインターボのように終盤逆噴射するだろう」と思うかもしれないが、パンサラッサは母父モンジュー由来のスタミナなのか最も得意な1800m以内ならば終盤に入ってもそう極端な失速を起こさない。この粘る大逃げがこの馬の最大の特徴といってよい。

長い直線でも適性距離内であればしぶとく脚を使うことができ、さらに並ばれた場合でも競り合おうとする等、道中刻んだラップに反して異様と言っていいほど終盤でも泥臭く粘る。


そして最終直線時には自身が作り出したハイペース消耗戦に強制的に巻き込まれた逃げ・先行馬は軒並み沈没し、差し・追込馬もハイペースにより十分に息を入れられないせいで満足な末脚を出せず、パンサラッサ自身は減速しつつも十分なリードを利用してゴールしてしまう。

他の馬からすれば放置すれば道中息を入れられたり、物理的に届かないセーフティーリードを稼がれる可能性があり、かと言って競り合いにいけば終盤沈んでしまうため、シンプルながら対処が難しいレーススタイルと言っていいだろう。


そもそも逃げ馬でも道中多少緩めて終盤の直線勝負に挑むのが基本の現代競馬において、「ほとんど道中減速しないで他馬の意を介さず、終盤は切れ味は皆無だが稼いだリードと根性で粘る」という小細工抜きの大逃げを博打では無く戦略として確立させているのは日本競馬史全体においてもかなり異端と言える。


一方で弱点もはっきりしており、

  • 最終直線が長いコースだと自身の強みを押し付けづらく詰められる可能性が高くなる点と、坂ではさすがに失速が顕著な点というところ。
    • 後述のドバイターフや天皇賞(秋)ではこのあたりが良く分かる。
  • 逃げ馬の割にスタートが不安定。得意距離での敗因はスタートに失敗して脚を使わされたことが大半。
    • もっとも、パンサラッサの場合は道中緩めないために結果的に大逃げになるという特殊なレーススタイルであるため、(スタートが他馬と同じ位か少し遅れ気味だと前の馬に付いていくサラブレッドの性質上)2番手が釣られやすく一種の罠として機能することもあり、これはこれで一概に弱みと言えない側面もある。
  • ギリギリを攻めるレーススタイルのためか強みを出せる距離が1800~2000mと幅が狭く、1800mがベスト、2000mでギリギリといった感じでそれよりも長くなると一気に失速してしまう。
    • このため出走レースが限定されてしまうのだが、一方で本人が遠征好きなことと矢作厩舎の積極的なレース選びでダートや海外のレースに目を向けることである程度解消している。
    • なお、これより短い1600mについては(本格化以降出走していないので推測にはなるが)最後ギリギリで粘るという戦法に移行する前にゴールとなって強みを最大限に活かしにくいのではないかと思われる。

このように強みと弱みがはっきりとした馬ではあるものの、裏を返せば得意条件におけるパンサラッサを捉えるのはそう容易な事では無い

本格化したとされる2021年秋オクトーバーS以降、海外GⅠ2勝(同着含む)、国内GⅡ1勝、国内GⅢ1勝、2000m以内はGⅠ戦線含めて連対7回を収めており、その実力は折り紙つきの逃げ馬と言えるだろう。さらに明らかに距離適性外のレースで逆噴射を起こしてもブービーになる事は回避しており、ド根性の粘りっぷりがよくわかる。例として適性より500mも長かった有馬記念をみると第3コーナーあたりからタイトルホルダーに仕掛けられつつも残り400mあたりまでは気合いで先頭を死守しており16頭中13着でゴールしている。


そしてこの相手してかなり厄介な走りをしてなお惜敗が起きているのは、同時期の馬が強敵揃いだったのも大きい。詳細は戦績の項に任せるが、海外遠征時に日本馬が席巻したり、レコード更新が発生したレースが多発した事と合わせてとにかく同時期の日本馬がハイレベルな戦いを繰り広げ、パンサラッサ自身がそのレースを魅せる役回りになった事も数知れず。

パンサラッサが敗戦したレースもタイムを見たら真っ当に勝ていておかしくないタイムになっていた事もあり、「魅力的な競走馬と共に魅力的なレースを生み出し続けた」ことこそが彼の真価かもしれない。


戦績編集

2~3歳(2019~20年)編集

2019年9月、栗東・矢作芳人厩舎からデビュー。新馬戦にはロータスランド、2戦目にはアカイイトがおり勝ち上がりを逃す。また、デビュー当初は後の大逃げスタイルも確立していなかった。3戦目の未勝利戦では不良馬場ということもあり2着馬に2秒以上つける大差で勝ち上がり。


12月にはホープフルステークスに挑み、初めて先頭に立っての逃げ切り狙いを図る。最終直線まで先頭を保ったが力尽きて同厩舎管理馬にして、後の三冠馬コントレイルにつかまり、6着に敗れた。


2020年も年始からもたつきが続き、クラシック三冠路線に乗れず。

6月に条件戦で2勝目を挙げ、7月にラジオNIKKEI賞(GⅢ)で2着に食い込んだことでオープン入り。しかし、そこから中々勝ち上がれず、年末にはダートに挑戦するも結果振るわず。

この頃はオープン戦出走条件ギリギリの収得賞金も災いして抽選漏れにも悩まされており、陣営スタッフは除外されないよう祈りながら得意な重馬場になるよう雨乞いをしていたという。


4歳(2021年)編集

2月の関門橋Sで芝に戻るも惜しい2着。2021年4月の読売マイラーズカップ(GⅡ)では、直前に左前肢跛行(何らかの故障による歩行異常)が見つかり競走除外。約半年の治療休養に入ることになった。


逃げスタイル確立編集

10月、オクトーバーステークス(L)で復帰したパンサラッサは、単機の大逃げを敢行し逃げ切り勝利。鞍上の吉田豊もこのレースが初騎乗であり後年のレーススタイルを確立したのはこの時からと言える。(それまでは鞍上を何度か変えつつも矢作厩舎所属の坂井瑠星がメインで騎乗していた)


11月、福島記念(GⅢ)では菱田裕二を鞍上に高速ペースで大逃げを打つ。追走する先行勢をスタミナ切れに追い込んで脱落させ、差し勢は遠すぎて届かない。2着に4馬身差の快勝で、重賞初勝利を挙げた。

福島競馬場での逃げ切り勝ち、そして青い勝負服。90年代前半に愚直な大逃げでレースを盛り上げたツインターボの姿が重なった競馬ファンは少なくなかったらしく、「令和のツインターボ」のワードがSNS上で飛び交うことになった。

レース内容も、前半1000mを57秒3(1993年七夕賞のツインターボは57秒4)、勝ち時計1分59秒2(ツインターボ1分59秒5)とよく似た逃げ方であった。


年末には有馬記念に挑み、果敢に先陣を切る。本家のツインターボより長く粘ったが、流石に今まで2000mまでしか経験のない中で中山2500mは厳しかったか、ツインターボと同じ13着に敗れた(ただし13頭中の最下位だったツインターボと違い、パンサラッサは16頭立て中の13着だった)。


5歳(2022年)編集

2022年中山記念(GⅡ)から始動。2番人気に推され、1000m57秒6で逃げて自分のレース展開に持ち込み、2馬身半差の快勝。1番人気ダノンザキッドの出遅れがあったとはいえ見事な逃げ切りで、重賞2勝目を挙げた。


ドバイターフ:歴史的大接戦編集

次走は初の海外遠征となるドバイターフ(GI、ドバイ・メイダン競馬場芝1800m)を選択。大阪杯に出て欲しかったという声もあったが、ドバイターフは中山記念と同じ1800m、平坦なコース、枠順の有利不利が少ないなど、パンサラッサにとってはむしろ大阪杯より好条件な部分もあった。

パンサラッサは12番ゲートからの発走となり、一般的に逃げ馬には不利な外枠に入った。しかし矢作調教師は「(メイダン競馬場は)スタートして3コーナーまで距離もありますし、普通の逃げ馬ではないので、枠は問題ありません」とコメントした。

本番では抜群のスタートを切って先頭を逃げるが、戦前に宣言していたほどの大逃げにはならず、「タメ逃げ」に近い形となった(矢作調教師は「ナイターを気にしたのか、思っていたほど行かなかった」とコメント)。それでもかなりのハイペースで、1馬身のリードを保ったまま最後の直線に突入すると先行勢は脱落していく。代わって外から前年度覇者のロードノースが追い縋り、更にその外からは差し切り体制に入ったヴァンドギャルドが馬群の只中から脱出して猛烈な勢いで追い上げ、三頭並んでゴール板を通過。長い写真判定の末、ロードノースとの同着優勝となり、GⅠ初制覇を成し遂げた。

タイムは1分45秒77。ジャスタウェイのレコードには0.2秒及ばなかったが、そもそも今まで1分45秒台に達した馬はジャスタウェイしかいなかった

自らそれだけのハイペースを作りながら逃げ粘ったパンサラッサ、同着という形で史上初となるドバイターフ2連覇を成し遂げたロードノース、ゴール前150mまで馬群に飲まれていたにもかかわらずハナ差3着まで粘ったヴァンドギャルド。歴史的な名勝負と言っていいだろう。


宝塚記念:狂気のハイペース編集

次走は欧州を転戦してイギリスのロイヤルアスコット開催を目指すプランがあったが、ウクライナ紛争勃発などの国際情勢を鑑みて帰国することになり、凱旋レースとして宝塚記念(GI)に出走。距離の不安もあり、オッズはヒシイグアスに次ぐ6番人気となった。


序盤はやや出遅れ両隣に挟まれた上、抜群のスタートを切ったタイトルホルダーと競り合う形となるも、1コーナーに入ろうかというところでスッとタイトルホルダーが競り合いを諦めた事でハナを取り、いつも通りの大逃げをうつ。

競り合った結果1000m通過がなんと中山記念と同じ57.6秒、その後もほとんど緩める気配が無く、結果全馬が消耗し中団以下にいた馬も脱落するほどの凄まじいペースを作り出した。パンサラッサ自身は4コーナーまで粘るも、タイトルホルダーに早めに抜かされ残り1ハロンからも他馬から次々と抜かされ8着に敗れた。


「大逃げで後続のスタミナを摺りつぶす」のがパンサラッサの戦い方だが、タイトルホルダーの持つ3000m以上のレースを逃げ切る無尽蔵のスタミナには通用しなかった。思えば最初の先頭争いでタイトルホルダー側はあっさり引き下がった事も含めてまんまと釣られてしまったとも取れる。こうなれば後続も足を溜めるどころかついていくのが精一杯であり、阪神コースを得意としたタイホに展開を支配されたと言える。


とは言えタイトルホルダーがレコードタイム(2分9秒7)を叩き出す立役者となり、不利な展開で残り1ハロンまでかなりの粘りを見せての8着(9着のステイフーリッシュとは3馬身の差があった)、また先着を許した馬のほとんどがGI連対クラス以上の馬ばかり(マイネルファンロン以外)であったということもあり、実力は示せたと言えるだろう。

また上がり3ハロン37秒4は中山記念のときと比べて0.1秒遅いだけであり、ガス欠というよりはGⅡ級の相手までには通用する逃げが、GI級の相手(それも2000m以上の中長距離を主戦場とする馬たち)には通用しなかっただけとも言える。


ちなみにレース中に関西テレビの岡安譲アナウンサーが放った、

「スタコラサッサとパンサラッサ」

という実況は多くの競馬ファンのツボにハマった。


5歳下半期(2022年)編集


その後は札幌記念へ出走。

連覇を狙うソダシ、ダービー馬マカヒキ、オークス馬ユーバーレーベンなど強豪揃いのレースとなった。


スタートでは少し出遅れ、一度ユニコーンライオンに先頭をとられかけるが、内から前に出て逃げの体制を取る。今回は大逃げというわけにはいかなかったのでもうダメか……と見せかけて実はこのレース、良馬場発表とは裏腹に洋芝かつ連日の雨により直前までは稍重発表される馬場状態であり想像以上に渋っていた。実はこれまで重馬場で好成績を上げてきたパンサラッサにとっては有利な状況であり、後続は脚をとられて次々と撃沈、最終直線はこの悪路を耐え抜いたもう一頭の逃げ馬ジャックドールとの叩き合いに。ジャックドールがわずかに前に出たところで差し返そうと粘ったものの差し返しとはならず、接戦の末の2着。

とはいえ他の馬には先着しており、ジャックドールに抜かれた後もどうみてもバテバテなのにキッチリ食らいついてクビ差2着となったので、GI馬の意地は示せたと言える。



天皇賞(秋):極限の逃げ VS 極限の差し編集

そして秋の大舞台天皇賞(秋)へ。

宝塚記念以来のポタジェ、前走につづきジャックドール・ユーバーレーベンと再び対決となり、さらに前年のダービー馬シャフリヤール、3歳馬からは皐月賞馬ジオグリフ、皐月・ダービーどちらも2着とあと一歩の接戦を繰り広げたイクイノックス、それ以外も出走馬全てが重賞勝利馬という強豪揃いの対決となった。


レース直前:「逃亡者」は誰か?編集

前述の通り出走馬いずれも有力な事に加えてパンサラッサ、ジャックドール、バビットと逃げ馬が複数頭居た事もありハイスピードな展開と誰がハナを取るか?も注目となった。

普通に考えれば極度のハイペース逃げをするパンサラッサがハナを取ることになるのだが、前2走ではスタートがうまくいっておらず先頭を取るまでにしばらく時間がかかっていたため逃げ馬が多くいる今回は先頭を取れないのでは?という懸念も多く見られた。枠順発表でも2枠3番と逃げ馬としては絶好の枠を引いたがこのスタートの悪さとすぐにコーナーに差し掛かるコース形態を不安視され、内だと逆に包まれることになるから真ん中あたりを引いた方がよかったという声もSNS上では上がっていた。

また、直近の秋天はミドル・スローペースが多い(というより長い最終直線と坂等の要因でハイペースだと潰れやすい)中で、パンサラッサを筆頭に強烈な逃げをする馬のハナの取り合いとなればサイレンススズカシルポートなど過去の秋天の強烈な逃げが引っ張るレース展開の予想もSNS等で予想された。

出走前の実況でも


24年の時を超えて、大逃げで秋の天皇賞制覇という結末を分かち合おう!3番はパンサラッサ

~ラジオNIKKEI 大関隼アナウンサーによる実況~


などと馬の名前こそ出さないが露骨に意識したコメントをしている。


そんな中パンサラッサ陣営はというと、前2走でダッシュが付かず敗北した反省からメンコを外すタイミングを早めテンションを上げさせるなど出だしの対策を講じていた。当初の予定ではスタンドの前で外す予定だったが、近走よりピリ付いていたため、ゲート入り直前に外していたのをゲート裏輪乗りの時点で外す程度の変更となった。


レース開始:たったひとりの逃走劇編集

ゲートが開いてスタートが切られる。スタート直後にヨレてポタジェと衝突するものの悪くないスタート。出脚を効かせて前に出るとコーナーワークで競りかけてきたノースブリッジを離し大逃げに出る。

向こう正面に入ると競り合ったノースブリッジも逃げ馬のジャックドール、バビットも番手に落ち着き他の馬もペースを落としていく中でパンサラッサはそんなことお構いなしにペースを上げて突っ走る。実況が順位を振り返っている間にも一頭だけリードが1馬身、2馬身、3馬身…どんどん開き、遂には集団を横から撮っているパトロールカメラから一頭だけ見切れてしまう。1000mを通過する頃には10馬身以上のリード、その動きに観客からもどよめきが出始めた。


「大歓声が沸き起こっている。最初の1000m、57秒4!!」

NHK 小宮山晃義局員による実況~


そして1000mラップタイムはなんと57.4秒!宝塚記念以上の超ハイペースな上に、それはかつてサイレンススズカ1998年の同レースで叩き出したタイムと全く同じだった。単独で後方をどんどん突き放していくその走りとラップタイム表示と共にこれに気付いた観客も少なくなかったらしく、どよめきが大歓声へと変わった。


最終コーナー~ゴール:「逃亡者」は大欅の先へ編集

「さぁパンサラッサ、もう既に欅の向こう側を通過して、これだけの逃げ!これだけの逃げ!!」

「"令和のツインターボ”が!逃げに逃げまくっている!!」

「さぁ後ろは届くのか!?後ろは届くのか!!?このまま、逃げ切るのか?!"ロードカナロア産駒"パンサラッサ!」

「"世界のパンサラッサ"の逃げ!!残り400mを通過しています――!」

~フジテレビ 立本信吾アナウンサーによる実況~


大逃げ馬としての先駆者が超えられなかった第3コーナーの大欅の向こう側を易々と抜け、4コーナーカーブから直線に入った時点のリードは実に20馬身以上!このレースぶりに1987年ニッポーテイオー以来の逃げ切りなるかとスタンドは騒然となる一方、パンサラッサは吉田豊のムチに応えて粘りに粘り200mを切ってもなお5馬身以上のリードを保っていた。

というのも矢作調教師は「直線の長く差し勝負になりやすい府中であれば逆に大逃げを仕掛けても後ろは付いて来にくく、理論上前半57秒台後半59秒台で走れば勝てる」と読んでおり、(パンサラッサの走り自体はそれほど普段と変わらないのだが)まさしくその読みに近いレース展開を作り上げたのだ。

しかし逃げ切るかと思われたラスト200m、後方からイクイノックスダノンベルーガジャックドールが末脚を発揮し一気に猛追。一方パンサラッサは距離適性ギリギリと言う事もあり残り100m付近で失速しだす。それでも逆噴射ではなく粘り続けるが、最後の最後ラスト50mでイクイノックスの豪脚に屈する形で1馬身差の2着に惜敗した。それでもダノンベルーガの猛追はクビ差で退けており、長い直線の府中で、坂を駈け上がって、それでもなお3番手以下を封じ切った逃げの矜持を感じさせる2着であった。


惜しくも敗れたとは言えここ数十年の府中2000mの天皇賞(秋)において逃げて上位3着に食い込めた馬は数えるほどしかおらず、連対(2着)に入ったのもあのミス・パーフェクトことダイワスカーレットのみであるため大健闘の2着と言えるだろう。

あまりにも衝撃的な走りをしたため、レース直後のTwitterトレンドでは勝ったイクイノックスよりも先にパンサラッサの名前が挙がる事態になった。


ちなみに、ラストの上がり3Fタイムは「36.8秒」だったのだが、イクイノックスの上がりは「32.7秒」でその差はなんと4秒。換算すると約20馬身でありGIにおいて1着と2着の間でここまで上がり差が出るのは前例が無く、まさしく究極の「逃げvs差し」の勝負であった。後半1000mのタイムを見ると「60.2秒」であり、イクイノックスとのタイム差は0.1秒であったことから、矢作師の事前の予測通り後半を60秒ジャストでまとめきれていれば勝てた可能性もあった。


なお、サイレンススズカ号と同じペースで前半走った上にレース完走したことで代償が心配される声もあったが、レース翌日ですら怪我どころか何の異常も見つかっておらず、怪我に悩まされたクラシック時代とは打って変わって驚くほどの頑丈さを見せていた。


負けこそしたがド派手な単騎大逃げからの大接戦はパンサラッサの特徴を見せつける印象的なレースのため、後のグッズ販売などでもこのレースの写真が使われる事が珍しくない。


香港カップ編集


年末は香港カップに招待されており、短期放牧を挟んで出走。ジャックドールとは3戦目、他にもジオグリフレイパパレダノンザキッドと12頭中5頭も並ぶ日本馬の1頭として参戦した。

オッズは3番人気。香港現地の猛者ロマンティックウォリアー、鞍上が武豊となったジャックドールに次ぐ形となった。日本での人気の高さもあるが、シャンティン競馬場が洋芝コースに対し、この2頭は同じ洋芝上だった札幌記念で叩き合いを見せている事もあり十分勝ちは期待できた。


レース本番、スタートに出遅れたものの第一コーナーまでには前に出たが、リードは1馬身程度といつもの大逃げとはいかなかった。最内を曲がって最終直線に出たが既にリードが殆ど無い状態ではどうする事も出来ず馬群に沈み、10着と大敗。この距離で着外となるのは初の出来事であった。

距離があまりなかったのは札幌記念と変わらないものの、いつもの粘りが全くみせられなかった。


遠征好きで今回も機嫌がいい様を見せていただけに一体どうしたのか。ドバイや秋天の激走によって海外勢からもやべー奴と認識されており、マークを受けていたのもあるだろうが、それにしてもあっけなさすぎる負け方である。これはパンサラッサが怪我などのアクシデントに見舞われたのかとも思われたが幸いそういったことはなく、次の日には元気な姿が公開されていた。

そうなってくると尚のこと敗因が分からず、レース後の矢作調教師も原因がわからなかったようで「らしさがありませんでした」とコメントを残している。


6歳上半期(2023年)編集

死闘が続いた5歳シーズンの実績により、パンサラッサは「距離適性は1800m~2000m弱」「洋芝などのやや重めの馬場が得意」などの条件が揃えばGⅠを制するだけの力がある事が示された。


しかし困った事にパンサラッサが得意な1800mで行われるGⅠレースは日本中央競馬では11月開催かつダート戦のチャンピオンズカップぐらいしかない。いくら重馬場巧者とはいえ日本のダートはパンサラッサには柔らかすぎる砂地であり、これは厳しいのは師走ステークスの惨敗が示している。

戦績もSNS上での人気も勢いに乗っている今、「1800m」「洋芝などの重めの芝か、それに準ずる柔らかすぎない馬場」の二つに該当するGⅠレースがあるなら是非とも走りたいところ。

また、今年は3月にドバイ遠征して連覇を狙うことになっていたため、そちらへの出走に支障が無い時期が良い。日本に無い以上は海外で探すしかないのだから、賞金も遠征費用込みで国内重賞勝利以上のペイができるものがいい。


とはいえ日本競馬の賞金額は世界的に見たら非常に高水準、オープン戦でも1000万円台の賞金が出るというのは世界規模で見たらそうそうない。海外に目を向けても遠征費用込みで賞金のリターンが返ってきて、名声も勝ち取れる旨味が大きいレースは相当限られる。

そんなパンサラッサの適性と現状の実績に見合う「コース条件」「開催時期」「賞金額」が全て揃った国際GⅠレースが開催されているなんて都合のいい話が……


あるというのだから、運命というものは不思議なものである。



サウジカップ当日まで編集

香港カップ後の2022年12月20日、6歳シーズン(2023年)はまず連覇を狙うドバイターフを大目標とし、その前哨戦としてサウジアラビアの首都・リアドのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われる、世界最高額となる1着賞金1000万ドルを誇るサウジカップ(GⅠ・ダート1800m)へ挑戦することが発表された。

重馬場が得意かつ過去にはダートも経験しているパンサラッサだが、そのダート戦である師走ステークスは11着の惨敗。


一見無謀な挑戦にも見えるが、矢作調教師は前年に「アメリカのダートは芝も走れる馬なら勝てるのではないか」という考えの元、マルシュロレーヌBCディスタフへ送り込み、展開が味方したとはいえ本当に勝ったという実績の持ち主である。そして、この挑戦も実際に2年前の第2回サウジカップで芝馬のミシュリフが勝っているとして日本のダートとは別物と判断(実際、サウジのダートは日本の砂主体、アメリカ及びドバイの土主体のそれと異なり、アメリカのダートをベースにしつつウッドチップを含ませたものである)。

その為決して無謀なものではなく、十分勝ちが期待できるとして注目を集めた。


枠順抽選では1番枠。逃げ馬には好都合な枠だが、ゲートに不安のあるパンサラッサとしては出遅れから前を塞がれて撃沈しかねないギャンブルとも言える枠を引いており、実際、フォーエバーヤングのBCクラシックの際に矢作調教師は当初外枠を希望していたことを明かしている(ただ、ゲートと内ラチの間が日本よりも広いため、危険は少ないのではという意見もあった)。矢作調教師は取材陣に「前に行くのか?」と問われて「それしか考えていない」と解答。むしろこの状況でパンサラッサは前に行かずにどうしろと。


また矢作調教師は前走の敗因を分析した結果、国内での調教が軽く現地でオーバーワーク気味になってしまったことを挙げ、今回は出国前にしっかり調教を行うことになった。(その結果、栗東坂路で4F49秒2というスプリンターばりの猛烈なタイムを叩き出した)



サウジカップ2023:1000万ドルの大逃亡劇編集

そして2月26日、サウジカップ本番。

この年のサウジカップはフルゲート14頭・出走13頭中、日本馬は6頭(海外GⅠにおいては史上最多)が参戦。パンサラッサは現地メディアが称するところの"Japanese Six"の一角として世界最高賞金レースに挑むことになる。日本では馬券発売はされなかったが、海外のブックメーカーからは8番人気に推されていた。

日本勢のこの攻勢は海外でも話題になったが、芝で走っていたパンサラッサやジオグリフまで送り込む状況はやはり海外でも懐疑的だった。(いっぱい出せばいいというものではないということは、前年の凱旋門賞に4頭も出たが泥の如き重馬場に泣かされて総崩れを起こした事からもうかがえる)


そんな評価にあったパンサラッサだったが、レース直前では獅子舞の如く首を振る姿があった。普通なら落ち着きが無いと思われるが、遠征好きのパンサラッサではいつもの事なので勝手知ったる面々にとって彼が絶好調である事がよくわかった。


レースが開始するとパンサラッサは最内枠から今までにないほどの好スタートを決めて逃げを打つ。前傾ラップの消耗戦になるアメリカ式のダート競馬とはいえパンサラッサが普段刻んでいるペースはその上を行くもので、そうやすやすと競りかけることはできない。それをいいことにペースを少し緩め、パンサラッサとしてはそこまで速くない(とはいえ一般的にはかなりのハイペースの)ラップを刻み、リード2馬身ほどで前半を進める。

直線入り口ではリードが1馬身ほどになったが、少しペースを緩めたとはいえパンサラッサからほとんど離れず追走してきた馬群にパンサラッサを一気に交わすような脚は溜まっていはいなかった。ブックメーカーから1番人気に推されていたテイバは序盤からあまりいい手応えではなく最終コーナーでついに力尽きて脱落し、すぐ後ろのジオグリフカフェファラオもジリジリとしか差を詰められず、後方勢は全く動けない。ただ一頭、テイバと同厩で去年のサウジカップ2着・カントリーグラマー(2022年ドバイワールドカップ優勝馬、ランフランコ・デットーリ騎乗)だけが大外から撫で切ろうと猛追してきたが、パンサラッサは持ち前の二枚腰で振り切って1着でゴールイン。


6歳にして日本調教馬及び日本産馬として史上初のサウジカップ制覇という偉業を成し遂げた。

この勝利によって1000万ドル(約13.1億円(※))の賞金を獲得。総獲得賞金は18億円を超え、現役馬の中でも賞金王の座に着くとともに、歴代獲得賞金ランキングでも歴代3位に浮上。1位・アーモンドアイ最多獲得賞金額にもう数千万円というところまで迫っている。それまでの賞金ランキング上位5頭がGⅠ勝利数6回以上ばかりの中、海外GⅠ勝利2回でベスト3に食い込んできたのもパンサラッサの異色ぶりが際立つ。

担当の池田厩務員はこの年で定年を迎える予定であり、最後の年に大仕事をやってのけた。レースを終え引き上げてきたパンサラッサを迎える池田厩務員の顔は、喜びと涙でぐしゃぐしゃになっていた。


なお、2着はアメリカ調教馬のカントリーグラマーだったが、3着カフェファラオ、4着ジオグリフ、5着クラウンプライド上位5頭中4頭を日本馬が占めた。当然、これも史上初の事だった。またパンサラッサ以外の日本馬は鞍上に外国人騎手を起用していた(ジオグリフの鞍上ルメールはJRA所属だが)中、日本人騎手の吉田豊を鞍上に逃げ切ったこともファンを喜ばせた。

アメリカの競馬専門メディア『ブラッドホース』は戦前に「日本から出走する6頭はいずれも実績こそあれど、馬場や距離の適性に疑問符が付く馬ばかりだ」と評したが、レース後には「事実上、中東版のジャパンカップと化していた」と報じた。


勝ちタイムは1:50.80と例年と同程度の決着も、1600m通過タイムは1:36.66と計時されており、これが正確ならば最後の200mは14.14ということになる。

ただし、キングアブドゥルアジーズ競馬場の自動計測ラップタイムはいい加減なところがあり、実際に動画でハロン棒との照らし合わせを行うと最後の200mは13.8~13.9程と思われる。いずれにせよ非常にハードな消耗戦という雰囲気だが、なにしろ普段から芝でも最後の200mを12秒台後半、遅い時では13秒台で走るような馬なので、馬場の差によるスピードや消耗度の違いを考慮すれば普段のパンサラッサとそう大きく変わらないと言えるだろう。

実際、吉田豊は「後続馬があまり競って来ず、ペースがあまり速くなかったのが勝因」と振り返っている。もっとも、「パンサラッサにとっては普段通り」というだけで、それをすぐ後ろで追走してきた馬たちへの負荷は普段のレースでは体験できないレベルのものだったはずだ。


(※)海外レース賞金の円/ドルのレートはその年の1月1日時点の値を基に決定される。もし当日のレートだった場合は13.5~13.6億になり、キタサンブラックも抜き去り歴代2位となっていた。


なお、サウジカップ公式は2023年のサウジカップデー直前に、2022年のサウジカップデーにおける日本馬の大活躍を取り上げて製作した"Jananese Domination"(日本による支配)という動画を公開している。その中で矢作師は「欲張りなので2つ以上勝ちたい」と話しており、実際に1351ターフスプリントを勝ったバスラットレオンと併せてサウジカップデー2勝を達成したのだった。

ちなみにバスラットレオンもこの勝利で芝ダート両海外重賞制覇という日本調教馬初の快挙を成し遂げたが、パンサラッサはその上を行く芝ダート両海外GⅠ制覇を成し遂げた(芝の海外GⅠを勝利した日本馬は多数いるが、ダートの海外GⅠ勝利はこの当時だと先述したマルシュロレーヌとパンサラッサの2頭しかいなかった)。


……余談だが、日本語実況の影響からか、各情報媒体にて「初ダートでサウジカップ制覇!」と報じられ、師走ステークス(11着)が無かったことにされてしまった(惨敗したとはいえ、パンサラッサ唯一の1番人気で出走したレースなのに…)。まあ、師走ステークスは勝ち星から遠ざかっていた2020年末ということもあり、大逃げ確立後の注目度急上昇が凄まじかったということだろう。


サウジカップ後編集

既に連覇のかかるドバイターフの招待を受託しており、ジオグリフらと共にサウジからドバイへ直行。一方で陣営はドバイワールドカップ(GⅠ、ドバイ・メイダン競馬場ダート2000m)の招待が来た場合前向きに検討するとしていたが、3月7日、ドバイワールドカップへの出走が正式に決定したことが報じられた


矢作調教師によると「馬場やメンバー、特にメンバーを考えました。サウジでの走りや、ドバイに移ってからのダートの調教を行ったスタッフの意見なども含め、総合的に判断しました。(レース後も)特に疲れなどもありません」と説明している。

ドバイワールドカップ1着の賞金額はサウジカップに次ぐ700万ドル弱であり、4着以上で日本馬歴代賞金王、2着以上でウィンクスを抜いて世界歴代賞金王を狙うこともできる。


ドバイワールドカップ編集


ドバイワールドカップはサウジとは違うアメリカ式の赤土ダートであり、アメリカからはサウジの雪辱を果たさんとする前年度覇者カントリーグラマー、日本からはサウジカップ超えの8頭が出走予定。日本馬の面々もヴァンドギャルドを除いたJapanese Sixの面々に加え、芝からダートへ転向し快進撃中のウシュバテソーロ、ジャパンカップ勝利まではダート戦を重ねていたヴェラアズール、JRA賞2021年最優秀ダートホースの称号を持ち前年もJBCクラシックを勝利したテーオーケインズとダートの強豪が集う。

さらに今度はパンサラッサにとっては適性距離ギリギリの2000mで、カントリーグラマーにとってはベストな距離である。

サウジではパンサラッサに有利な条件が揃ったレースだった事が勝因の一つのため、彼らからもう一度逃げ切るのはそう簡単な事ではない。


レース前まではメイダン競技場で調整を行う日本調教馬の姿も記事やSNSで取り上げられたが、パンサラッサの注目度は今までの比ではないものとなった。サウジ勝利の熱に加えて勝利した際に起きる事態を考えれば当然の結果ではある。

同じ広尾レースが馬主のバスラットレオンと併せ馬をしたり、去年の秋天で死闘を繰り広げ今年はシーマクラシックに出るイクイノックスと並んで歩く姿なども取り上げられる。


そして3/23に枠抽選が行われた。(netkeiba速報がこちら)

パンサラッサが引き当てたのは15番枠、サウジの最内から一転して大外である。しかもそのすぐ横は海外ブックメーカーの人気ツートップであるカントリーグラマーとアルジールス。パンサラッサは外枠でも不利とは言えない走りをする馬だが、コース条件で相手の方が有利な中で消耗や駆け引きを強いられやすい状況になってしまった。

一方で最有力候補の馬が軒並み外枠に並んだため、内枠に入ったほかの馬が出し抜くチャンスも発生しやすい。良くも悪くも「どうなるかわからなくなってきた」という状況。


前日までのオッズは国内と海外で大きく異なる。前日15時頃時点では日本国内ではカントリーグラマーとほぼ互角の約3倍の1番人気だが、海外では9倍ほどでカントリーグラマーやアルジールスに大きく離され、記録によってはウシュバテソーロやヴェラアズールの方が人気が高いものも見られる。

19時頃となると国内もカントリーグラマーへ評が傾き2番人気に落ち、海外では他の日本ダート馬に人気が集まりだした。

国内は歴代世界賞金王への期待が非常に大きかったことがよくわかる。


国内オッズ

海外オッズ


そしてレース当日、大外から全力疾走でハナを撮りにいくが、今回はスタートダッシュはサウジのようにはいかず、最内をリモースに取られたままコーナーへ。向こう正面でもリモースに競りかけられて最内に入ることが叶わず、序盤に足を使わされた事もあり第3コーナーでリモースに先頭を取られ、そのまま馬群に沈んで10着。賞金積み増しとはならず歴代賞金王の座はお預けとなった。


大外スタートからの一完歩目の遅さに加え、初速を補うために足を使い過ぎたのに最内が取れず、適性距離ギリギリの中で消耗が嵩んでしまった。前年のドバイターフとは違い、リモースなどからマークを受ける立場だったこともある。こうなると赤土ダートの適性どうこう以前に、パンサラッサの弱点が露呈してそれのリカバリも出来ない状況であり、サウジカップでの強みを最大限に活かしたレースとは対照的な結果となった。


矢作調教師はリモースにマークされたことについて「逃げ馬の宿命」「サウジCを勝っていることもあるけど、クレイジーな競り方をしてきた。けど、これも競馬です」とコメントした。


ただ惨敗するにしてもただでは負けないのがパンサラッサで、最初の1000mを60秒を切る芝の如きハイラップで攻めた。その結果終始競りかけてきたリモースも撃沈して9着、前年度覇者カントリーグラマーも7着と道連れにされている。

そしてパンサラッサとは逆に最後尾から豪脚で追い上げてきたウシュバテソーロが1着を射止めた。


ウシュバテソーロと最終直線で併せ馬で上がってきたテーオーケインズも4着でゴール。この3頭は全て20世代であり、まるでチームプレーの如くウシュバテソーロの勝利を牽引する事になった。

ちなみにパドックでも元気一杯なパンサラッサに対し、ウシュバテソーロはいかにもやる気なさそうにダラダラ入場する馬として有名である。さらに余談だが、パンサラッサの名前は海が由来なのに対し、ウシュバテソーロは山が由来である。


ドバイワールドカップ後編集

ドバイワールドカップ後の4月1日、矢作調教師はパンサラッサについて今春を全休すること、そして恐らく今年一杯で現役を終えることを明らかにした。

矢作調教師は「春に使うことはありません。おそらく(現役は)今年いっぱいだと思うので、秋にどういう路線を行くか。海外、国内と選択肢はいろいろとある。じっくり考えていきたい」とコメントしている。


その後の4月25日、矢作調教師はパンサラッサの次走について、8月2日にイギリスのグッドウッド競馬場で行われるサセックスステークス(GⅠ・芝1600m)とすることを発表した。

本格化以降では初のマイル戦となる。矢作調教師はこれについて「サセックスSに関しては、どこかでマイル戦という考えがありました。さらにマイルに使うなら、タフなマイル戦を使ってみたかった。昨年、バスラットレオン(4着)でタフなマイルということは分かっていますからね。いろいろな条件、レースの格などすべてを含めて決めました」と説明している。

また、サセックスS以降は体調次第で8月23日にヨーク競馬場で行われるインターナショナルステークス(GⅠ・芝2050m)に転戦するプランが視野に入っていた。


…しかし、6月にパンサラッサは右前脚に繋靭帯炎を発症。遠征の予定は取りやめとなり、秋へ向けて長期の休養へと入った。


6歳下半期(2023年)編集

レース選択:彼は何処へ向かうのか、どう戦うべきなのか。編集

故障は幸い軽度のものだったとのことなので、当初は10月25日、12月に中京競馬場で行われるチャンピオンズカップ(GⅠ・ダート1800m)で復帰することが発表された。

矢作調教師は「(放牧先の)牧場サイドから天皇賞・秋でも、という話もありましたが、大事を取って、左回りや距離を考えてこのレースに決めました。これだけの馬ですし、非常に慎重に考えての決断です。」とコメントしている。

ただ海外ダートで勝っているパンサラッサだが、今回はそれとは違い砂主体の国内ダートとなる。先述したように国内ダートでは11着と惨敗しているので、そこがネックとなるとなるだろう。矢作調教師も「日本のダートは海外のダートとは違うので、100%の自信とはいきません。やってみないと分からないと思っています」とコメントしているため、慎重に準備が進められていた模様。


…と思いきや、後にジャパンカップへの出走登録をして両睨みの体勢となり、最終的にジャパンカップを選択した。

これまで矢作調教師が「賞金をたっぷりぶんどる」というスタンスでサウジやドバイを選んで結果を出してきたが故に、1着賞金が5億に引き上がったジャパンカップの一発を狙った、と言う事もあるだろう。

しかし明らかに距離適性より長い2400m、しかも宝塚記念と同じくタイトルホルダーディープボンドが出走、その上で最有力馬候補は前年秋天以来の対決となるイクイノックス、そして三冠牝馬リバティアイランドという凄まじい対戦カードに飛び込む事となった。


2000mを超えるレースにおけるパンサラッサ戦績はいずれも着外の惨敗。この選択に疑問の声が出ないはずがなく、「距離が合うチャンピオンズカップより勝ち目は薄いのでは?」という評価がSNS上では挙がった。

しかし陣営も何も考えずに選んだわけではなかった。その最大の理由は――


パンサラッサは自分の走りをしたほうがいい


距離が長いという事は百も承知、だがチャンピオンズカップの方が勝てるかと言われると実はそうでも無いのだ。

これまでの敗戦を振り返った中で「第一コーナーまでの距離が短くてハナを取る前にコーナーに入る」という要素があった。この条件に当てはまる中京競馬場1800mかつ慣れない砂ダートで挑むチャンピオンズカップは、出足が遅めのパンサラッサではドバイと同じように先頭を取れずに撃沈する可能性が高かった。それならば、第一コーナーまで距離があるためスタートダッシュで遅れてもしっかり前に出やすい東京競馬場のほうがいい。

何より、ドバイにしろサウジにしろ「そんなことができるのだろうか」と周囲が懐疑的であった状況に挑み、不可能を可能にしてきた。彼ならば、やってのけるかもしれない。

かつて自分を打ち負かした果てに万能の天才へと変貌したイクイノックスが待ち構える戦場だろうと、唯一無二の戦い方で挑む。その挑戦から逃げない事こそが、パンサラッサという希代の逃げ馬の在り方なのだ。


ジャパンカップ:どこまでも「パンサラッサ」らしく。編集

迎えた当日の単勝オッズは7番人気。不安要素もなんのそのと言わんばかりの人気を集めていた。

午前中から雨が降ったり止んだりの不安定な天気だったがレースの際は止んでいた。馬場は良馬場とあるが先の雨で若干だが渋っている。パンサラッサにとって最も得意とする状況だろう。

スタートするや否や内枠に居たタイトルホルダーに目もくれずに全力疾走。勢いに乗って向こう正面に立ったパンサラッサはハミを取ってさらにペースを上げていく。

こんなペースでは終盤の逆噴射は必至。吉田騎手はここでスタミナ切れを考慮してペースを落とすかと考えた。しかし最終的に選んだのは――


「アクセルとブレーキを両方同時に踏んでいるような形になってしまうと思ったので、抑えるのはやめました」(吉田騎手、後のインタビューにおけるコメント)


最後まで、パンサラッサと言う馬らしく走る事だった。

その結果、パンサラッサは最初の1000mを57.6秒という異常なまでのハイペースで爆走した。ちなみに2000m戦の秋天でのジャックドールの100mラップが57.7秒である。常識的な馬なら2000m未満のマイル戦のペースを2400m戦でかますという文字通りの暴走ペースだが、それは文字通り「パンサラッサらしい走り」だった。

宝塚ではピッタリ張り付いたタイトルホルダーも流石にこんなペースに無理に付き合わずミドルペースを維持。タイホに張り付く形となったイクイノックスリバティアイランドが後続集団を形成。その結果、まるで去年の秋天の焼き直しかのような単騎大逃げが展開され、会場を沸かせた。

最終直線に出た時点でなお10馬身以上のリードを確保、さらにこれまで1800mで失速する傾向にあったはずが今度は2000mを超えてもその様子が見えない。「これならいけるか!?」と期待させるようなラストスパートだが、流石に残り200mで限界が訪れ脚が止まってしまい、イクイノックスに捕まった。その後は後続馬に次々と抜き去られながらも最終的に12着。


着順だけでなく獲得賞金ランキングでもイクイノックスに捕まる形となったが、どこまでも「大逃げに全てを賭けた走り」貫き通す大往生の走り。それでもあっさり抜かれるのではなくラスト200mというあと一歩までハナを保ち続けた上で18頭中12着。

しかもそのタイムは2:24.0は歴代のジャパンカップ勝利馬と比較しても半数近くを蹴散らしていたであろうタイムである。具体的に言うとコントレイルがラストランで勝利を納めた際のタイム2:24.7であり、それでも12着と言う結果はこのレースがどれほどハイレベルな戦いだったかを象徴するものだった。

あまりにも鮮烈で、負けてもなお強さと魅力を見せつける、パンサラッサという馬の在り方を貫いた結果に、順位結果だけ見れば惨敗にもかかわらずSNSではイクイノックスとトレンド入り争いを続けるほどだった。


レース後に矢作調教師は「道中もう少しハミが抜けてくれればね…でも悔いはない。もともとここが最後だと思っていましたが、進退はオーナーと相談して決めます」と話した。

年齢や故障もあり当年での引退は十分考えられたが、11月27日に広尾レースから正式に「本レースをラストランとする方向で諸々調整を進めていくことになりました」というコメントがあり引退する方針がほぼ確定

そして11月28日、引退が各メディアによって報道された。矢作調教師は引退に際し、「レース後も問題はありません。最初から年内で引退と考えていたし、いい引き際なのかな、と。欲を言えばキリがないですから。(パンサラッサには)本当に勉強させられました。馬というのは分からない。(同厩で2020年の無敗の3冠馬)コントレイルと同じ世代で、素質は全く違うと思っていたのに、ここまでの馬になるとは想像もしていませんでした。ファンの多い馬だったし、自分にとっても個性的な逃げ馬を作りたいという思いを持っていました。作ろうと思っても、作れるものではない。それは彼の資質だったと思います。心に残る馬でしたね。終わりだと思うと、グッとくるものがあります」とコメントした。

また、中盤以降の主戦騎手を務めた吉田騎手も、ジャーナリストの平松さとし氏の記事

「最初に乗ったのが21年の10月だから、僅か2年ほど前に過ぎません。でも、ドバイやサウジアラビアで勝たせていただき、天皇賞や香港、最後はジャパンCにも乗せてもらえました。濃密な時間だったせいか、2年よりももっと長く一緒に戦った感覚があります」

「大久保洋吉厩舎に所属していた頃ならワンチャンこういった馬に出合ってGⅠへ挑めた可能性もあったかもしれませんけど、フリーとなった現在、こんな素晴らしい馬と出合えて、沢山チャンスと思い出をいただけたのは奇跡に近いです。残りの騎手人生も限られてきた中で、漢にしてもらえました。オーナーと矢作先生、そして、パンサラッサには感謝しかありません」

と、パンサラッサへの感謝の言葉を述べている。

今後はアロースタッドで種牡馬入りの予定。なお、引退式も行う方向で調整されているとのことである。

また、12月1日には南半球とのシャトル種牡馬としても供用されることが発表された。どうやら種牡馬入り後も大好きな遠征は続けられそうである。


同年12/23に中山競馬場で引退式を予定していた…のだが、感冒により1/8へ延期。とどのつまりは「パンサラッサが風邪を引いたので延期」となったのは、馬の体調が大事とはいえ絶妙に締まらないのはパンサラッサらしいというかなんというか…。

そして、日を改めて2024年1月8日。中山競馬場にてパンサラッサの引退式が執り行われた。

池田厩務員と矢作調教師に手綱を引かれ、サウジカップ優勝記念の馬着と矢作厩舎の紅白メンコに身を包んで登場。

いつものレース前かの如く首を振り、駆け付けた吉田豊騎手やファンに見守られ、ターフに別れを告げた。

矢作師は、パンサラッサについてコントレイルと比較し「努力の馬」と形容。産駒に期待することは何かという質問には「やはり……イクイノックスの子供を負かしてほしいです!」とコメントし、ファンから拍手が起きた。。

また、引退式では競馬ソングライター/馬歌クリエイターのブルーノ・ユウキ氏作詞、作曲の「パンサラッサの歌」も披露され、陽キャと言われるパンサラッサらしくコールアンドレスポンスも飛び交うにぎやかな引退式となった。

そして、このパンサラッサの歌の歌詞には、こんな一節がある。


 行け!パンサラッサ! 

 世界を作るのは君だけ! 

 そのまま!パンサラッサ! 

 どんな明日を見せてくれる? 


2022年まではネタキャラとしてのイメージが強かったが、サウジカップ勝利後は中東GI2勝と現役賞金王という二つの看板を背負った日本を代表する馬の1頭として注目されるようになった。それはマークがきつくなるということであり、現にドバイでは全力でパンサラッサを潰しにかかってくる馬も現れた。

次世代の強敵が集った時代に覚醒し、強敵に挑み続け、そのレーススタイルから「コイツは何かやらかす、やってのけかねない」と期待させ続け、確かな結果を叩き出した。

馬柱だけ見ても尖った部分が見えるが、彼の魅力はそれだけでは語りきれないものを多く秘めていた。勝とうが負けようがレースに出れば彼は常にSNSで話題を集め、これからもその記録と記憶が長く語り継がれる事は想像に難く無いだろう。


最後まで自分の形を貫き、清々しく駆け抜けたパンサラッサの現役生活。今後は種牡馬として新たな海域へと挑むこととなる。未だ見果てぬ大海と嵐の先は、彼の魂を継ぐ産駒がきっと見せてくれるだろう。血統的にも非サンデーサイレンス系の種牡馬である為、需要も高いと推測される。

願わくば、彼の物語をその産駒たちが語り継がんことを…


種牡馬成績編集

初年度の種付け料は300万円。アロースタッド内ではカリフォルニアクロームモズアスコットに次ぎ、ビッグアーサーと並ぶ3位タイ。なおフリーリターン特約(受胎した牝馬が11月以降に流産・死産もしくは生後30日以内に死亡した場合翌年か翌々年に無料で種付けができる制度)は付与されていない。


初年度2024年シーズンの種付け数は54頭。日本国内で扱うにはピーキーな適性などが祟ってか現役時代の話題性に比べるとやや大人しい数となったが、日本だけでなくオーストラリアなど海外でも種付けしているため、今後の産駒の活躍は国内外問わず注目してゆくとよいだろう。


異名編集

本格化した後の大逃げという個性的なレーススタイルに加えて成し遂げた偉業から、本馬は様々な二つ名で呼ばれている。過去の大逃げ馬と重ねた二つ名にせよ、パンサラッサ自身の実績に基づく二つ名にせよ、まだまだ増えそうである。


福島記念を制した直後は、勝ち方があまりにもそっくりだったことからこう称された。

次走の有馬記念や翌年の宝塚記念でも「適性距離外ながら人気投票により出走→レース道中は先頭で大逃げ→4コーナーで撃沈」といったこれまた本家を彷彿させる潔い走りを見せたことで一時定着した。この呼び方は2022年の天皇賞(秋)においても実況から呼ばれる等、この馬の走りを一言で表現する2つ名と言える。


なお、これまで数々の名実況を繰り出してきた関西テレビアナウンサーである岡安譲は「令和のツインターボ」という呼称を自身も使うこともあるものの、天皇賞秋2022の名レースを機に封印したい旨をこぼしていた(外部リンク)。

また、ファンの間でもパンサラッサが中山記念(GⅡ)を勝ったあたりから「既に実績ではツインターボを追い抜いているため引き続きこのように例えるのは如何なものか」といった感じな議論が起こることも。


  • 世界のパンサラッサ

2022年に入るとその本家ツインターボがなし得なかったGII(ツインターボが勝ったオールカマーは当時GIII)、更には海外GIのドバイターフを制したことから、上述のような感じでもはや「令和のツインターボ」に収まる器ではないと認識されるようになり、海外GⅠを勝ったことも相まっての二つ名を襲名する形でこちらの異名が使われるように。

上記の秋天における立本氏の実況も最初は過去の馬にも関わる呼び名を出しつつ最後は「世界のパンサラッサ」という彼自身の異名へとつなげるという印象的なものとなっている。


  • 令和のサイレンススズカ
  • 24年前の夢の続き

天皇賞(秋)ではあのサイレンススズカを彷彿とさせる大逃げおよび完全に一致の1000mラップタイムから、「24年前の夢の続き」と称されている。実況の立本氏もレース直後の振り返りで「57秒4ですか…」とタイムに言及しつつハイペースになった展開を語るなど、名前こそ出さなかったが想起するものがあった事がうかがえる。また、競馬の総合ポータルサイトnetkeibaの公式Twitterアカウントも「24年越しの大逃げ成就!」という文言を準備していたとレース後にこぼしていた(該当ツイート)。

ただし、レーススタイルのところでも先述した通り、同じ大逃げでもパンサラッサのそれはスズカの「逃げて差す」とはまた別の走り方である。レーススタイルで見るとスズカに近いのはジャックドールの方である。実際に2022年上半期に好調だったころのジャックの呼び方として使われている為、「令和のサイレンススズカ」はジャックの方の呼び方としての方が定着しているだろう。


  • 中東魔王

ドバイとサウジでGIを制したことから、香港巧者として知られたエイシンプレストンの異名「香港魔王」にちなんで。


  • 石油王

石油地帯として有名な中東開催のGIを2勝したことで歴代賞金ランカー入りを果たした事から、「大王(祖父)」「龍王()」に続ける形で。これは流石にネタ路線である。


  • 海王

上記と同じく父や祖父にかけつつ、「海」にちなんだ二つ名。


  • 海賊王

上記同様に名前をもじりつつ、世界に飛び出してサウジカップ1着賞金1000万ドルというお宝を掻っ攫ったことから。


  • 世界に追われる逃亡者

ドバイから帰還後の宝塚記念にて、出走前に実況者から呼ばれた。その後サウジカップを制したことで重みが増したと言える。


  • 令和の変態

日本史上初の海外GI芝ダート両制覇を達成したことから、国内GⅠの芝&ダート+海外GⅠの芝で勝利し、そのオールラウンダーぶりで「(褒め言葉的ニュアンスとして)変態」と呼ばれたアグネスデジタルにちなんで。良いんだか悪いんだか分からない名前だが、性格やレーススタイルからコメディリリーフ的なイメージも強かったパンサラッサらしいといえばらしい。


香港名が「本初之海」、主戦騎手が「吉田豊」という事から、香港の一部で呼ばれていると言う噂がある。


その他編集

名勝負メーカー編集

大逃げに覚醒した後のパンサラッサのレースは、レーススタイルそのもののド派手さも相まって見ごたえのあるものが多い。

大逃げというスタイルからハイスピードなレース展開を作るため、当のパンサラッサの勝敗を問わずレコード更新を発生させるレースを多く生み出している。


そんな状況でパンサラッサを相手取る馬は生半可なスタミナや立ち回りではスタミナを摺りつぶされてしまうので、必然的にラストスパートでは的確なペース配分とそれを成し遂げる地力を発揮して食らいついてきた馬と、その追撃を振り切ろうとするパンサラッサの対決を見せる事となる。


事実、2022年宝塚記念、札幌記念、秋天の結果を見ると掲示板入りした馬はほぼ人気上位で埋まる堅い結果となっている。順当といえば順当だが、ペースを保てない馬はスタミナをすり潰されてしまうので結果的に馬の地力が露わになりやすいのもこの結果の一因かもしれない。

さらにスタミナ切れでバテバテの状態になりながらも前述の「粘る大逃げ」を発揮するため、あっさり抜き去られて沈むような負け方は少なく、札幌記念でのジャックドールとの叩き合いのように後方からの猛追にギリギリまで粘り続けている。

距離が長いレースで力尽きかけてもブービーにはならずにキッチリゴールにたどり着くなど、タダでは負けない底力で「最後まで勝ちにいく」レースを見せてくれるのもパンサラッサの魅力と言える。


特に2022年秋天はド派手な逃げvs驚異的な末脚というわかりやすい構図と過去のレースを想起させる展開により当年屈指の名レースとの評価も少なくない。


吉田豊と大逃げ編集

大逃げ覚醒後のパンサラッサの主戦騎手となった吉田豊氏だが、彼は1998年の秋天にてサイレントハンターに騎乗、サイレンススズカが故障するまでは2番手で走っていた。

つまり彼はサイレンススズカ自身に乗っていた武豊を除けば、最も近くであの悲劇を目撃していた人物でもあった。

24年という月日を経てパンサラッサを相棒に彼自身が秋天で大逃げを披露したが、向こう正面からはパンサラッサに任せて走っていたという。


このような因縁と状況の中で1000mのラップタイムやパンサラッサ以外がスローペースだったことによる強烈な引き離し、ラスト100mほどまでは失速する事なく粘り続けて2着でゴールしたその姿から、「あのレースでスズカが故障しなかったら」と二つのレースを比較するファンも少なからず発生した。

勿論パンサラッサとスズカには縁が無く、同じ逃げ馬とはいえレーススタイルも異なっているため一概に比べるわけにはいかないが、多くのファンを魅了した馬であることは(ツインターボも含めて)同じと言える。


また、上述のサイレントハンター含め吉田豊は逃げの名手としても知られ、その思い切りのいい騎乗を矢作調教師も高く評価していた。更に2004年に吉田豊がドバイへ遠征した際に矢作調教師と共に行くなどの長年の交流もあって海外遠征での騎乗も迷わず吉田豊を指名したらしい。

このような数多くの巡り合わせでパンサラッサの大逃げは完成していた。


コントレイルとの関係編集

パンサラッサの同期といえば20世代であり、その世代の代表馬といえば無敗三冠馬のコントレイルだが、パンサラッサとは同じ矢作厩舎所属という縁がある。


しかし両者はちょうど活躍する時期が入れ替わりになっているということもあり(パンサラッサが福島記念を勝った2週間後にコントレイルはジャパンカップを勝って引退した)、2頭の現役時のエピソードは思いの外少ない。

一応デビューの時期はほとんど同じだったため新馬戦前の調教で並走したことがあったり(新馬調教とはいえコントレイルに先着したこともあったらしい)、2歳GⅠのホープフルステークス菊花賞前の神戸新聞杯で2回対戦経験があったりする。


しかしこの頃のパンサラッサは未勝利戦を抜けただけでなんとかホープフル出走に滑り込んだり、神戸新聞杯ではギリギリオープン馬になってはいたもののパンサラッサにとっては距離適性より長い2200mのレースになるなど決して有力馬として参戦した訳ではなく、後に賞金不足でレース除外を何度か起こすことになる一介の競走馬にすぎなかった。

一方でコントレイルは無敗記録を伸ばしつつ、クラシック王道路線を邁進、最終的に菊花賞も勝利し無敗の三冠馬になるなど2頭を取り巻く環境は違っており、当時は同厩舎であることを語られたり盟友やライバル関係とするような声は少なかった。


一方で4歳シーズンは2頭とも故障で春夏を休養し、秋になってパンサラッサは吉田豊騎手との出会いによる大逃げ覚醒と初重賞勝利、コントレイルはラストランを勝利して勇退という結果を出した。

同じ場所からスタートした2頭が「親子二代で無敗のクラシック三冠」と「海外の芝・ダートGⅠ二刀流&賞金王」という全く異なるベクトルの歴史的大偉業を成し遂げ、活躍時期が異なる事もあって双方が世代を象徴する馬として認知される程の存在となったのは、不思議な縁を感じざるを得ない。

お互いの名前の意味も「飛行機雲」と「巨大な海」という対比が出来上がるのも興味深い。


箱根のパンサラッサ?編集

ドバイターフ勝利や秋天の大逃げで2022年の競馬を彩ったパンサラッサだが、年明け2023年1月2日に突如としてTwitterトレンドに急浮上した。

というのもこの日開催された箱根駅伝の1区(スタート直後)で関東学生連合の新田楓選手が派手な大逃げで先頭に立った後、3位でタスキを繋げたのだ。

その流れもあっという間にガス欠ではなく粘り続け、1区終盤のラスト1kmほどで明治大学の富田峻平選手と駒澤大学の円健介選手が差という流れがパンサラッサが走った秋天の流れと酷似していた事からネタになった。

実態としては学生連合は順位が記録されないオープン参加のため、無理に追いかける必要がなかったが故に放置されていたのだが(競馬でいうところのカラ馬と同じ)、それだけ秋天が印象的なレースだった事を示していたと言える。


ウマ娘関連編集

2024年現在、ウマ娘化はされていないが。いくつかエピソードが出ている


2023年2月24日、ウマ娘プリティーダービーの2周年記念にてツインターボが実装。アニメSeason2の劇中での活躍などからキーパーソンを担ったことで、長らく実装を待たれていたが、アニメ放映とアプリサービス開始から実に2年、ゲーム内でレース中のNPCとして登場してからも1年の間を開けた満を持しての実装となった。


……これだけならパンサラッサには一切関係ない話なのだが、そんなツインターボの育成シナリオのグッドエンディングのタイトルは○○のツインターボ。詳細リンク先を見てもらえばわかるが、そこで描かれるレースはどう見ても第166回天皇賞であり、実装当日はパンサラッサとイクイノックスがTwitterのトレンド入りを果たした。


そしてこのツインターボ実装の約39時間後には、パンサラッサが出走するサウジカップが開催され、見事にパンサラッサが勝利した。

運命的な何かを感じさせるようなあまりにも噛み合いすぎた奇跡のタイミングにより、この歴史的勝利はウマ娘ファンにとってもお祭り騒ぎとなった。


2023年にはグラスワンダーの声優である前田玲奈が、自身が連載していた夕刊フジのコラムで「私はパンサラッサの母。記憶はないが、いつの間にか産んだ」と投稿して話題となった。なおパンサラッサの実の母馬はミスペンバリーで、実馬のパンサラッサとグラスワンダーとは血統を辿ればノーザンダンサーに繋がるくらいの関係である。



本当に大逃げをしているのか?編集

パンサラッサは大逃げ馬として多くの競馬ファンに認知されている。しかし、実際に大逃げと呼ばれるような後続を大きく引き離す逃げを打ったことは天皇賞(秋)とジャパンカップの2回しかない。


というのも、思い切った逃げを始めた福島記念から毎回普通なら大逃げになるようなペースで逃げているのに何故か後続馬が追走してくるためである。それも1頭や2頭ではなく複数頭がばらけて追走してくるため、ラップタイムを見なければ縦長の展開程度にしか見えない。

勝利したドバイターフ、サウジカップもどちらも前半1000m推定58秒台と普通に大逃げになりうるハイペースを刻んでいるのだが後続が全頭付いて来たが為一団の溜め逃げ、と言った形になっている。


こうなった要因としては、

  • スタート自体はそこまで速くないため2番手以降が序盤に付いてこれてしまう
  • 重賞勝利、GI制覇などを経てパンサラッサ自身が有力馬となって以降は、他馬が大逃げを警戒するようになった
  • また、この時期はパンサラッサの他にもタイトルホルダーやジャックドールなど有力な逃げ、先行馬が数多く活躍しており、そういった有力馬がパンサラッサに張り付くと自ずと後方馬も前目にマークせざるを得ない

などがありこれらの複数の要因がそうさせていたと考えられる。


実例として、

  • 中山記念ではパンサラッサ自身が有力馬として出走。序盤はそこそこのスタートだったことと逃げ馬が複数出走したこともあって先頭のパンサラッサに2頭が競りかける形に。それに対してパンサラッサは一切譲らず熾烈な前争いを繰り広げ、更に後ろの2頭の先行馬を含む計5頭が前目にいる展開で1000m通過が57.6秒に(なんでそんな展開で勝てるのか…)。
  • 宝塚記念ではパンサラッサのスタートが決まらず序盤が割合遅めになったことに加え、普段は逃げ馬のアフリカンゴールドタイトルホルダーが前方でマーク、更に有力馬だったタイトルホルダーをマークする形でディープボンドウインマリリンヒシイグアス等が追走し、出遅れたパンサラッサを中心に有力馬が前目で競りかける格好になり馬群全体のペースが引き上げられた結果全頭がこのペースに付き合うことになり最後方の馬も1000m通過が1分を切るという2200mのレースとしては異常な展開に。
  • サウジカップでは本来差し馬のジオグリフ(鞍上:クリストフ・ルメール)すらパンサラッサを警戒して番手追走。
  • ドバイWCではサウジカップ制覇により日本馬はおろか海外勢からも更に警戒された結果、本来逃げ馬ではないリモースがパンサラッサに競りかけて潰しにかかり、他有力馬もパンサラッサを全力マークした結果全体が強烈な前傾ラップ展開に。

といった具合。


もちろんそんな無茶な追走をした馬はよほど優れた追走力がない限り脚が上がってしまい後退していく。実際にパンサラッサが出走したレースは当のパンサラッサを除くと中団、後方の馬が差してきて馬券内を占める展開が多く、2番手3番手で追走してきた馬は軒並み馬券外、掲示板外となっている。最終直線に入る前に沈み始めて2桁着順となることもしばしば。


例外にあたる馬はタイトルホルダー(宝塚記念)位しかおらず(近くで追走はしていないため少し話は変わるがイクイノックス(ジャパンカップ)も3番手追走で勝利している)4,5番手あたりまで広げてもジャックドールウインマリリン(共に札幌記念)、カフェファラオ(サウジカップ)などG1級の馬しか馬券内に残れていない。

上で挙げたドバイWCでもハイラップに付き合った馬は(その展開を作り出したパンサラッサや前年覇者カントリーグラマー含めて)壊滅、といった展開を生み出している。


しかしながらパンサラッサを好きに逃げさせることも危険すぎるため、安易に控えることもできない。ジャパンカップのタイトルホルダーや天皇賞(秋)でのバビットのように2番手以下をスローに落とし込む馬がいなければ大逃げにはならない可能性も高い。

大逃げは1頭で作り上げるものではないのだ。


関連イラスト編集

パンサラッサ世界の果てまで



実馬・ウマ娘問わずサイレンススズカツインターボと絡ませたファンアートも少なくない。


大欅の向こう側へ世界の逃亡者


関連動画編集

パンサラッサの歌(作詞、作曲ブルーノ・ユウキ)

ちなみに、この曲はまるで逃げ馬であるパンサラッサをイメージしたような歌詞となっているが、製作されたのはパンサラッサが大逃げに目覚める前の2歳のころだったという。

引退式では矢作調教師もそのことに言及し、司会者から「予言の歌だったのかもしれませんね」と評された。


関連記事編集

競走馬 20世代 逃げ馬

第166回天皇賞

ツインターボ…こちらも福島と中山の重賞を勝利している逃げ馬。いわゆる「逆噴射」を起こしやすい不安定さを常に抱えていた。逃げのスタイルは似ているが、終盤で逆噴射を起こさないパンサラッサはツインターボの上位互換と言われることも少なくない。


サイレンススズカ…「『』を相棒に大逃げスタイルを確立したG1馬」という共通点を持つ。最期のレースとなった秋天の1000mのタイムがパンサラッサのそれと全く同じだったこともあり、レース後にTwitterでもトレンドに挙がった。

 

日高逃げ馬三銃士

  • ジャックドール…同時期に活躍し実際に対決もした逃げ馬。こちらは先頭を取りつつも終盤までじっくり溜める「逃げて差す」スタイルでありパンサラッサとは真逆の逃げ戦術。

 

  • タイトルホルダー…こちらも同時期に活躍し実際に対戦した逃げ馬(対戦成績は3戦0勝)。急→緩→急とペースを切り替えて脚を溜めつつ逃げ切るまた異なる逃げ方を行う馬であり、無尽蔵のスタミナと合わせて世代最強の称号を勝ち取った。

アーモンドアイ……2022年時点の日本馬歴代賞金王。パンサラッサとはロードカナロア産駒繋がりである。


ジャスタウェイ(競走馬)……2014年ドバイデューティーフリー(現ドバイターフ)勝ち馬。パンサラッサとは真逆の差し・追込み馬だが、同じレースをきっかけにネタ馬から名馬へ大出世したこと、名馬になった後もネタ要素が無くなったわけではないこと(パンサラッサは遠征好きやレース前の入れ込み、ジャスタウェイは名前の由来ヤバい奴と親友であるなど)といった共通点や、パンサラッサがドバイでジャスタウェイ以来の1分45秒台を叩き出したことから、パンサラッサの話題でたまに名前が挙がる。


カツラギエース…パンサラッサ同様大逃げ戦術を得意とする競走馬。『同期に三冠を制した競走馬がいる』『2000mのG3と1800mのG2を1勝ずつ、G1を2勝している』『日本馬で初めて国名を冠した国際G1を勝利している(双方施行回数が4回目)』と共通点が多い。

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